[P1-C-0149] jerk最小モデルを用いた脳卒中片麻痺歩行の解析と機能障害との関係
キーワード:脳卒中, 歩行, 機能障害
【はじめに,目的】
歩行をはじめとする日常の諸動作は姿勢の経時的変化であり,身体重心の軌道により表象化される。また,その軌道は身体と課題及び環境の3条件により最適化される。歩行における動作戦略の優先規範が「滑らかに動くこと」と仮定することでjerk最小モデル(Flash & Hogan, 1985)による予測軌道は歩行の理念型として定義できると考え,我々は,先行研究にてjerk最小モデルを用いた歩行中の重心移動の軌道予測が健常成人において可能であることを示した(PT学会,2013)。一方,機能的制限は疾病に基づく機能障害によりもたらされるが,脳卒中者の歩行においては身体重心の軌道にその疾病特異性を見いだすことができる(Iida, 1987)。我々は,脳卒中者の主要な機能的制限である歩行について,疾病特異性からもたらされる身体重心軌道に着目し,健常成人で軌道予測が可能であった歩行中の身体重心軌道を脳卒中者において実測軌道を予測軌道と比較することで,重心移動の滑らかさの最適性という観点における歩行の機能的制限を明らかにすることが可能と考えた。さらに機能障害の個別性が歩行中の重心軌道軌跡の最適化に影響を及ぼすと仮定してjerk最小モデルを応用した歩行解析を試みた。本研究の目的は脳卒中者の歩行における重心移動の滑らかさをjerk最小モデルを用いて定量化し機能的制限を明らかにすることと,関係する機能障害因子を明らかにすることである。
【方法】
脳卒中者7名を対象とした。対象者は全員女性で年齢は46.2±7.1歳であった。取り込み基準は発症から6ヶ月以上経過しており,歩行補助具なしで10m以上歩行が可能な者とし,歩行に影響を及ぼす失調症状を有する者,整形外科疾患の既往がある者,高次脳機能障害または認知機能の低下により実験手順の理解が困難な者は除外した。計測は3次元動作解析装置(Vicon NEXUS;vicon)を用い,前後に2mの予備路を設けた10mの歩行路を任意の快適歩行速度,裸足,杖なしの条件で歩行した。解析は全被験者において任意に抽出した麻痺側1歩行周期とした。歩行周期の開始,終了時の身体重心の位置,速度,加速度データからjerk最小モデルを用いて重心移動の最適値を算出した。また10m歩行の歩行速度を算出した。機能 障害因子は筋力(膝関節伸展等尺性筋力),バランステスト(Berg Balance scale),片麻痺運動機能(Stroke Impairment Assessment Set;SIAS,Fugl-meyer assessment(下肢項目のみ)),Brunnstrom recovery stage test,痙性評価(modified Ashworth scale)を測定した。分析は前額面(x方向),矢状面(y方向)の2方向で行った。jerk最小モデルによる最適軌道と実測軌道との一致度を最適軌道と実測軌道との差の実効値(Root mean square:RMS)から算出した。歩行能力との関係を歩行速度とRMSの相関から検討した。RMSと各機能障害因子との相関から脳卒中者の歩行機能に影響する機能障害因子を検討した。統計解析はR-2.8.1を使用し,有意水準はp=0.05とした。
【結果】
RMSはx方向16.1±9.9,y方向28.5±8.4であった。歩行速度とRMSの相関はx方向-0.86,y方向-0.09であった。x方向のRMSと機能障害との関係で有意な相関が認められたのはSIAS筋緊張(-0.76)とSIAS麻痺側下肢機能(-0.85)であった。対象者の基本情報とRMSにおいて有意な相関は認められなかった。
【考察】
先行研究で得られた健常成人の値(RMS平均:x方向3.9±2.3,y方向32.0±10.3)を基準に考えると,健常成人に対し脳卒中者はx方向の重心移動において最適軌道と実測軌道の誤差が生じていると考えられる。さらにx方向において歩行速度との相関が高いことも認められたことから,脳卒中片麻痺者の歩行はx方向の重心移動の滑らかさの最適性の欠如が機能的制限として捉えられることが示された。また,x方向のRMSとの関係からSIASの筋緊張と麻痺側下肢機能から評価できる機能障害が歩行動作に影響を与える事が示唆された。SIASで評価される筋緊張は筋緊張の低下も評価され,麻痺側下肢機能は関節運動のぎこちなさによって点数を区別する。このことから,滑らかさの欠如を伴う麻痺側運動機能の制限と低緊張を含めた下肢の筋緊張の程度が歩行中の身体重心の制御を滑らかに行うことに影響を与えたと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は脳卒中者の歩行における疾患特異的な機能的制限を定量化し,機能障害との関係を明らかにした。脳卒中者の歩行解析における基礎的資料となり,対象者個別での目標,動作戦略の設定のための一助となり得る。
