[P1-B-0354] 臨床実習における意欲向上に影響を与える要因について
Keywords:臨床実習, 段階的経験, 意欲向上
【はじめに,目的】
理学療法士養成課程における臨床実習(以下,実習)は,学内で得た知識と技術について,臨床現場での経験を通じて学ぶ機会として重要である。その学びの特徴は,患者や指導者との直接的な関わりを通じて理解を深めることである。その為には,学生の自主的な学習活動が重要であり,常に意欲を持って臨むことが求められる。そこで我々は実習中の学生がどのような要因によって意欲が向上するのかについて,実習終了後のアンケートで調査した。特に,実習の段階的経験に伴って生じる,学生の意欲向上に影響を与える要因に着目し,考察したので報告する。
【方法】
本校理学療法学科(3年制課程・夜間部)の過去2年間の学生66名(平均年齢29.5±5.5歳)を対象とした。調査方法は独自に作成したアンケート用紙を用いて行った。調査内容35項目(臨床実習中の不安11項目,意欲低下12項目,意欲向上12項目)に対し4件法を用いて回答を得た。その中で意欲向上を想定した12項目(治療効果が上がる,指導者の治療により患者が変化した,ほめられる,指導者の機嫌が良い,指導内容が理解できた,指導者の指導が具体的,指導者に信頼され任された,早く帰れた時,指導者以外の先生方からの指導を受けた時,自分の行うことが明確である時,自分自身に対する指導者の評価が明確である時,自分自身の成長が自覚できた時)について,「強く思う」と「思う」と回答した割合について分析した。調査時期は2年次に1回,最終学年の3年次は3週間の短期実習後に1回,8週間の長期実習後に2回の合計4回とした。また3年次最終期の実習後では,総括として実習全体を通じて意欲の変化について自由記載を行った。
【結果】
全ての実習において,「指導者の機嫌が良い」,「早く帰れた時」以外の10項目は,「強く思う」・「思う」と回答した割合が90%以上であった。4回の実習期間において「強く思う」と回答した人数をkruskal-wallis検定にて分析し群間差を認めた場合,多重比較を行った。その結果,「強く思う」が実習の段階的経験と共に減少したのが6項目あり,そのうち「治療効果が上がる」,「指導者の治療により患者が変化した」,「指導者の指導が具体的」,「自分の行う事が明確である時」は,有意な差は示されなかった。「指導内容が理解できた」では,実習前と2回目の長期実習後との比較で有意な減少を示した。(p<0.05)「自分自身の成長が自覚できた時」では,短期実習後と2回目の長期実習後との比較で有意な減少を示した。(p<0.05)
【考察】
今回の結果では12項目中10項目において「強く思う・思う」の割合が全実習期間を通じて高値を示し,現場で指導者や患者との関わりを通じた様々な経験は,学生の意欲向上の重要な要因となっていることが明らかとなった。その中で,「強く思う」の割合に着目すると,「指導内容が理解できた」と「自分自身の成長が自覚できた時」の2項目においては,実習の段階的経験に伴って,有意に減少する結果となったことは大変興味深かった。自由記載から「指導者の説明が難しく理解できなかった」の記述が多かったことからも,実習時期に応じて指導者が要求する知識・技術は,学生が到達している臨床能力を少しずつ上回ることが多く,学生にとってはいつまでも認めてもらえない,成長が足りない等,常に不安感が存在しているのではないかと考えられる。また,既存の知識や技術を実際の患者に置き換えて考える事の難しさに直面する事による不安感は,実習の段階的経験に伴って増幅していると考えられ,自己に対する達成感や満足感が得られにくい状況に陥りやすいとも考えられる。以上の事から,実習中は学生の学習過程を本人と指導者が共有する機会を持ち,成長度合いを認め合うことが一層の意欲向上につながると考えられる。
また,自由記載から「知識が臨床の現場でリンクした時」,「学生間での練習では気づかない事に気がついた時」に意欲が向上するという内容の記述が多く見られることから,学内で得た知識を臨床の場で実感を伴って理解するという経験は,意欲の向上に大きな影響を及ぼすことが示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
臨床実習における学生と指導者,患者の直接的な関わり中で,現場での知識の繋がりに対する気づきや技術の実感を伴う理解が意欲の向上に繋がると考えられる。この事は,高い意欲で臨む事が求められる実習において重要であり,学生指導において意義深いと考えられる。
