[P1-C-0104] 発達に伴う小児歩行の運動力学的特徴(第2報)
前額面における重心制御の発達に着目して
Keywords:三次元動作解析, 正常発達, 歩行
【はじめに,目的】
一般的に,乳幼児は生後1年で歩行動作が可能となるが,成熟した歩行パターンの獲得には3年を要するといわれている。我々はこれまで三次元動作解析装置を用いて健常乳幼児1例の歩行を縦断的に計測し,矢状面における推進機能の発達について検討してきた。今回は前額面における重心制御の発達について分析を行ったので報告する。
【方法】
対象は,健常女児1名。独歩での自由歩行を三次元動作解析装置(VICON MX13カメラ14台)と床反力計(AMTI社製)6枚を用いて計測した。計測は数歩の独歩が可能となった1歳1ヶ月(以下A)から,1歳4ヶ月(以下B),1歳6ヶ月(以下C),1歳10ヶ月(以下D),2歳1ヶ月(以下E),2歳5ヶ月(以下F)の計6回行った。分析対象は1歩行周期におけるstep length,歩隔,上下・左右方向の重心位置(以下COG),床反力の左右方向成分(以下Fx),股関節の内外転角度,内外転モーメント(以下M)とした。また,調査期間中の粗大運動の発達を母親から聴取した。
【結果】
粗大運動は,Aで数歩の歩行が可能となり,Bで自宅内の移動が歩行となった。また,Dで小走り,Eで手繋ぎでの1足1段の階段昇降,Fでジャンプが可能となった。step length(身長比)は,A:5.7%,B:21.8%,C:29.2%,D:28.4%,E:35.3%,F:36.5%で,歩隔(身長比)は,A:23.5%,B:13.5%,C:14.3%,D:13.8%,E:14.6%,F:12.0%であり,いずれもAからBにかけて著明な変化を認めた。立脚期におけるCOGの左右方向の移動幅(身長比)は,A:11.3%,B:2.9%,C:2.4%,D:2.0%,E:2.0%,F:1.7%であり,特にAからBにかけて著明な減少を認めた。また,COGの上下方向の最高値(身長比)は,A:46.4%,B:46.0%,C:46.0%,D:48.4%,E:48.3%,F:50.0%であり,Dを境に増大した。Fxは,Aでは初期接地期(以下IC)に外側成分を示し,荷重応答期(以下LR)に内側成分のピーク値0.51N/kgを示した。また,B以降はIC~前遊脚期(以下PSw)まで終始内側成分を示し,BとCでは立脚中期(以下MSt)にピーク値(B:0.96 N/kg,C:1.73 N/kg)を示した。D以降ではMSt~PSwまでほぼ一定のピーク値を示したが,その値はB・Cに比べて減少した(D:0.67 N/kg,E:0.45 N/kg,F:0.68 N/kg)。股関節の内外転角度はAでは立脚期に終始外転位を示し,大きな角度変化を認めなかったが,BとCではMStの外転角度が減少した。DではIC~LRの外転角度がさらに減少し,MStで内転位を示した。E以降ではICより内転位となり,MStでの内転角度は増大した。関節MはAではIC~LRとPSwにおいて内転Mを示し,MStでは減少した。BとCではIC~Mstにおいて外転Mを示し,MStでピーク値を認め,PSwでは内転Mを示した。D以降は立脚期において終始外転Mを示し,MStではほぼ一定の値を示し,その値は発達とともに増大した。
【考察】
歩行を開始したAから室内の歩行が自立となったBにかけて,step lengthの増大とともに歩隔や左右方向のCOGの移動幅が大きく減少したことから,この期間に左右方向の重心制御機能が向上し,前方への推進能力を獲得したものと考える。特に,AではICにFxが外側成分を示し,立脚期に股関節が終始外転位を示していたのに対し,BではICにFxが内側成分を示し,MStにおいて股関節の外転角度の減少とともに外転Mが増加したことから,股関節を中心とした運動機能の発達が左右方向の重心制御に寄与したと考えられる。次に,小走りや階段昇降などの応用歩行能力が向上したD以降では,立脚期における股関節内外転角度が著明に変化し,特にMStにおいて内転位を示すようになった。また,Fxの内側成分の減少や股関節外転Mの増大を認め,各々の値がMStにおいてほぼ一定であったことから,股関節周囲筋の持続的な活動が可能となったと思われる。さらに,COGの上下方向の最高値が増大したことから,股関節を中心とした上下・左右方向の重心制御の発達とともに歩行パターンが改良され,step lengthが拡大していくものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
今回,三次元動作解析装置を用いて,小児の歩行獲得過程を月単位で縦断的に調査した。本研究の結果から,実用歩行の獲得に至るまでの運動力学的特徴が示唆された。今後も継続して調査を行い,より詳細な運動力学的特徴を調査することにより,発達段階に応じた理学療法プログラムの立案に寄与するものと考える。
