[P1-B-0370] OSCEにおけるコミュニケーション教育の課題
「違和感」の言語化
キーワード:コミュニケーション教育, 学内教育, 経験の言語化
【はじめに,目的】
客観的臨床能試験(Objective Structured Clinical Examination,以下OSCE)は,2005年からコア・カリキュラムの実習前実技試験,共用試験OSCEとして,すべての医学部・医科大学80校で実施されるようになり,4年制大学理学療法学科83施設へのアンケート調査では,64%の28施設(回収率53%)で,OSCEが実施されていた(前島2013)。当初は,総括的評価として活用開始されたが,現在では形成的評価として,筆記試験では評価しにくい精神運動発達領域や情意領域の学習効果を評価する方法として利用されている。更に,OSCE-R(Reflection)として,振り返りを重視することにより,学生の主体的な学びの促進,教員の協働的かつ自主的なFD活動促進効果も明らかになっている(平山2009)。我々も2008年度より独自のOSCEを実施しているが,コミュニケーション能力を含むスキル評価としては合格レベルに達しても,患者役教員(以下,患者)からの評価が著しく不良であったり,点数に直接反映できない学生の会話や行為への「違和感」をどのように指導したらよいか苦慮していた。そこで今回は,会話や行為を分析し,その具体的会話や違和感として感じているものの言語化できていない行為,経験的なものとして言語化できていない行為について検討したので報告する。
【方法】
3年制理学療法学科の2年学生37名にOSCEを実施し,初回オリエンテーションから,血圧測定,車椅子からベッドへのトランスファーまでの一連の場面を分析対象とした。評価は,スキルを中心とした評価者評価と患者評価から構成されており,患者評価の6点満点中0~2点であった5名とした。方法としては,ビデオ記録から会話や行為を書き起こし,具体的会話や違和感として感じているものの言語化できていない行為,経験的なものとして言語化できていない行為を抽出した。更にそのデータについて,他の教員や相互行為分析の研究者との意見交換を行い検討した。
【結果】5名の学生とも,基本的言葉使いは丁寧であり,形式的に説明のあとに患者の同意を得る行為もできており,手順としては正しかった。しかし,1)患者との距離が近く,患者に圧迫感を与える。2)敬語は使用できているが,一本調子のため慇懃無礼となる。3)細かすぎる動作説明で,患者がわからなそうな表情を示してもそのまま続ける。4)患者への指示を患者の動いている途中で変更する。5)対面姿勢を意識することなく,自分側中心の言葉の選択。6)患者の訴えを聞いても対応しない,などの発話や行為が見られ,スキルとしてある程度の課題は遂行できても,患者にとって安心を与えるものではない点,患者に合わせる行為が不十分な点,大丈夫かどうか探索する態度に欠ける点が「違和感」を与えていると考えられた。
【考察】
これまでの我々のOSCE実施場面のビデオ分析から,学生のコミュニケーション能力には,言葉の選び方,会話の間の取り方,言葉以外の表情・態度の点で違いがあること,コミュニケーション能力に問題がある学生は,相手の反応を確認してから次の会話・行動に進む(モニタリング)が出来ていないこと,ビデオを自分で確認する繰り返し学習で,理学療法治療の基本的技術はある程度習得できるが,対人能力の側面に対しては十分な効果が得られていないことが明らかになった。これらの結果を学内教育に活用し,コミュニケーションのスキルの部分では改善がみられてきたが,臨床実習場面で実際の患者に対しては上手く奏効されていないという課題が残されていた。モニタリングの方法については,経験的なものとして言語化できていない行為が多く,概念としては理解できるが,具体的なイメージが得られにくい。今回のビデオ分析より,教員が経験的に「違和感」と感じるものは,患者にとって安心を与えるものではない点,患者に合わせる行為が不十分な点,大丈夫かどうか探索する態度に欠ける点であると抽出された。野中は「暗黙知」という言葉の意味を「暗黙の知識」と読みかえた上で,「経験や勘に基づく知識のことで,言葉などで表現が難しいもの」と定義し,それを「形式知」と対立させて理論を構築した。教員が暗黙知を言語化し,蓄積することにより,具体的イメージが得られにくい課題について学生が理解しやすい実践的な指導につながる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本報告結果からは,経験的なものとして言語化できていない行為に注目することにより,今後はその実践結果や効果について検討することにより,理学療法教育に寄与できるものと考えられる。
