第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

身体運動学2

2015年6月5日(金) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-C-0113] 動作スピードの違いが階段降段動作の足関節制御に及ぼす影響

福井基裕1, 新小田幸一2, 武田拓也3, 緒方悠太3, 澤田智紀4,5, 阿南雅也2, 高橋真2 (1.広島大学医学部保健学科理学療法学専攻, 2.広島大学大学院医歯薬保健学研究院応用生命科学部門, 3.広島大学大学院医歯薬保健学研究科博士課程前期保健学専攻, 4.広島大学大学院医歯薬保健学研究科博士課程後期保健学専攻, 5.森整形外科)

キーワード:降段動作, 足関節, 動作スピード

【はじめに,目的】
公共の場における高齢者の転倒は,階段昇降時に最も高い割合で発生し,その大半は降段時に起こるとされるため,高齢者にとって階段降段は危険性の高い動作であると言える。また,健常若年者はあらゆる環境・状況に適応してスピードを変化させ,降段を行うことが可能である。しかし,高齢者であっても活動性の維持された日常生活を送る中で,これまで着目されることの少なかった緊急性に適応するための素早い降段能力が必要であると考える。階段降段動作は足関節周囲筋の筋張力,および関節角度を適切に制御する難易度の高い動作とされることから,速いスピードで降段動作を遂行するときの足関節制御を明らかにすることは,高齢者の転倒予防の観点から重要であると考える。
そこで本研究は,高齢者において動作スピードの違いが階段降段動作時の足関節制御に及ぼす影響を捉える前段階として,まず健常若年者を被験者として,動作遂行に必要な足関節制御を明らかにすることを目的に実施した。
【方法】
被験者は体幹,下肢に重篤な整形外科的既往および現病歴を有さない健常若年男性7人(身長:1.71±0.05m,体重:64.6±8.4kg,年齢:22.4±2.1歳)であった。課題動作は4段構成の階段を用いた,非利き足からの1足1段の前向き階段降段とし,解析区間を利き足の遊脚期(利き足の2段目離地の瞬間から床への接床直前まで)とした。被験者が降段動作を快適であると感じるスピードで行う条件(以下,条件N)と,速い降段動作の条件(以下,条件F)の2条件で行った。MATLAB R2014a(MathWorks社製)を用いて条件Nの動作スピードを算出し,条件Fは条件Nの1.2~1.4倍のスピードで行うように口頭で指示した。運動学的データは赤外線カメラ6台からなる三次元動作解析システム(Vicon社製),運動力学的データは床反力計(テック技販社製)4基,筋電データは表面筋電計EMGマスター(メディエリアサポート企業組合社製)を用いて取得した。被験筋は利き足の前脛骨筋(以下,TA)とヒラメ筋(以下,SOL)とし,電極貼付位置は下野の方法に準拠した。得られたデータを基にBodyBuilder(Vicon社製)を用いて,各関節角度を算出した。運動学的データとして解析区間中の利き足の足関節最大底屈角度を算出した。筋電は最大等尺性随意筋収縮(以下,MIVC)を基に,動作中の筋活動量をMIVCに対する割合として算出した(以下,%MIVC)。筋電データは遊脚期を前半と後半に分け,後半の各筋の%MIVC平均値を算出した。統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS Ver.22.0(IBM社製)を用い,Shapiro-Wilk検定によりデータに正規性が認められることを確認し,対応のあるt検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
条件Fでは条件Nに比較して,遊脚期の足関節最大底屈角度が有意に低値を示し,遊脚期後半のTAおよびSOLの%MIVC平均値が有意に高値を示した(p<0.05)。
【考察】
本研究では,速い降段動作で遊脚期の足関節最大底屈角度が小さくなり,遊脚相後半のTA,SOLの筋活動が増大することが示された。速い降段動作では,身体の前下方への移動を素早く行うために,接床後に足関節底屈位からの素早い背屈運動が必要であると考えられる。そのため速い降段動作では,遊脚期後半でTAの筋活動を増大させ,接床前の底屈角度を減少させる戦略を用いたと推察する。一方,先行研究で片脚着地動作では底屈角度を増加させた戦略で,より着地時の衝撃が減少するという報告がある。したがって降段動作において,接床前の足関節底屈角度の減少は,接床時に足関節で衝撃を十分に吸収できないことが考えられる。そのため,衝撃吸収能がより要求される動作とされる速い降段動作では,接床前のSOLの筋活動増大は,接床後に要求される衝撃吸収のための遠心性筋力発揮に備えた準備態勢であることが示唆された。
以上より,健常若年者では,速い降段動作を遂行するために,接床前の足関節底屈角度を減少させ,TA,SOLの筋活動を高める足関節制御を用いることが明らかとなった。今後は高齢者の転倒予防に対する理学療法アプローチ考案の手掛かりを得るために,高齢者の速い降段動作時の足関節制御を明らかにする必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,これまで着目されることの少なかった,高齢者が速い動作スピードの降段動作を遂行するときの足関節制御を知る前段階として,健常若年者を被験者にその制御を明らかにしたことに理学療法学研究としての意義がある。