[P1-C-0143] 肩関節挙上時の胸椎可動性制限による代償作用の検証
~超音波診断装置を用いた筋厚の変化を指標に~
Keywords:超音波画像装置, 腱板筋群, 胸椎可動性
【はじめに,目的】
肩関節挙上には三角筋を中心とした肩関節周囲筋群と腱板筋群との協調的な筋活動が重要であるといわれている。また,腱板筋群には相互の代償作用があるという報告もある。臨床において,脊柱,特に胸椎の可動性低下を認める例に,肩関節痛や可動域制限を認めることを経験することが多い。近年の研究では,肩関節と体幹の運動連鎖の関連性についての報告も散見されている。しかし,脊柱可動性と肩関節周囲筋群,腱板筋群との筋活動の関連性に関する報告は少ない。そこで本研究では,超音波画像装置を用いて,肩関節前方挙上時における胸椎可動性制限の有無が肩関節周囲筋群,腱板筋群の筋厚に及ぼす影響を検証し,胸椎の可動性と肩関節周囲筋群,腱板筋群の筋活動の関連性を見出すことを目的とした。
【方法】
対象は健常男性成人10名10肩。(平均身長167.3±5.7cm,平均体重62±6.1kg,平均年齢28.8±4.1歳)右肩関節前方挙上0°,30°,60°,90°の筋厚を胸椎可動性を制限した条件(以下,制限群)と制限しない条件(以下,制限なし群)の2条件で測定した。胸椎の可動性制限は胸骨剣状突起レベルの高さで体幹を支柱にベルト固定した。肩甲骨の動きは制限していない。測定筋は肩関節周囲筋群として僧帽筋上部線維,三角筋後部線維,腱板筋群として棘上筋,棘下筋腱とした。測定肢位は端座位で股関節膝関節90°位とした。測定機器は超音波画像装置(TOSHIBA Viamo SSA-640A 2010年式)を使用した。僧帽筋と棘上筋の筋厚は,肩甲棘上(肩甲棘基部から肩峰角)の50%部位にマーカーをつけ,筋の長軸方向に垂直にプローブを当て測定した。また,三角筋と棘下筋腱の筋厚は,肩峰角直下の部位にマーカーをつけ,筋の長軸方向に測定した。2条件をランダムに2回行い,平均値を採用した。肩関節前方挙上30°毎の僧帽筋上部線維と三角筋,棘上筋と棘下筋腱の筋厚を算出し,2条件間で比較した。統計処理は対応のあるT検定を採用した。検定には統計解析ソフト(SPSS15.0J)を用いた。有意水準5%未満とした。
【結果】
制限群,制限なし群の2条件間において,肩関節前方挙上60°位で三角筋に有意な筋厚の減少(制限なし群9.37±2.08mm,制限あり群8.63±1.82mm),棘下筋腱に有意な筋厚の増加(制限なし群5.9±1.18mm,制限あり群6.53±1.26mm)を認めた。それ以外の角度では有意差はなかった。僧帽筋上部線維,棘上筋の筋厚は各角度で有意差はなかった。
【考察】
肩関節挙上時には肩関節周囲筋群と腱板筋群の協調的な筋活動が重要であることが述べられている。近年では,上肢挙上運動に伴って腰椎前弯角が直線的に増加し,150°挙上以上で胸椎後弯角が減少するといった報告や肩関節挙上時に体幹が後方へ僅かに移動するといった肩関節挙上と脊柱の運動連鎖に関する報告も散見されるようになった。臨床において,胸椎の可動性低下により肩関節痛や可動域制限を認める例を経験することがある。そこで今回,肩関節前方挙上における胸椎可動性制限の有無による肩関節周囲筋群,腱板筋群の筋活動の関連性について検討した。
超音波画像装置と筋活動の関係については,高橋らにより30%随意収縮強度以下の低強度の筋収縮にて棘上筋筋厚は筋活動を反映することが報告されている。今回の結果より,肩関節前方挙上60°位で制限群の三角筋筋厚が有意に減少し,棘下筋腱の筋厚が有意に増加したことから,胸椎の可動性が制限されると,肩関節前方挙上60°で三角筋の筋活動が減少し,棘下筋の筋活動は増加することが推測された。胸椎可動性制限により肩関節挙上時の肩甲骨上方回旋,外転が制限されたことで,上腕骨頭を関節窩に引き寄せる作用である腱板筋群に大きな負荷が強いられた結果と考えられる。また,肩関節周囲筋群と腱板筋群の筋活動バランスを保つために三角筋の筋厚は減少したと考えられる。これらのことから臨床においても胸椎の可動性が低下している例では,腱板筋群の一部が代償し過剰な負荷が集中する結果,機能障害に繋がることも考えられ,胸椎可動性と肩関節周囲筋群,腱板筋群の関連性について考慮していく必要性が示唆された。
今回の研究では,肩関節前方挙上90°までの測定であり,今後は超音波画像装置と筋電図を用いて最大挙上位までの検討が必要であると考えられる。肩関節前方挙上時の脊柱可動性と肩関節周囲筋群,腱板筋群の代償作用や腱板筋群相互の代償作用との関連性について今後も検証していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