理学療法士養成課程における臨床実習(以下,実習)は,学内で得た知識と技術について,臨床現場での経験を通じて学ぶ機会として重要である。その学びの特徴は,患者や指導者との直接的な関わりを通じて理解を深めることである。その為には,学生の自主的な学習活動が重要であり,常に意欲を持って臨むことが求められる。そこで我々は実習中の学生がどのような要因によって意欲が向上するのかについて,実習終了後のアンケートで調査した。特に,実習の段階的経験に伴って生じる,学生の意欲向上に影響を与える要因に着目し,考察したので報告する。
【方法】
本校理学療法学科(3年制課程・夜間部)の過去2年間の学生66名(平均年齢29.5±5.5歳)を対象とした。調査方法は独自に作成したアンケート用紙を用いて行った。調査内容35項目(臨床実習中の不安11項目,意欲低下12項目,意欲向上12項目)に対し4件法を用いて回答を得た。その中で意欲向上を想定した12項目(治療効果が上がる,指導者の治療により患者が変化した,ほめられる,指導者の機嫌が良い,指導内容が理解できた,指導者の指導が具体的,指導者に信頼され任された,早く帰れた時,指導者以外の先生方からの指導を受けた時,自分の行うことが明確である時,自分自身に対する指導者の評価が明確である時,自分自身の成長が自覚できた時)について,「強く思う」と「思う」と回答した割合について分析した。調査時期は2年次に1回,最終学年の3年次は3週間の短期実習後に1回,8週間の長期実習後に2回の合計4回とした。また3年次最終期の実習後では,総括として実習全体を通じて意欲の変化について自由記載を行った。
【結果】
全ての実習において,「指導者の機嫌が良い」,「早く帰れた時」以外の10項目は,「強く思う」・「思う」と回答した割合が90%以上であった。4回の実習期間において「強く思う」と回答した人数をkruskal-wallis検定にて分析し群間差を認めた場合,多重比較を行った。その結果,「強く思う」が実習の段階的経験と共に減少したのが6項目あり,そのうち「治療効果が上がる」,「指導者の治療により患者が変化した」,「指導者の指導が具体的」,「自分の行う事が明確である時」は,有意な差は示されなかった。「指導内容が理解できた」では,実習前と2回目の長期実習後との比較で有意な減少を示した。(p<0.05)「自分自身の成長が自覚できた時」では,短期実習後と2回目の長期実習後との比較で有意な減少を示した。(p<0.05)
【考察】
今回の結果では12項目中10項目において「強く思う・思う」の割合が全実習期間を通じて高値を示し,現場で指導者や患者との関わりを通じた様々な経験は,学生の意欲向上の重要な要因となっていることが明らかとなった。その中で,「強く思う」の割合に着目すると,「指導内容が理解できた」と「自分自身の成長が自覚できた時」の2項目においては,実習の段階的経験に伴って,有意に減少する結果となったことは大変興味深かった。自由記載から「指導者の説明が難しく理解できなかった」の記述が多かったことからも,実習時期に応じて指導者が要求する知識・技術は,学生が到達している臨床能力を少しずつ上回ることが多く,学生にとってはいつまでも認めてもらえない,成長が足りない等,常に不安感が存在しているのではないかと考えられる。また,既存の知識や技術を実際の患者に置き換えて考える事の難しさに直面する事による不安感は,実習の段階的経験に伴って増幅していると考えられ,自己に対する達成感や満足感が得られにくい状況に陥りやすいとも考えられる。以上の事から,実習中は学生の学習過程を本人と指導者が共有する機会を持ち,成長度合いを認め合うことが一層の意欲向上につながると考えられる。
また,自由記載から「知識が臨床の現場でリンクした時」,「学生間での練習では気づかない事に気がついた時」に意欲が向上するという内容の記述が多く見られることから,学内で得た知識を臨床の場で実感を伴って理解するという経験は,意欲の向上に大きな影響を及ぼすことが示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
臨床実習における学生と指導者,患者の直接的な関わり中で,現場での知識の繋がりに対する気づきや技術の実感を伴う理解が意欲の向上に繋がると考えられる。この事は,高い意欲で臨む事が求められる実習において重要であり,学生指導において意義深いと考えられる。