[P1-C-0146] 体幹の側方偏位が腹直筋筋厚および呼吸機能に及ぼす影響
Keywords:体幹偏位, 腹直筋筋厚, 呼出機能
【はじめに,目的】
腹直筋は,姿勢の側面では胸郭と骨盤を連結し体幹の安定性に重要な役割を果たしている。また,呼吸の側面では,恒常的な胸郭可動性の維持や強制呼気での瞬発的な呼出力の維持などにおいて重要な作用を担っている。通常,体幹の側方偏位の拡大により胸郭形状の非対称性は助長し,胸郭に付着する腹直筋の長さ・張力関係にも変化を来す。その結果,左右の腹直筋線維の活動にも機能差が生じる。したがって,左右の腹直筋線維の活動にみられる機能差を最小限にすることが臨床結果を判定する指標の一つとなり得る。
そこで本研究の目的を体幹の側方偏位がもたらす腹直筋筋厚および呼吸機能への影響について検討した。
【方法】
対象は,整形外科的および神経学的に問題がない健常成人男性12名とした(年齢:27.7±4.5歳,身長:178.5±8.0cm,体重:70.9±8.4kg,BMI:22.2±3.1)。測定条件は,水準計を用いて2台のベッドの段差及び床面とベッドが水平なことを確認した。測定肢位は,安静背臥位とし対象者の第12肋骨下端部を指標にベッド端に位置させた。身体指標点は,両ASIS,両ASIS中央点及び剣状突起にマーキングを行った。超音波診断装置(mylab25,日立メディコ社,東京)を用いて腹直筋第3筋区画の上下縁を確認し,同レベルにマーキングを行い,テープメジャーを用いてそれらの中央点にマーキングを行った。体幹偏位の規定は安静背臥位にて,安静呼気位でデジタルカメラ(IXY 420f,canon社,東京)にて写真撮影を行った。測定距離は,両ASIS中央点から身体長軸への垂線と剣状突起間とした。得られた画像を画像解析ソフトimageJ(NIH社製,Bethesda)にて体幹偏位量を確認し,それを元に他動的にベッドをスライドさせ正中位,偏位量増大位の2条件で検討した。腹直筋筋厚の測定部位は,最も左右のずれが少ない腹直筋第3筋区画を採択した。超音波診断装置を用いて左右腹直筋第3筋区画中央点を結ぶ線上にプローブを位置し,短軸像を抽出した。得られた画像の中央部に白線が位置しているのを確認後,フリーハンドにて固定した。課題動作は安静呼気,努力呼気としそれぞれの呼気終末時で得られた画像はImageJを用いて,白線からの2cm外側の筋膜間距離を筋厚として算出した。正中位,偏位量増大位でそれぞれ3回行い,平均値を代表値とした。呼吸機能の測定は,課題動作を安静呼吸とし,呼気ガス分析装置(AE-300S,ミナト医科学社製,大阪)とスパイロメーター(AS 507,ミナト医科学社,大阪)を用いて測定した。呼気ガス分析装置では,TV,MV,RRを180秒間測定し,得られた値の60~120秒間を採択した。スパイロメーターでは,VC,FVC,PEFRを測定した。課題動作は努力呼吸とし,安定した安静呼吸を確認後,測定した。マウスピースを咥える力を除外するため,検者がマウスピースを把持した。課題動作は各3回行い,呼気終末での画像や値を採択し平均値を代表値とした。解析方法は,体幹偏位を両ASIS間距離に対して偏位比率を算出した。正規化を得るため左側の値を100%とし左側に対して右側との比率を算出した。腹直筋筋厚では,左側の値を100%として,左側に対して右側との比率を算出した。統計処理は,統計ソフトウェアSPSS18J(IBM社製)を使用し各項目を対応のあるt検定を用いて有意確率5%未満とした。
【結果】
安静時,体幹は優位に左側に偏位していた(p<0.01)。努力呼吸の腹直筋筋厚は,偏位量増大位において右側に比べ左側で有意に減少した(p<0.05)。正中位では,有意な差がみられなかった(p>0.05)。TV及びRRにおいては,体幹正中位に比べ偏位量増大位で有意に減少した(p<0.05)。MVにおいては有意な差がみられなかった(n.s)。VC,FVC及びPEFRは正中位に比べ偏位量増大位で有意に減少した(p<0.05)。
【考察】
今回の結果から安静背臥位では,骨盤に対して体幹は有意に左側に偏位を呈し,左側への側方偏位が増大すると左右の腹直筋の筋厚において機能差が生じた。それらは呼出機能低下に通ずることが示された。また,体幹の右側方への偏位改善は,胸郭の正中化に寄与し付着する左右の腹直筋の均等な張力の再建に結びつき,呼吸運動における左右対称性の胸郭可動性や筋活動により呼出機能改善が図れたと考察する。体幹の正中化により強制呼気に関与する協調的な腹直筋機能の発揮が得られ,効率的な呼出機能が獲得できたと考察する。
今【理学療法学研究としての意義】
本研究において呼吸運動における健常成人の体幹偏位が腹直筋活動及び呼吸機能に及ぼす影響が示された。呼吸器疾患に限らず運動器疾患を評価するにあたり臨床的意義があり,それらに対する理学療法の一助になる。