臨床において,胸椎可動性と肩関節周囲筋群,腱板筋群の関連性に配慮した運動療法の選択が有効であることが示唆された。
肩関節挙上には三角筋を中心とした肩関節周囲筋群と腱板筋群との協調的な筋活動が重要であるといわれている。また,腱板筋群には相互の代償作用があるという報告もある。臨床において,脊柱,特に胸椎の可動性低下を認める例に,肩関節痛や可動域制限を認めることを経験することが多い。近年の研究では,肩関節と体幹の運動連鎖の関連性についての報告も散見されている。しかし,脊柱可動性と肩関節周囲筋群,腱板筋群との筋活動の関連性に関する報告は少ない。そこで本研究では,超音波画像装置を用いて,肩関節前方挙上時における胸椎可動性制限の有無が肩関節周囲筋群,腱板筋群の筋厚に及ぼす影響を検証し,胸椎の可動性と肩関節周囲筋群,腱板筋群の筋活動の関連性を見出すことを目的とした。
【方法】
対象は健常男性成人10名10肩。(平均身長167.3±5.7cm,平均体重62±6.1kg,平均年齢28.8±4.1歳)右肩関節前方挙上0°,30°,60°,90°の筋厚を胸椎可動性を制限した条件(以下,制限群)と制限しない条件(以下,制限なし群)の2条件で測定した。胸椎の可動性制限は胸骨剣状突起レベルの高さで体幹を支柱にベルト固定した。肩甲骨の動きは制限していない。測定筋は肩関節周囲筋群として僧帽筋上部線維,三角筋後部線維,腱板筋群として棘上筋,棘下筋腱とした。測定肢位は端座位で股関節膝関節90°位とした。測定機器は超音波画像装置(TOSHIBA Viamo SSA-640A 2010年式)を使用した。僧帽筋と棘上筋の筋厚は,肩甲棘上(肩甲棘基部から肩峰角)の50%部位にマーカーをつけ,筋の長軸方向に垂直にプローブを当て測定した。また,三角筋と棘下筋腱の筋厚は,肩峰角直下の部位にマーカーをつけ,筋の長軸方向に測定した。2条件をランダムに2回行い,平均値を採用した。肩関節前方挙上30°毎の僧帽筋上部線維と三角筋,棘上筋と棘下筋腱の筋厚を算出し,2条件間で比較した。統計処理は対応のあるT検定を採用した。検定には統計解析ソフト(SPSS15.0J)を用いた。有意水準5%未満とした。
【結果】
制限群,制限なし群の2条件間において,肩関節前方挙上60°位で三角筋に有意な筋厚の減少(制限なし群9.37±2.08mm,制限あり群8.63±1.82mm),棘下筋腱に有意な筋厚の増加(制限なし群5.9±1.18mm,制限あり群6.53±1.26mm)を認めた。それ以外の角度では有意差はなかった。僧帽筋上部線維,棘上筋の筋厚は各角度で有意差はなかった。
【考察】
肩関節挙上時には肩関節周囲筋群と腱板筋群の協調的な筋活動が重要であることが述べられている。近年では,上肢挙上運動に伴って腰椎前弯角が直線的に増加し,150°挙上以上で胸椎後弯角が減少するといった報告や肩関節挙上時に体幹が後方へ僅かに移動するといった肩関節挙上と脊柱の運動連鎖に関する報告も散見されるようになった。臨床において,胸椎の可動性低下により肩関節痛や可動域制限を認める例を経験することがある。そこで今回,肩関節前方挙上における胸椎可動性制限の有無による肩関節周囲筋群,腱板筋群の筋活動の関連性について検討した。
超音波画像装置と筋活動の関係については,高橋らにより30%随意収縮強度以下の低強度の筋収縮にて棘上筋筋厚は筋活動を反映することが報告されている。今回の結果より,肩関節前方挙上60°位で制限群の三角筋筋厚が有意に減少し,棘下筋腱の筋厚が有意に増加したことから,胸椎の可動性が制限されると,肩関節前方挙上60°で三角筋の筋活動が減少し,棘下筋の筋活動は増加することが推測された。胸椎可動性制限により肩関節挙上時の肩甲骨上方回旋,外転が制限されたことで,上腕骨頭を関節窩に引き寄せる作用である腱板筋群に大きな負荷が強いられた結果と考えられる。また,肩関節周囲筋群と腱板筋群の筋活動バランスを保つために三角筋の筋厚は減少したと考えられる。これらのことから臨床においても胸椎の可動性が低下している例では,腱板筋群の一部が代償し過剰な負荷が集中する結果,機能障害に繋がることも考えられ,胸椎可動性と肩関節周囲筋群,腱板筋群の関連性について考慮していく必要性が示唆された。
今回の研究では,肩関節前方挙上90°までの測定であり,今後は超音波画像装置と筋電図を用いて最大挙上位までの検討が必要であると考えられる。肩関節前方挙上時の脊柱可動性と肩関節周囲筋群,腱板筋群の代償作用や腱板筋群相互の代償作用との関連性について今後も検証していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
臨床において,胸椎可動性と肩関節周囲筋群,腱板筋群の関連性に配慮した運動療法の選択が有効であることが示唆された。