[P1-B-0348] 専門学校における現役入学生と非現役入学生の学習動機の推移(第2報)
キーワード:学習意欲, 教育環境, 教育方法
【はじめに,目的】
理学療法士・作業療法士養成校は大学・短期大学・専門学校に分けられるが,社会人経験者や他学部の大学・大学院等を卒業もしくは中退した後の入学生(非現役生)は専門学校に多く見受けられる。クラス内に種々の経験を持った幅広い年齢層の学生が混じり,お互いに影響を与える環境は専門学校の大きな特色の1つだと考えられる。そこで我々は,非現役生と現役入学生(現役生)の学習動機の源泉や強さの違いに着目して,1年次の差を第26回教育研究大会・教員研修会で,2年次までの経時的変化を第49回日本理学療法学術大会で報告した。今回は3年次までの推移をまとめ,学生教育の上での意義を検討した。
【方法】
対象は3年間の追跡調査が可能だった専門学校理学療法学科34名・作業療法学科25名の合計59名(男性32名・女性27名),1年次の平均年齢は20.6±4.7歳であった。そのうち現役生は44名(男性21名・女性23名)で1年次の平均年齢は18.5±0.5歳,非現役生は15名(男性11名・女性4名)で1年次の平均年齢は26.7±6.0歳だった。
方法は「学習による直接的な効果や利益の期待度(功利性)」と「学習内容そのものの主観的重要度」の2次元で構造化されている市川の学習動機の2要因モデルを用い,記名式で36項目の質問紙に5段階尺度で回答を求めた。得られた回答は充実志向(学習している内容自体が楽しく,充実感を得ている),訓練志向(知力を鍛える),実用志向(自分の将来の仕事や生活に活かす),関係志向(他者の影響),自尊志向(プライドや競争心),報酬志向(外からの報酬を期待),以上6分類各30点満点で集計した。調査は同一学生に対して,1・2・3年次の3回実施して,経時的変化を調べた。分析は,現役生・非現役生の志向6分類の3年分,計36項目を対象として,各年次の差は3群間比較,現役と非現役の差は各々を2群間比較した。また,各志向における1年次から3年次までの変化量・変化率も現役・非現役の2群間,及び志向別6群間で比較した。
統計学的解析には,各群の正規性と等分散性をShapiro-wilk検定とLevene検定で確認後,差の検定には2標本t検定とMann-Whitneyの検定,分散分析には一元配置分散分析とKruskal-Wallisの検定の適応した方法を用いた。尚,危険率は5%未満とした。
【結果】
非現役生と現役生の2群間比較において,非現役生は1年次,充実志向・訓練志向・実用志向が有意な高値を示し,関係志向・報酬志向は有意に低値だった。2年次では,実用志向が有意に高値であり,関係志向は有意に低値を示した。3年次においては,関係志向が有意に低値だった。その他の項目では有意差を認めなかった。
【考察】
結果から,非現役生は現役生に比べて,1年次に充実志向・訓練志向・実用志向の3つが高く,2年次でも実用志向が高値だった。先行研究でもこれら3つの相関は高いとされており,内容関与的動機として捉えられている。教員が非現役生と関わる中では,この点を考慮することも必要だと考えた。
次に,現役生は非現役生に比べて,1年次の報酬志向,及び3年間の関係志向が高いことを認めた。関係志向は「皆が勉強しているから」「あの先生が好きだから」など,他者の影響を受けるものだとされている。つまり,関係志向は「何を学ぶか」という学習内容自体ではなく,「誰と学ぶか」が関心の対象であり,学習の功利性を重要視しないと捉えられる。また,報酬志向は学習の功利性が高いが,同様に学習内容自体の重要視は小さいとされる。教員が現役生と関わる中では,これらの内容分離的な動機を持ち合わせている可能性も考慮することが有用だと考えた。
また,3年間で差を認めなくなった項目があったことから,学習動機は経時的に変化することが示唆された。これは非現役生と現役生の両者がお互いに影響を与えた可能性も考えられたが,今回は詳細な分析に至らなかった。今後,質的研究も用いて,再度考察を試みたい。
対象学生の全員が何らかの動機で理学療法士・作業療法士を志している者だと考えられるが,その学習動機の源泉や強さは多様であった。一般的に,多くの学習動機に支えられて学習することが望ましいとされているので,教員には学生個々人の学習動機の源泉を考慮して,さらに他者の価値観も学んでいけるような支援が求められると捉えた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で着目した非現役生と現役生の関係性は,学習動機に差を認めたことから,お互いに影響を及ぼす可能性も考えられる。専門学校における理学療法教育では,この点を考慮することも必要だと考え,今後も検討を重ねていきたい。
