[P1-C-0134] 筋骨格シミュレーションによる姿勢制御の解析
前脛骨筋による股関節屈曲作用
キーワード:姿勢制御, 外乱, シミュレーション
【はじめに,目的】
ヒトは外乱よって生じる関節動揺に対して,筋を活動させて姿勢を修正する。多関節運動では関節間で運動が相互に作用して複数の関節が連動して動くため,筋は一つの関節を動かすだけでなく,離れた関節の運動にも作用する。転倒を回避するためには外乱に応じた筋活動により姿勢を調節する必要があるが,多関節運動における筋の役割が複雑であるため,どの筋が外乱応答に重要かはこれまで十分に議論されてこなかった。筋の役割を解析する方法として,歩行解析研究で順動力学筋骨格シミュレーションが用いられている。このモデルを姿勢制御解析に適応すれば,筋活動と動作の関連性が明確になり,姿勢制御に重要な筋を特定することができる。そこで本研究では順動力学筋骨格シミュレーション解析を用いて外乱刺激後の動作を解析し,姿勢制御における筋の役割を検討した。
【方法】
実験は動作測定後に,シミュレーション解析を行った。まず,70歳女性を対象として外乱刺激時の動作を測定した。被験者には肩峰,大転子,膝外側,外果,第五中足骨に反射マーカー,大腿直筋,大腿二頭筋,前脛骨筋,ヒラメ筋に表面筋電図用電極を張り付けた。安静立位の状態から床面が前方に速度15cm/秒,移動距離6cmで動いた際の関節角度,筋活動を測定した。なお,動作は10回以上の練習を行った後に計測した。次に,足部,下腿,大腿,体幹の4セグメント,3関節,9筋を有する筋骨格モデルを用いてシミュレーション解析を行った。筋,腱,セグメントなどモデルパラメータは先行研究のデータを用いた。安静立位の状態から床面が前方へ動いて体が後方へ倒れ,筋活動によって姿勢を元の状態に修正するまでの動作をシミュレーション上で作り上げた。先行研究に準じて,関節運動は測定データを追従するよう静的最適化により筋活動を求めた後,順動力学解析を行った。このシミュレーション結果から外乱刺激および筋張力が各関節の角加速度に与える影響をInduced acceleration解析にて検討した。この解析法は関節に生じた角加速度を数値計算によって筋張力,重力,外乱等の要素に分解することができる。なお,筋張力は外乱応答だけでなく体重支持も担うため,筋張力によって生じる角加速度から重力要素を引いた重力差分後の筋張力として示した。また筋張力を分解し,どの筋が関節の角加速度に貢献するのかを検討した。なお,本研究はC言語を用いてプログラムを作成して解析を行っている。
【結果】
筋活動,関節角度は測定値とシミュレーション結果で同様の傾向を示した。シミュレーション結果より外乱刺激後50msでの角加速度は外乱刺激によって生じている要素が強く,足関節が外乱の影響を最も強く受けた(外乱:足6.0m/s2,膝5.0m/s2,股-1.1m/s2,筋張力:足0.6m/s2,膝-1.1m/s2,股-0.1m/s2)。外乱刺激後80ms頃から前脛骨筋,大腿広筋群の活動が始まり,150msでは筋張力によって角加速度が強く生じた(外乱:足-0.7m/s2,膝0.7m/s2,股0.1m/s2,筋張力:足-8.9m/s2,膝12.0m/s2,股-1.8m/s2)。筋張力を筋別に分解すると,前脛骨筋と大腿広筋群が強く関節運動に関与し,前脛骨筋は足背屈,膝屈曲,股屈曲,大腿広筋群は足底屈,膝伸展,股伸展に強く関与し,拮抗した作用を持つことがわかった。
【考察】
外乱刺激直後は前面の筋群が働いて体が後方に倒れるのを防ぐ。特に足関節は外乱の影響が最も強く,前脛骨筋の活動によって関節を制御する。しかし,前脛骨筋は足背屈だけでなく,脛骨前傾による膝屈曲,大腿骨後傾による股屈曲を同時に生じさせる。一方,同じ体の前面に位置する大腿広筋群は前脛骨筋と拮抗する作用を有するため,前脛骨筋によって生じた関節運動を相殺する働きを持つ。このような筋の相殺作用で残った関節運動が股関節など外乱刺激の影響を受けにくい近位関節に生じることがわかった。以上より,床面の外乱刺激では足関節に外乱の影響が最も出やすく,前脛骨筋の活動が重要であると考える。また股関節は筋張力の影響を受けやすく,筋収縮によって能動的に他の関節を動かした結果現れる運動であることがわかった。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では外乱応答における足関節と股関節の動きは異なる要素で生じていることが明らかとなり,姿勢制御を解析する上で重要な知見が得られた。
