[P1-C-0131] ノルディックウォーキング時の運動力学的解析②
~筋活動と体幹加速度による検討~
Keywords:ノルディックウォーキング, 筋活動, 加速度
【はじめに,目的】
近年のノルディックウォーキング(以下,NW)の普及は目覚ましく,その運動効果が広く認められつつある。リハビリテーション医学・医療の分野においてもNWが活用されはじめているが,下肢筋活動についての一定の見解は得られておらず,また体幹加速度を用いた歩行動揺性の評価も行われていない。そこで,我々は理学療法の一助としてのNWの有用性を確認するために,歩行時の下肢の筋活動電位の測定と加速度計を用いた体幹の動揺性の測定を行った。そして通常歩行とNWの計測値を比較,検討したので報告する。
【方法】
対象は健常成人男性5名(年齢20.6±0.5歳,身長171.4±2.6cm,体重59.4±8.0kg)とした。課題動作は通常歩行とNWの2種類とし,歩調を110歩/分に統一した。各課題動作にて10m歩行を実施し,その際の体幹加速度と下肢筋活動を3試行ずつ計測した。NWの歩行様式は,ポールを地面に垂直に突きながら歩く様式とした。ポールのグリップの高さは,直立位でグリップを把持した際に肘関節が90度になる高さに調整した。筋活動の測定では,表面筋電計(キッセイコムテック社製テレメトリー筋電計MQ8)を用いて,サンプリング周波数1kHzにて5歩目の右立脚期における筋活動を測定した。被験筋は大腿直筋,大内転筋,大腿筋膜張筋,大腿二頭筋,前脛骨筋,腓腹筋外側頭の6筋とした。得られた筋電図波形を20Hz~500Hzのバンドパスフィルターにて処理した後,全波整流積分値を求めた。計測終了後に各筋の最大随意収縮(以下,MVC)を5秒間,3回記録し,そのうち中間3秒間の平均値を各筋の100%MVCとした。歩行時の各筋の全波整流積分値を100%MVCで正規化し(%MVC),筋活動量の指標とした。体幹の加速度の測定では3軸加速度計(共和電業社製AS-5TG)を用い,サンプリング周波数1kHzにて定常状態における1歩行周期の加速度波形を測定した。身体への加速度計の装着は伸張性バンドを体幹に巻き,その上にマジックテープで身体背面の第3腰椎棘突起の高さに貼付した。そして,得られた加速度波形からRoot Mean Square(以下,RMS)を算出した。RMSは加速度波形の振幅の程度を表し,動揺性の指標とされ,本研究においては重心の移動と近似した値としている。%MVCとRMSの3試行の平均値を求め,通常歩行とNWで比較した。
【結果】
各測定筋における筋活動量(%MVC)を通常歩行,NWの順で示す。大腿直筋(13.8±6.8,15.1±10.2),大内転筋(23.0±21.8,26.0±28.8),大腿筋膜張筋(9.3±9.0,5.8±3.7),大腿二頭筋(10.4±10.3,11.1±16.0),前脛骨筋(10.9±4.2,9.1±4.4),腓腹筋外側頭(22.4±9.2,19.9±10.0)であった。大腿直筋と大内転筋は通常歩行に比べてNWで増加する傾向があった。一方,大腿筋膜張筋や前脛骨筋,腓腹筋外側頭は通常歩行に比べてNWで減少する傾向があった。次に,加速度計によるRMSの値を通常歩行,NWの順で示す。垂直成分(2.4±0.4,2.7±0.6),左右成分(1.6±0.3,1.9±0.5),前後成分(2.2±0.3,2.1±0.5)であった。垂直成分,左右成分は通常歩行に比べてNWで増加する傾向があった。
【考察】
NWでは大腿直筋と大内転筋がより強く活動していることが確認できた。これは両上肢で床面にポールを突くことによる重心の左右への移動が影響しており,両側に突くポールにて制限された床面の範囲内での重心の円滑な移動を股関節内転筋と膝関節伸展筋で支えていることを示唆していると推測できる。また,これはRMSの左右成分がNWで増加している結果と一致している。大腿筋膜張筋や前脛骨筋,腓腹筋外側頭の筋活動はNWで低下しており,足部や膝部の負荷量の軽減を図る上で参考となる結果であった。今後もさらに対象者数を増やして,運動学的な観点からNWの動作解析を進めていきたいと考えている。
【理学療法学研究としての意義】
