[P1-B-0351] 学生が持つ達成目標の違いによる学習方略の使用
Keywords:学習動機づけ, 達成目標, 学習方略
【はじめに,目的】
本学の在学生の中には「理学療法士になりたい」と強く希望して入学してきたにもかかわらず,学業不振や学習意欲の低下など様々な理由により,学校生活を継続することを諦めてしまう学生は少なくない。このような問題意識から,本研究では学生の学習動機づけに注目するものとする。動機づけ研究の主流の一つとして,達成目標理論がある。この理論は,人が勉強に対してどのような目標を持つのかによって,学習意欲やその後の行動,ひいてはパフォーマンスに重要な影響を及ぼすことが知られている。本研究では,本学医療保健学部理学療法学科の在校生を対象に,学生が持つ達成目標に対し,どのような学習方略を使用するのか検討することを目的とする。
【方法】
1_対象者:理学療法学科に在籍する1年生から3年生合計142名(男子98名,女子44名)平均年齢19.47歳±1.14歳
2_調査時期:後期講義の開始時期(9月下旬)
質問紙:(1)達成目標尺度:田中らが翻訳し作成した「達成目標」尺度を用いた。マスタリー目標(学習や理解を通じて,能力を高めることを目指す)(5項目),パフォーマンス接近目標(自分の有能さを誇示し,他人から良い評価を得ようとする)(5項目),パフォーマンス回避目標(自分の無能さが明らかになる事態を避け,他人からの悪い評価を避けようとする)(5項目)の合計15項目で構成されており,「とてもよく当てはまる」から「全く当てはまらない」までの5段階評定法で調査した。(2)学習方略尺度:伊藤が翻訳し作成した「自己調整学習方略」尺度を用いた。一般的認知(理解・想起)方略5項目,復習・まとめ方略(5項目),リハーサル方略(2項目),注意集中方略(4項目),関連づけ方略(2項目)の合計18項目で構成されており,「とてもよく当てはまる」から「全く当てはまらない」までの5段階評定法で調査した。
分析方法:いずれの尺度に対して,因子分析を行う。また,学習方略と達成目標との関連を検討する。
【結果】
1.各尺度の尺度構成
達成目標尺度は,パフォーマンス接近目標,パフォーマンス回避目標,マスタリー目標の3因子構造が得られた。信頼性の検討の結果,0.86,0.80,0.71であった。学習方略尺度は,関連づけ・想起方略,課題回避方略,復習・まとめ方略の3因子構造が得られた。信頼性の検討の結果,0.78,0.64,0.68であった。
2.各尺度相関
相関係数を算出し,各尺度間の関連を検討した。達成目標尺度においては,パフォーマンス接近目標とパフォーマンス回避目標・マスタリー目標との間には,有意な相関が認められた(p<0.05)。学習方略においては,関連づけ・想起方略と課題回避方略との間には,負の相関が,復習まとめ方略との間には有意な正の相関が認められた(p<0.05)。
3.重回帰分析
それぞれの学習方略を目的変数,3つの達成目標を説明変数とする重回帰分析を行ったところ,関連づけ・想起方略の使用に対し,マスタリー目標(β=0.48,p<0.05)が正の影響を及ぼし,課題回避方略の使用に対し,パフォーマンス回避目標(β=0.32,p<0.05)が正の影響を及ぼした。
【考察】
マスタリー目標を持つ学生ほど,今までに理解したこととの関連づけにより,能力を高めようとしている。これに比べ,パフォーマンス回避目標を持つ学生は,自分の無能さが明らかになる事態を避け他人からの悪い評価を回避したいため,講義中は先生の話を聞いているようで実際には他のことを考えるような方略を使用している。関連づけ・想起方略と課題回避方略との負の相関により,課題回避方略の使用が関連づけ方略の使用の妨げることになる。先行研究によると,マスタリー目標が学習や達成に最も効果的であることが示されており,マスタリー目標志向が強い場合は深い処理の方略を使用するのに対し,パフォーマンス回避目標志向の強い場合には課題回避方略をとることが報告されている。よって,先行研究と同様な結果が得られた。本研究では,学生の学業遂行との関係性について検討したものではないため,達成目標と学習方略の使用がどのように学業成績に影響を与えるのかについては今後の検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,先行研究に基づき,マスタリー,パフォーマンス接近,パフォーマンス回避目標という3つの目標を取り上げ,これら達成目標の違いにより,使用する学習方略に違いがあることが明らかとされた。マスタリー目標が学習や達成に最も効果的であることからも,関連づけ・想起方略のような理解を深める方略の使用を促す学生指導が必要である。