ヒトは外乱よって生じる関節動揺に対して,筋を活動させて姿勢を修正する。多関節運動では関節間で運動が相互に作用して複数の関節が連動して動くため,筋は一つの関節を動かすだけでなく,離れた関節の運動にも作用する。転倒を回避するためには外乱に応じた筋活動により姿勢を調節する必要があるが,多関節運動における筋の役割が複雑であるため,どの筋が外乱応答に重要かはこれまで十分に議論されてこなかった。筋の役割を解析する方法として,歩行解析研究で順動力学筋骨格シミュレーションが用いられている。このモデルを姿勢制御解析に適応すれば,筋活動と動作の関連性が明確になり,姿勢制御に重要な筋を特定することができる。そこで本研究では順動力学筋骨格シミュレーション解析を用いて外乱刺激後の動作を解析し,姿勢制御における筋の役割を検討した。
【方法】
実験は動作測定後に,シミュレーション解析を行った。まず,70歳女性を対象として外乱刺激時の動作を測定した。被験者には肩峰,大転子,膝外側,外果,第五中足骨に反射マーカー,大腿直筋,大腿二頭筋,前脛骨筋,ヒラメ筋に表面筋電図用電極を張り付けた。安静立位の状態から床面が前方に速度15cm/秒,移動距離6cmで動いた際の関節角度,筋活動を測定した。なお,動作は10回以上の練習を行った後に計測した。次に,足部,下腿,大腿,体幹の4セグメント,3関節,9筋を有する筋骨格モデルを用いてシミュレーション解析を行った。筋,腱,セグメントなどモデルパラメータは先行研究のデータを用いた。安静立位の状態から床面が前方へ動いて体が後方へ倒れ,筋活動によって姿勢を元の状態に修正するまでの動作をシミュレーション上で作り上げた。先行研究に準じて,関節運動は測定データを追従するよう静的最適化により筋活動を求めた後,順動力学解析を行った。このシミュレーション結果から外乱刺激および筋張力が各関節の角加速度に与える影響をInduced acceleration解析にて検討した。この解析法は関節に生じた角加速度を数値計算によって筋張力,重力,外乱等の要素に分解することができる。なお,筋張力は外乱応答だけでなく体重支持も担うため,筋張力によって生じる角加速度から重力要素を引いた重力差分後の筋張力として示した。また筋張力を分解し,どの筋が関節の角加速度に貢献するのかを検討した。なお,本研究はC言語を用いてプログラムを作成して解析を行っている。
【結果】
筋活動,関節角度は測定値とシミュレーション結果で同様の傾向を示した。シミュレーション結果より外乱刺激後50msでの角加速度は外乱刺激によって生じている要素が強く,足関節が外乱の影響を最も強く受けた(外乱:足6.0m/s2,膝5.0m/s2,股-1.1m/s2,筋張力:足0.6m/s2,膝-1.1m/s2,股-0.1m/s2)。外乱刺激後80ms頃から前脛骨筋,大腿広筋群の活動が始まり,150msでは筋張力によって角加速度が強く生じた(外乱:足-0.7m/s2,膝0.7m/s2,股0.1m/s2,筋張力:足-8.9m/s2,膝12.0m/s2,股-1.8m/s2)。筋張力を筋別に分解すると,前脛骨筋と大腿広筋群が強く関節運動に関与し,前脛骨筋は足背屈,膝屈曲,股屈曲,大腿広筋群は足底屈,膝伸展,股伸展に強く関与し,拮抗した作用を持つことがわかった。
【考察】
外乱刺激直後は前面の筋群が働いて体が後方に倒れるのを防ぐ。特に足関節は外乱の影響が最も強く,前脛骨筋の活動によって関節を制御する。しかし,前脛骨筋は足背屈だけでなく,脛骨前傾による膝屈曲,大腿骨後傾による股屈曲を同時に生じさせる。一方,同じ体の前面に位置する大腿広筋群は前脛骨筋と拮抗する作用を有するため,前脛骨筋によって生じた関節運動を相殺する働きを持つ。このような筋の相殺作用で残った関節運動が股関節など外乱刺激の影響を受けにくい近位関節に生じることがわかった。以上より,床面の外乱刺激では足関節に外乱の影響が最も出やすく,前脛骨筋の活動が重要であると考える。また股関節は筋張力の影響を受けやすく,筋収縮によって能動的に他の関節を動かした結果現れる運動であることがわかった。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では外乱応答における足関節と股関節の動きは異なる要素で生じていることが明らかとなり,姿勢制御を解析する上で重要な知見が得られた。