[P1-C-0156] 若年者と高齢者のスクワット動作の比較
Keywords:スクワット動作, 加齢, 重心
【はじめに】スクワット動作は理学療法だけでなく健康増進のため若年者から高齢者まで幅広い年代で用いられる。スクワット動作に関する研究では主に若年者やスポーツ傷害患者(ACL損傷患者)を対象とし,高齢者を対象とした報告は少なく,スクワット動作への加齢の影響に関する情報は乏しい。前回の本学会において,スクワット動作時の重心運動や関節運動が60代と70代の間で異なることを報告した。しかしながら,健常若年者との比較を行っていなかった。従って,今回,我々は若年者を対象に加え,高齢者のスクワット動作と比較検討したので報告する。
【方法】対象は健康若年者12名(平均年齢20.7±0.5歳),健康高齢者18名(平均年齢70.7±3.7歳),1年以内に転倒歴のない者とした。スクワット動作は裸足で床反力計上で行われ,安静直立位からのしゃがみ姿勢までとした。上肢は胸部の前でクロスさせ,スクワット動作時に大腿部に触れないようにした。立位静止後,閉眼させ,聴覚刺激によりスクワット動作を開始させた。被験者への口頭指示は「音の合図後,出来るだけ素早く腰を落として下さい。踵やつま先を浮かせてはいけません。また,胸の前に組んだ腕が太ももに当たらないようにして下さい。」とし,5回実施した。スクワット動作時の重心運動を算出するためにWinterらの方法に従い3次元動作解析を用いた(100Hz)。重心(COM)位置と下肢関節角度を算出した。データは10Hzのローパスフィルター処理後,運動開始の聴覚刺激の合図を基準として各データを再配列した。スクワット動作時のCOMの下方最大変位,前後最大変位,左右最大変位,下方最大速度を求めた。なお,下方最大変位は各被験者の身長,前後最大変位は足長,左右最大変位は両外果間距離で正規化した。各下肢関節運動について,聴覚刺激から運動開始までの反応時間と最大角度を求めた。各被験者の5試行の平均と標準偏差を求め,有意差検定には対応の無いt検定と一元配置分散分析を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】COMの下方最大変位は若年群で18.6±2.9%,高齢群17.5±5.9%で差を認めなかった。高齢群のCOM下方最大速度は若年群に比べ有意に小さかった(0.44±0.17 m/s vs. 0.77±0.18 m/s,p<0.01)。若年群のCOMの前後最大変位は高齢群より有意に大きかったが(20.9±7.1% vs.13.0±5.3%,p<0.01),左右最大変位は両群とも5%以下であり年齢差を認めなかった。両群の各下肢関節運動の反応時間に有意差を認めず,下肢関節は同時に運動を開始していた。股関節最大屈曲度は高齢群(55.9±19.4度)に比べて若年群(121.5±9.6度)で有意に大きかった(p<0.01)が,それ以外の関節に年齢差を認めなかった。
【考察】本研究の結果,高齢者は若年者に比べて遅く,前後方向に重心変化の少ないスクワット動作を行っていた。本研究では高齢者のスクワット動作は浅くなると予想したが,高齢者のCOM下方最大変位は有意に低下していなかった。今回の高齢者は健康問題もなく,過去1年間に転倒歴の無い者であった。さらに,高齢者のデータには大きなばらつきがみられ,これらのことが年齢差を認めなかった理由と考えられる。高齢者の下方への最大速度の低下に関しては,前回と同様であり,加齢による運動の特徴を示していた。両群ともCOMの左右方向の運動は非常に小さく,スクワット動作が主として前後方向と垂直方向の運動であることが示された。前後方向のCOMの運動は若年者に比べて高齢者で有意に小さく,このことは高齢者の股関節屈曲角度の減少と関連するかもしれない。一般的に,股関節戦略は前後方向の運動に関与する(Nashner 1977,Winter 1990)。高齢者の姿勢戦略の特徴は股関節戦略を優先することであるが,これらは主に前後方向のみ,または,左右方向のみの運動課題から得られた知見である。垂直方向の姿勢や重心の変化を伴うスクワット動作では,高齢者は若年者に比べてよりCOMの運動を小さくして転倒の危険性を低くしていた可能性がある。今後,被験者数を増やし,さらに,下肢筋活動などを同時に調べることにより高齢者の運動特性を明らかにしたい。