本学の在学生の中には「理学療法士になりたい」と強く希望して入学してきたにもかかわらず,学業不振や学習意欲の低下など様々な理由により,学校生活を継続することを諦めてしまう学生は少なくない。このような問題意識から,本研究では学生の学習動機づけに注目するものとする。動機づけ研究の主流の一つとして,達成目標理論がある。この理論は,人が勉強に対してどのような目標を持つのかによって,学習意欲やその後の行動,ひいてはパフォーマンスに重要な影響を及ぼすことが知られている。本研究では,本学医療保健学部理学療法学科の在校生を対象に,学生が持つ達成目標に対し,どのような学習方略を使用するのか検討することを目的とする。
【方法】
1_対象者:理学療法学科に在籍する1年生から3年生合計142名(男子98名,女子44名)平均年齢19.47歳±1.14歳
2_調査時期:後期講義の開始時期(9月下旬)
質問紙:(1)達成目標尺度:田中らが翻訳し作成した「達成目標」尺度を用いた。マスタリー目標(学習や理解を通じて,能力を高めることを目指す)(5項目),パフォーマンス接近目標(自分の有能さを誇示し,他人から良い評価を得ようとする)(5項目),パフォーマンス回避目標(自分の無能さが明らかになる事態を避け,他人からの悪い評価を避けようとする)(5項目)の合計15項目で構成されており,「とてもよく当てはまる」から「全く当てはまらない」までの5段階評定法で調査した。(2)学習方略尺度:伊藤が翻訳し作成した「自己調整学習方略」尺度を用いた。一般的認知(理解・想起)方略5項目,復習・まとめ方略(5項目),リハーサル方略(2項目),注意集中方略(4項目),関連づけ方略(2項目)の合計18項目で構成されており,「とてもよく当てはまる」から「全く当てはまらない」までの5段階評定法で調査した。
分析方法:いずれの尺度に対して,因子分析を行う。また,学習方略と達成目標との関連を検討する。
【結果】
1.各尺度の尺度構成
達成目標尺度は,パフォーマンス接近目標,パフォーマンス回避目標,マスタリー目標の3因子構造が得られた。信頼性の検討の結果,0.86,0.80,0.71であった。学習方略尺度は,関連づけ・想起方略,課題回避方略,復習・まとめ方略の3因子構造が得られた。信頼性の検討の結果,0.78,0.64,0.68であった。
2.各尺度相関
相関係数を算出し,各尺度間の関連を検討した。達成目標尺度においては,パフォーマンス接近目標とパフォーマンス回避目標・マスタリー目標との間には,有意な相関が認められた(p<0.05)。学習方略においては,関連づけ・想起方略と課題回避方略との間には,負の相関が,復習まとめ方略との間には有意な正の相関が認められた(p<0.05)。
3.重回帰分析
それぞれの学習方略を目的変数,3つの達成目標を説明変数とする重回帰分析を行ったところ,関連づけ・想起方略の使用に対し,マスタリー目標(β=0.48,p<0.05)が正の影響を及ぼし,課題回避方略の使用に対し,パフォーマンス回避目標(β=0.32,p<0.05)が正の影響を及ぼした。
【考察】
マスタリー目標を持つ学生ほど,今までに理解したこととの関連づけにより,能力を高めようとしている。これに比べ,パフォーマンス回避目標を持つ学生は,自分の無能さが明らかになる事態を避け他人からの悪い評価を回避したいため,講義中は先生の話を聞いているようで実際には他のことを考えるような方略を使用している。関連づけ・想起方略と課題回避方略との負の相関により,課題回避方略の使用が関連づけ方略の使用の妨げることになる。先行研究によると,マスタリー目標が学習や達成に最も効果的であることが示されており,マスタリー目標志向が強い場合は深い処理の方略を使用するのに対し,パフォーマンス回避目標志向の強い場合には課題回避方略をとることが報告されている。よって,先行研究と同様な結果が得られた。本研究では,学生の学業遂行との関係性について検討したものではないため,達成目標と学習方略の使用がどのように学業成績に影響を与えるのかについては今後の検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,先行研究に基づき,マスタリー,パフォーマンス接近,パフォーマンス回避目標という3つの目標を取り上げ,これら達成目標の違いにより,使用する学習方略に違いがあることが明らかとされた。マスタリー目標が学習や達成に最も効果的であることからも,関連づけ・想起方略のような理解を深める方略の使用を促す学生指導が必要である。