客観的臨床能試験(Objective Structured Clinical Examination,以下OSCE)は,2005年からコア・カリキュラムの実習前実技試験,共用試験OSCEとして,すべての医学部・医科大学80校で実施されるようになり,4年制大学理学療法学科83施設へのアンケート調査では,64%の28施設(回収率53%)で,OSCEが実施されていた(前島2013)。当初は,総括的評価として活用開始されたが,現在では形成的評価として,筆記試験では評価しにくい精神運動発達領域や情意領域の学習効果を評価する方法として利用されている。更に,OSCE-R(Reflection)として,振り返りを重視することにより,学生の主体的な学びの促進,教員の協働的かつ自主的なFD活動促進効果も明らかになっている(平山2009)。我々も2008年度より独自のOSCEを実施しているが,コミュニケーション能力を含むスキル評価としては合格レベルに達しても,患者役教員(以下,患者)からの評価が著しく不良であったり,点数に直接反映できない学生の会話や行為への「違和感」をどのように指導したらよいか苦慮していた。そこで今回は,会話や行為を分析し,その具体的会話や違和感として感じているものの言語化できていない行為,経験的なものとして言語化できていない行為について検討したので報告する。
【方法】
3年制理学療法学科の2年学生37名にOSCEを実施し,初回オリエンテーションから,血圧測定,車椅子からベッドへのトランスファーまでの一連の場面を分析対象とした。評価は,スキルを中心とした評価者評価と患者評価から構成されており,患者評価の6点満点中0~2点であった5名とした。方法としては,ビデオ記録から会話や行為を書き起こし,具体的会話や違和感として感じているものの言語化できていない行為,経験的なものとして言語化できていない行為を抽出した。更にそのデータについて,他の教員や相互行為分析の研究者との意見交換を行い検討した。
【結果】5名の学生とも,基本的言葉使いは丁寧であり,形式的に説明のあとに患者の同意を得る行為もできており,手順としては正しかった。しかし,1)患者との距離が近く,患者に圧迫感を与える。2)敬語は使用できているが,一本調子のため慇懃無礼となる。3)細かすぎる動作説明で,患者がわからなそうな表情を示してもそのまま続ける。4)患者への指示を患者の動いている途中で変更する。5)対面姿勢を意識することなく,自分側中心の言葉の選択。6)患者の訴えを聞いても対応しない,などの発話や行為が見られ,スキルとしてある程度の課題は遂行できても,患者にとって安心を与えるものではない点,患者に合わせる行為が不十分な点,大丈夫かどうか探索する態度に欠ける点が「違和感」を与えていると考えられた。
【考察】
これまでの我々のOSCE実施場面のビデオ分析から,学生のコミュニケーション能力には,言葉の選び方,会話の間の取り方,言葉以外の表情・態度の点で違いがあること,コミュニケーション能力に問題がある学生は,相手の反応を確認してから次の会話・行動に進む(モニタリング)が出来ていないこと,ビデオを自分で確認する繰り返し学習で,理学療法治療の基本的技術はある程度習得できるが,対人能力の側面に対しては十分な効果が得られていないことが明らかになった。これらの結果を学内教育に活用し,コミュニケーションのスキルの部分では改善がみられてきたが,臨床実習場面で実際の患者に対しては上手く奏効されていないという課題が残されていた。モニタリングの方法については,経験的なものとして言語化できていない行為が多く,概念としては理解できるが,具体的なイメージが得られにくい。今回のビデオ分析より,教員が経験的に「違和感」と感じるものは,患者にとって安心を与えるものではない点,患者に合わせる行為が不十分な点,大丈夫かどうか探索する態度に欠ける点であると抽出された。野中は「暗黙知」という言葉の意味を「暗黙の知識」と読みかえた上で,「経験や勘に基づく知識のことで,言葉などで表現が難しいもの」と定義し,それを「形式知」と対立させて理論を構築した。教員が暗黙知を言語化し,蓄積することにより,具体的イメージが得られにくい課題について学生が理解しやすい実践的な指導につながる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本報告結果からは,経験的なものとして言語化できていない行為に注目することにより,今後はその実践結果や効果について検討することにより,理学療法教育に寄与できるものと考えられる。