第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

身体運動学3

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-C-0119] フォワードランジの踏み込み時における運動パターンに性差が及ぼす影響

―下腿内側傾斜角度に着目して―

今泉史生1, 金井章2, 蒲原元1, 木下由紀子1, 四ノ宮祐介1, 村澤実香1, 河合理江子1, 上原卓也1, 江﨑雅彰1 (1.豊橋整形外科江崎病院, 2.豊橋創造大学保健医療学部理学療法学科)

Keywords:フォワードランジ, 下腿内側傾斜角度, 性差

【はじめに,目的】スポーツ場面において,女性は男性に比べ膝前十字靭帯(以下,ACL)の損傷率が高いことが多くの調査により報告されており,受傷時の損傷肢位として膝外反肢位が指摘されている。そのため,動作中の異常パターンを分析することは,傷害予防・再発防止をするために重要であると考えられる。近年,ダイナミックアライメントを用いた研究において,男女の運動パターンの差異が指摘されている。過去の報告では,片脚スクワットや片脚着地において,女性は男性に対して股関節内転角度,膝関節外反角度が増大しており,ドロップジャンプテストでは,女性において膝外反角度の増大が認められている。一方,臨床ではダイナミックアライメントの評価として,片脚を一歩前に踏み出し荷重をかけるフォワードランジ(以下,FL)が用いられることがあるものの,FLを用いた下腿内側傾斜角度の性差の報告は明らかではない。FLはスポーツ場面において,投げる・打つ・止まるなどの基礎となる動作であり,良いパフォーマンスを発揮するために必要不可欠な動作であると言える。FLにおける膝外反肢位を視覚的に評価する方法として,前額面で下腿の内側傾斜に着目することがある。そこで本研究は,FLの踏み込み時における運動パターンに性差が及ぼす影響を下腿内側傾斜角度に着目して検討することを目的とした。
【方法】対象は,下肢運動機能に問題が無く,週1回以上レクリエーションレベル以上のスポーツを行っている健常な男性16名32肢(平均年齢19.3±4.5歳,平均身長170.3±6.8cm,平均体重62.3±7.7kg),女性24名48肢(平均年齢16.8±1.6歳,平均身長158.0±5.0cm,平均体重53.8±7.8kg)とした。FL中の踏み込み側の膝関節最大屈曲角度を90度と規定し,動作中の膝関節角度は電子角度計Data Link(バイオメトリクス社製)を用いて被験者にフィードバックした。頚部・体幹は中間位,両手は腰部,歩隔は身長の1割,足部は第二中足骨と前額面が垂直となるように指示した。ステップ幅は棘果長とし,速度はメトロノームを用いて2秒で前進,2秒で後退,踏み出し時の接地は踵部からとした。各被検者は測定前に充分練習した後,計測対象下肢を前方に踏み出すFLを連続して15回行い,7・8・9・10・11回目の足関節最大背屈時を解析対象とした。動作の計測には,三次元動作解析装置VICON-MXおよび床反力計OR6-7を用い,関節角度,関節モーメント,下腿内側傾斜角度(前額面における垂線に対する内側への傾斜),足圧中心,重心位置を算出した。筋力は股関節屈曲,伸展,外転,内転,膝関節屈曲,伸展,足関節背屈,底屈の等尺性最大筋力を測定した。筋力は筋力計μtasMT-1(ANIMA社製)を用いて得られた値を体重で除して正規化した。統計解析には,対応のないt検定を用いた。
【結果】男女の比較により,男性は足関節内反角度で有意に高値を示し,女性は股関節屈曲角度,足尖の向きの角度,脊柱伸展角度,骨盤前傾角度,足圧中心前方移動距離,下腿内側傾斜角度,股関節屈曲モーメント,股関節内転モーメント,膝関節屈曲モーメント,足関節背屈モーメントで有意に高値を示した。また,踏み込み時の踵のマーカーの高さを確認したところ,女性において有意な高値を示した。筋力は股関節伸展,外転,内転,膝関節屈曲,伸展,足関節背屈,底屈において男性が有意に高値を示した。
【考察】本研究の結果,膝外反肢位を示す下腿内側傾斜角度は女性において有意に高値を示した。これはFLにおいて,足尖を内側に向けた状態で接地した場合,膝も足尖と同じ方向へ屈曲して下腿を前方へ最大傾斜することで,内側傾斜となることによるためと考えられた。また,股関節屈曲モーメント,足関節背屈モーメントの増加は,骨盤前傾,股関節屈曲角度を増加させて足圧中心を前方へ移動させることが原因と考えられた。膝関節屈曲モーメントの増加は,踏み込み時に踵を浮上させて膝を前方へ突き出して代償した結果,増加したことが考えられた。これは,女性は男性よりも筋力が弱いため,前方へ強く踏み込んだ際の制御が困難であることが考えられた。以上より,女性はFLにおいて,筋力が弱いのにもかかわらず下肢関節モーメントが大きくなるような動作をしており,下腿内側傾斜角度が増加していることからスポーツ外傷・障害につながりやすいことが示唆された。

【理学療法学研究としての意義】FLの踏み込み時における運動パターンに性差が及ぼす影響を明らかにすることにより,スポーツ外傷・障害予防を未然に防止できると考えられる。