腹直筋は,姿勢の側面では胸郭と骨盤を連結し体幹の安定性に重要な役割を果たしている。また,呼吸の側面では,恒常的な胸郭可動性の維持や強制呼気での瞬発的な呼出力の維持などにおいて重要な作用を担っている。通常,体幹の側方偏位の拡大により胸郭形状の非対称性は助長し,胸郭に付着する腹直筋の長さ・張力関係にも変化を来す。その結果,左右の腹直筋線維の活動にも機能差が生じる。したがって,左右の腹直筋線維の活動にみられる機能差を最小限にすることが臨床結果を判定する指標の一つとなり得る。
そこで本研究の目的を体幹の側方偏位がもたらす腹直筋筋厚および呼吸機能への影響について検討した。
【方法】
対象は,整形外科的および神経学的に問題がない健常成人男性12名とした(年齢:27.7±4.5歳,身長:178.5±8.0cm,体重:70.9±8.4kg,BMI:22.2±3.1)。測定条件は,水準計を用いて2台のベッドの段差及び床面とベッドが水平なことを確認した。測定肢位は,安静背臥位とし対象者の第12肋骨下端部を指標にベッド端に位置させた。身体指標点は,両ASIS,両ASIS中央点及び剣状突起にマーキングを行った。超音波診断装置(mylab25,日立メディコ社,東京)を用いて腹直筋第3筋区画の上下縁を確認し,同レベルにマーキングを行い,テープメジャーを用いてそれらの中央点にマーキングを行った。体幹偏位の規定は安静背臥位にて,安静呼気位でデジタルカメラ(IXY 420f,canon社,東京)にて写真撮影を行った。測定距離は,両ASIS中央点から身体長軸への垂線と剣状突起間とした。得られた画像を画像解析ソフトimageJ(NIH社製,Bethesda)にて体幹偏位量を確認し,それを元に他動的にベッドをスライドさせ正中位,偏位量増大位の2条件で検討した。腹直筋筋厚の測定部位は,最も左右のずれが少ない腹直筋第3筋区画を採択した。超音波診断装置を用いて左右腹直筋第3筋区画中央点を結ぶ線上にプローブを位置し,短軸像を抽出した。得られた画像の中央部に白線が位置しているのを確認後,フリーハンドにて固定した。課題動作は安静呼気,努力呼気としそれぞれの呼気終末時で得られた画像はImageJを用いて,白線からの2cm外側の筋膜間距離を筋厚として算出した。正中位,偏位量増大位でそれぞれ3回行い,平均値を代表値とした。呼吸機能の測定は,課題動作を安静呼吸とし,呼気ガス分析装置(AE-300S,ミナト医科学社製,大阪)とスパイロメーター(AS 507,ミナト医科学社,大阪)を用いて測定した。呼気ガス分析装置では,TV,MV,RRを180秒間測定し,得られた値の60~120秒間を採択した。スパイロメーターでは,VC,FVC,PEFRを測定した。課題動作は努力呼吸とし,安定した安静呼吸を確認後,測定した。マウスピースを咥える力を除外するため,検者がマウスピースを把持した。課題動作は各3回行い,呼気終末での画像や値を採択し平均値を代表値とした。解析方法は,体幹偏位を両ASIS間距離に対して偏位比率を算出した。正規化を得るため左側の値を100%とし左側に対して右側との比率を算出した。腹直筋筋厚では,左側の値を100%として,左側に対して右側との比率を算出した。統計処理は,統計ソフトウェアSPSS18J(IBM社製)を使用し各項目を対応のあるt検定を用いて有意確率5%未満とした。
【結果】
安静時,体幹は優位に左側に偏位していた(p<0.01)。努力呼吸の腹直筋筋厚は,偏位量増大位において右側に比べ左側で有意に減少した(p<0.05)。正中位では,有意な差がみられなかった(p>0.05)。TV及びRRにおいては,体幹正中位に比べ偏位量増大位で有意に減少した(p<0.05)。MVにおいては有意な差がみられなかった(n.s)。VC,FVC及びPEFRは正中位に比べ偏位量増大位で有意に減少した(p<0.05)。
【考察】
今回の結果から安静背臥位では,骨盤に対して体幹は有意に左側に偏位を呈し,左側への側方偏位が増大すると左右の腹直筋の筋厚において機能差が生じた。それらは呼出機能低下に通ずることが示された。また,体幹の右側方への偏位改善は,胸郭の正中化に寄与し付着する左右の腹直筋の均等な張力の再建に結びつき,呼吸運動における左右対称性の胸郭可動性や筋活動により呼出機能改善が図れたと考察する。体幹の正中化により強制呼気に関与する協調的な腹直筋機能の発揮が得られ,効率的な呼出機能が獲得できたと考察する。
今【理学療法学研究としての意義】
本研究において呼吸運動における健常成人の体幹偏位が腹直筋活動及び呼吸機能に及ぼす影響が示された。呼吸器疾患に限らず運動器疾患を評価するにあたり臨床的意義があり,それらに対する理学療法の一助になる。