理学療法士・作業療法士養成校は大学・短期大学・専門学校に分けられるが,社会人経験者や他学部の大学・大学院等を卒業もしくは中退した後の入学生(非現役生)は専門学校に多く見受けられる。クラス内に種々の経験を持った幅広い年齢層の学生が混じり,お互いに影響を与える環境は専門学校の大きな特色の1つだと考えられる。そこで我々は,非現役生と現役入学生(現役生)の学習動機の源泉や強さの違いに着目して,1年次の差を第26回教育研究大会・教員研修会で,2年次までの経時的変化を第49回日本理学療法学術大会で報告した。今回は3年次までの推移をまとめ,学生教育の上での意義を検討した。
【方法】
対象は3年間の追跡調査が可能だった専門学校理学療法学科34名・作業療法学科25名の合計59名(男性32名・女性27名),1年次の平均年齢は20.6±4.7歳であった。そのうち現役生は44名(男性21名・女性23名)で1年次の平均年齢は18.5±0.5歳,非現役生は15名(男性11名・女性4名)で1年次の平均年齢は26.7±6.0歳だった。
方法は「学習による直接的な効果や利益の期待度(功利性)」と「学習内容そのものの主観的重要度」の2次元で構造化されている市川の学習動機の2要因モデルを用い,記名式で36項目の質問紙に5段階尺度で回答を求めた。得られた回答は充実志向(学習している内容自体が楽しく,充実感を得ている),訓練志向(知力を鍛える),実用志向(自分の将来の仕事や生活に活かす),関係志向(他者の影響),自尊志向(プライドや競争心),報酬志向(外からの報酬を期待),以上6分類各30点満点で集計した。調査は同一学生に対して,1・2・3年次の3回実施して,経時的変化を調べた。分析は,現役生・非現役生の志向6分類の3年分,計36項目を対象として,各年次の差は3群間比較,現役と非現役の差は各々を2群間比較した。また,各志向における1年次から3年次までの変化量・変化率も現役・非現役の2群間,及び志向別6群間で比較した。
統計学的解析には,各群の正規性と等分散性をShapiro-wilk検定とLevene検定で確認後,差の検定には2標本t検定とMann-Whitneyの検定,分散分析には一元配置分散分析とKruskal-Wallisの検定の適応した方法を用いた。尚,危険率は5%未満とした。
【結果】
非現役生と現役生の2群間比較において,非現役生は1年次,充実志向・訓練志向・実用志向が有意な高値を示し,関係志向・報酬志向は有意に低値だった。2年次では,実用志向が有意に高値であり,関係志向は有意に低値を示した。3年次においては,関係志向が有意に低値だった。その他の項目では有意差を認めなかった。
【考察】
結果から,非現役生は現役生に比べて,1年次に充実志向・訓練志向・実用志向の3つが高く,2年次でも実用志向が高値だった。先行研究でもこれら3つの相関は高いとされており,内容関与的動機として捉えられている。教員が非現役生と関わる中では,この点を考慮することも必要だと考えた。
次に,現役生は非現役生に比べて,1年次の報酬志向,及び3年間の関係志向が高いことを認めた。関係志向は「皆が勉強しているから」「あの先生が好きだから」など,他者の影響を受けるものだとされている。つまり,関係志向は「何を学ぶか」という学習内容自体ではなく,「誰と学ぶか」が関心の対象であり,学習の功利性を重要視しないと捉えられる。また,報酬志向は学習の功利性が高いが,同様に学習内容自体の重要視は小さいとされる。教員が現役生と関わる中では,これらの内容分離的な動機を持ち合わせている可能性も考慮することが有用だと考えた。
また,3年間で差を認めなくなった項目があったことから,学習動機は経時的に変化することが示唆された。これは非現役生と現役生の両者がお互いに影響を与えた可能性も考えられたが,今回は詳細な分析に至らなかった。今後,質的研究も用いて,再度考察を試みたい。
対象学生の全員が何らかの動機で理学療法士・作業療法士を志している者だと考えられるが,その学習動機の源泉や強さは多様であった。一般的に,多くの学習動機に支えられて学習することが望ましいとされているので,教員には学生個々人の学習動機の源泉を考慮して,さらに他者の価値観も学んでいけるような支援が求められると捉えた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で着目した非現役生と現役生の関係性は,学習動機に差を認めたことから,お互いに影響を及ぼす可能性も考えられる。専門学校における理学療法教育では,この点を考慮することも必要だと考え,今後も検討を重ねていきたい。