【理学療法学研究としての意義】今回の研究は幅広く用いられているスクワット動作への加齢の影響を若年者と高齢者の比較から明らかにした。本研究結果は高齢者や高齢患者にスクワット動作を行わせるときの有用な情報となる。
【方法】対象は健康若年者12名(平均年齢20.7±0.5歳),健康高齢者18名(平均年齢70.7±3.7歳),1年以内に転倒歴のない者とした。スクワット動作は裸足で床反力計上で行われ,安静直立位からのしゃがみ姿勢までとした。上肢は胸部の前でクロスさせ,スクワット動作時に大腿部に触れないようにした。立位静止後,閉眼させ,聴覚刺激によりスクワット動作を開始させた。被験者への口頭指示は「音の合図後,出来るだけ素早く腰を落として下さい。踵やつま先を浮かせてはいけません。また,胸の前に組んだ腕が太ももに当たらないようにして下さい。」とし,5回実施した。スクワット動作時の重心運動を算出するためにWinterらの方法に従い3次元動作解析を用いた(100Hz)。重心(COM)位置と下肢関節角度を算出した。データは10Hzのローパスフィルター処理後,運動開始の聴覚刺激の合図を基準として各データを再配列した。スクワット動作時のCOMの下方最大変位,前後最大変位,左右最大変位,下方最大速度を求めた。なお,下方最大変位は各被験者の身長,前後最大変位は足長,左右最大変位は両外果間距離で正規化した。各下肢関節運動について,聴覚刺激から運動開始までの反応時間と最大角度を求めた。各被験者の5試行の平均と標準偏差を求め,有意差検定には対応の無いt検定と一元配置分散分析を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】COMの下方最大変位は若年群で18.6±2.9%,高齢群17.5±5.9%で差を認めなかった。高齢群のCOM下方最大速度は若年群に比べ有意に小さかった(0.44±0.17 m/s vs. 0.77±0.18 m/s,p<0.01)。若年群のCOMの前後最大変位は高齢群より有意に大きかったが(20.9±7.1% vs.13.0±5.3%,p<0.01),左右最大変位は両群とも5%以下であり年齢差を認めなかった。両群の各下肢関節運動の反応時間に有意差を認めず,下肢関節は同時に運動を開始していた。股関節最大屈曲度は高齢群(55.9±19.4度)に比べて若年群(121.5±9.6度)で有意に大きかった(p<0.01)が,それ以外の関節に年齢差を認めなかった。
【考察】本研究の結果,高齢者は若年者に比べて遅く,前後方向に重心変化の少ないスクワット動作を行っていた。本研究では高齢者のスクワット動作は浅くなると予想したが,高齢者のCOM下方最大変位は有意に低下していなかった。今回の高齢者は健康問題もなく,過去1年間に転倒歴の無い者であった。さらに,高齢者のデータには大きなばらつきがみられ,これらのことが年齢差を認めなかった理由と考えられる。高齢者の下方への最大速度の低下に関しては,前回と同様であり,加齢による運動の特徴を示していた。両群ともCOMの左右方向の運動は非常に小さく,スクワット動作が主として前後方向と垂直方向の運動であることが示された。前後方向のCOMの運動は若年者に比べて高齢者で有意に小さく,このことは高齢者の股関節屈曲角度の減少と関連するかもしれない。一般的に,股関節戦略は前後方向の運動に関与する(Nashner 1977,Winter 1990)。高齢者の姿勢戦略の特徴は股関節戦略を優先することであるが,これらは主に前後方向のみ,または,左右方向のみの運動課題から得られた知見である。垂直方向の姿勢や重心の変化を伴うスクワット動作では,高齢者は若年者に比べてよりCOMの運動を小さくして転倒の危険性を低くしていた可能性がある。今後,被験者数を増やし,さらに,下肢筋活動などを同時に調べることにより高齢者の運動特性を明らかにしたい。
【理学療法学研究としての意義】今回の研究は幅広く用いられているスクワット動作への加齢の影響を若年者と高齢者の比較から明らかにした。本研究結果は高齢者や高齢患者にスクワット動作を行わせるときの有用な情報となる。