NW時の下肢筋活動や体幹の動揺性を定量化することによって,理学療法の一助としてのNWの有用性を確立するための基礎的資料となった点で意義がある。
近年のノルディックウォーキング(以下,NW)の普及は目覚ましく,その運動効果が広く認められつつある。リハビリテーション医学・医療の分野においてもNWが活用されはじめているが,下肢筋活動についての一定の見解は得られておらず,また体幹加速度を用いた歩行動揺性の評価も行われていない。そこで,我々は理学療法の一助としてのNWの有用性を確認するために,歩行時の下肢の筋活動電位の測定と加速度計を用いた体幹の動揺性の測定を行った。そして通常歩行とNWの計測値を比較,検討したので報告する。
【方法】
対象は健常成人男性5名(年齢20.6±0.5歳,身長171.4±2.6cm,体重59.4±8.0kg)とした。課題動作は通常歩行とNWの2種類とし,歩調を110歩/分に統一した。各課題動作にて10m歩行を実施し,その際の体幹加速度と下肢筋活動を3試行ずつ計測した。NWの歩行様式は,ポールを地面に垂直に突きながら歩く様式とした。ポールのグリップの高さは,直立位でグリップを把持した際に肘関節が90度になる高さに調整した。筋活動の測定では,表面筋電計(キッセイコムテック社製テレメトリー筋電計MQ8)を用いて,サンプリング周波数1kHzにて5歩目の右立脚期における筋活動を測定した。被験筋は大腿直筋,大内転筋,大腿筋膜張筋,大腿二頭筋,前脛骨筋,腓腹筋外側頭の6筋とした。得られた筋電図波形を20Hz~500Hzのバンドパスフィルターにて処理した後,全波整流積分値を求めた。計測終了後に各筋の最大随意収縮(以下,MVC)を5秒間,3回記録し,そのうち中間3秒間の平均値を各筋の100%MVCとした。歩行時の各筋の全波整流積分値を100%MVCで正規化し(%MVC),筋活動量の指標とした。体幹の加速度の測定では3軸加速度計(共和電業社製AS-5TG)を用い,サンプリング周波数1kHzにて定常状態における1歩行周期の加速度波形を測定した。身体への加速度計の装着は伸張性バンドを体幹に巻き,その上にマジックテープで身体背面の第3腰椎棘突起の高さに貼付した。そして,得られた加速度波形からRoot Mean Square(以下,RMS)を算出した。RMSは加速度波形の振幅の程度を表し,動揺性の指標とされ,本研究においては重心の移動と近似した値としている。%MVCとRMSの3試行の平均値を求め,通常歩行とNWで比較した。
【結果】
各測定筋における筋活動量(%MVC)を通常歩行,NWの順で示す。大腿直筋(13.8±6.8,15.1±10.2),大内転筋(23.0±21.8,26.0±28.8),大腿筋膜張筋(9.3±9.0,5.8±3.7),大腿二頭筋(10.4±10.3,11.1±16.0),前脛骨筋(10.9±4.2,9.1±4.4),腓腹筋外側頭(22.4±9.2,19.9±10.0)であった。大腿直筋と大内転筋は通常歩行に比べてNWで増加する傾向があった。一方,大腿筋膜張筋や前脛骨筋,腓腹筋外側頭は通常歩行に比べてNWで減少する傾向があった。次に,加速度計によるRMSの値を通常歩行,NWの順で示す。垂直成分(2.4±0.4,2.7±0.6),左右成分(1.6±0.3,1.9±0.5),前後成分(2.2±0.3,2.1±0.5)であった。垂直成分,左右成分は通常歩行に比べてNWで増加する傾向があった。
【考察】
NWでは大腿直筋と大内転筋がより強く活動していることが確認できた。これは両上肢で床面にポールを突くことによる重心の左右への移動が影響しており,両側に突くポールにて制限された床面の範囲内での重心の円滑な移動を股関節内転筋と膝関節伸展筋で支えていることを示唆していると推測できる。また,これはRMSの左右成分がNWで増加している結果と一致している。大腿筋膜張筋や前脛骨筋,腓腹筋外側頭の筋活動はNWで低下しており,足部や膝部の負荷量の軽減を図る上で参考となる結果であった。今後もさらに対象者数を増やして,運動学的な観点からNWの動作解析を進めていきたいと考えている。
【理学療法学研究としての意義】
NW時の下肢筋活動や体幹の動揺性を定量化することによって,理学療法の一助としてのNWの有用性を確立するための基礎的資料となった点で意義がある。