一般的に,乳幼児は生後1年で歩行動作が可能となるが,成熟した歩行パターンの獲得には3年を要するといわれている。我々はこれまで三次元動作解析装置を用いて健常乳幼児1例の歩行を縦断的に計測し,矢状面における推進機能の発達について検討してきた。今回は前額面における重心制御の発達について分析を行ったので報告する。
【方法】
対象は,健常女児1名。独歩での自由歩行を三次元動作解析装置(VICON MX13カメラ14台)と床反力計(AMTI社製)6枚を用いて計測した。計測は数歩の独歩が可能となった1歳1ヶ月(以下A)から,1歳4ヶ月(以下B),1歳6ヶ月(以下C),1歳10ヶ月(以下D),2歳1ヶ月(以下E),2歳5ヶ月(以下F)の計6回行った。分析対象は1歩行周期におけるstep length,歩隔,上下・左右方向の重心位置(以下COG),床反力の左右方向成分(以下Fx),股関節の内外転角度,内外転モーメント(以下M)とした。また,調査期間中の粗大運動の発達を母親から聴取した。
【結果】
粗大運動は,Aで数歩の歩行が可能となり,Bで自宅内の移動が歩行となった。また,Dで小走り,Eで手繋ぎでの1足1段の階段昇降,Fでジャンプが可能となった。step length(身長比)は,A:5.7%,B:21.8%,C:29.2%,D:28.4%,E:35.3%,F:36.5%で,歩隔(身長比)は,A:23.5%,B:13.5%,C:14.3%,D:13.8%,E:14.6%,F:12.0%であり,いずれもAからBにかけて著明な変化を認めた。立脚期におけるCOGの左右方向の移動幅(身長比)は,A:11.3%,B:2.9%,C:2.4%,D:2.0%,E:2.0%,F:1.7%であり,特にAからBにかけて著明な減少を認めた。また,COGの上下方向の最高値(身長比)は,A:46.4%,B:46.0%,C:46.0%,D:48.4%,E:48.3%,F:50.0%であり,Dを境に増大した。Fxは,Aでは初期接地期(以下IC)に外側成分を示し,荷重応答期(以下LR)に内側成分のピーク値0.51N/kgを示した。また,B以降はIC~前遊脚期(以下PSw)まで終始内側成分を示し,BとCでは立脚中期(以下MSt)にピーク値(B:0.96 N/kg,C:1.73 N/kg)を示した。D以降ではMSt~PSwまでほぼ一定のピーク値を示したが,その値はB・Cに比べて減少した(D:0.67 N/kg,E:0.45 N/kg,F:0.68 N/kg)。股関節の内外転角度はAでは立脚期に終始外転位を示し,大きな角度変化を認めなかったが,BとCではMStの外転角度が減少した。DではIC~LRの外転角度がさらに減少し,MStで内転位を示した。E以降ではICより内転位となり,MStでの内転角度は増大した。関節MはAではIC~LRとPSwにおいて内転Mを示し,MStでは減少した。BとCではIC~Mstにおいて外転Mを示し,MStでピーク値を認め,PSwでは内転Mを示した。D以降は立脚期において終始外転Mを示し,MStではほぼ一定の値を示し,その値は発達とともに増大した。
【考察】
歩行を開始したAから室内の歩行が自立となったBにかけて,step lengthの増大とともに歩隔や左右方向のCOGの移動幅が大きく減少したことから,この期間に左右方向の重心制御機能が向上し,前方への推進能力を獲得したものと考える。特に,AではICにFxが外側成分を示し,立脚期に股関節が終始外転位を示していたのに対し,BではICにFxが内側成分を示し,MStにおいて股関節の外転角度の減少とともに外転Mが増加したことから,股関節を中心とした運動機能の発達が左右方向の重心制御に寄与したと考えられる。次に,小走りや階段昇降などの応用歩行能力が向上したD以降では,立脚期における股関節内外転角度が著明に変化し,特にMStにおいて内転位を示すようになった。また,Fxの内側成分の減少や股関節外転Mの増大を認め,各々の値がMStにおいてほぼ一定であったことから,股関節周囲筋の持続的な活動が可能となったと思われる。さらに,COGの上下方向の最高値が増大したことから,股関節を中心とした上下・左右方向の重心制御の発達とともに歩行パターンが改良され,step lengthが拡大していくものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
今回,三次元動作解析装置を用いて,小児の歩行獲得過程を月単位で縦断的に調査した。本研究の結果から,実用歩行の獲得に至るまでの運動力学的特徴が示唆された。今後も継続して調査を行い,より詳細な運動力学的特徴を調査することにより,発達段階に応じた理学療法プログラムの立案に寄与するものと考える。