歩行をはじめとする日常の諸動作は姿勢の経時的変化であり,身体重心の軌道により表象化される。また,その軌道は身体と課題及び環境の3条件により最適化される。歩行における動作戦略の優先規範が「滑らかに動くこと」と仮定することでjerk最小モデル(Flash & Hogan, 1985)による予測軌道は歩行の理念型として定義できると考え,我々は,先行研究にてjerk最小モデルを用いた歩行中の重心移動の軌道予測が健常成人において可能であることを示した(PT学会,2013)。一方,機能的制限は疾病に基づく機能障害によりもたらされるが,脳卒中者の歩行においては身体重心の軌道にその疾病特異性を見いだすことができる(Iida, 1987)。我々は,脳卒中者の主要な機能的制限である歩行について,疾病特異性からもたらされる身体重心軌道に着目し,健常成人で軌道予測が可能であった歩行中の身体重心軌道を脳卒中者において実測軌道を予測軌道と比較することで,重心移動の滑らかさの最適性という観点における歩行の機能的制限を明らかにすることが可能と考えた。さらに機能障害の個別性が歩行中の重心軌道軌跡の最適化に影響を及ぼすと仮定してjerk最小モデルを応用した歩行解析を試みた。本研究の目的は脳卒中者の歩行における重心移動の滑らかさをjerk最小モデルを用いて定量化し機能的制限を明らかにすることと,関係する機能障害因子を明らかにすることである。
【方法】
脳卒中者7名を対象とした。対象者は全員女性で年齢は46.2±7.1歳であった。取り込み基準は発症から6ヶ月以上経過しており,歩行補助具なしで10m以上歩行が可能な者とし,歩行に影響を及ぼす失調症状を有する者,整形外科疾患の既往がある者,高次脳機能障害または認知機能の低下により実験手順の理解が困難な者は除外した。計測は3次元動作解析装置(Vicon NEXUS;vicon)を用い,前後に2mの予備路を設けた10mの歩行路を任意の快適歩行速度,裸足,杖なしの条件で歩行した。解析は全被験者において任意に抽出した麻痺側1歩行周期とした。歩行周期の開始,終了時の身体重心の位置,速度,加速度データからjerk最小モデルを用いて重心移動の最適値を算出した。また10m歩行の歩行速度を算出した。機能 障害因子は筋力(膝関節伸展等尺性筋力),バランステスト(Berg Balance scale),片麻痺運動機能(Stroke Impairment Assessment Set;SIAS,Fugl-meyer assessment(下肢項目のみ)),Brunnstrom recovery stage test,痙性評価(modified Ashworth scale)を測定した。分析は前額面(x方向),矢状面(y方向)の2方向で行った。jerk最小モデルによる最適軌道と実測軌道との一致度を最適軌道と実測軌道との差の実効値(Root mean square:RMS)から算出した。歩行能力との関係を歩行速度とRMSの相関から検討した。RMSと各機能障害因子との相関から脳卒中者の歩行機能に影響する機能障害因子を検討した。統計解析はR-2.8.1を使用し,有意水準はp=0.05とした。
【結果】
RMSはx方向16.1±9.9,y方向28.5±8.4であった。歩行速度とRMSの相関はx方向-0.86,y方向-0.09であった。x方向のRMSと機能障害との関係で有意な相関が認められたのはSIAS筋緊張(-0.76)とSIAS麻痺側下肢機能(-0.85)であった。対象者の基本情報とRMSにおいて有意な相関は認められなかった。
【考察】
先行研究で得られた健常成人の値(RMS平均:x方向3.9±2.3,y方向32.0±10.3)を基準に考えると,健常成人に対し脳卒中者はx方向の重心移動において最適軌道と実測軌道の誤差が生じていると考えられる。さらにx方向において歩行速度との相関が高いことも認められたことから,脳卒中片麻痺者の歩行はx方向の重心移動の滑らかさの最適性の欠如が機能的制限として捉えられることが示された。また,x方向のRMSとの関係からSIASの筋緊張と麻痺側下肢機能から評価できる機能障害が歩行動作に影響を与える事が示唆された。SIASで評価される筋緊張は筋緊張の低下も評価され,麻痺側下肢機能は関節運動のぎこちなさによって点数を区別する。このことから,滑らかさの欠如を伴う麻痺側運動機能の制限と低緊張を含めた下肢の筋緊張の程度が歩行中の身体重心の制御を滑らかに行うことに影響を与えたと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は脳卒中者の歩行における疾患特異的な機能的制限を定量化し,機能障害との関係を明らかにした。脳卒中者の歩行解析における基礎的資料となり,対象者個別での目標,動作戦略の設定のための一助となり得る。