第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

疼痛

2015年6月5日(金) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-C-0193] 人工膝関節全置換術および単顆関節置換術後患者における術後2週時の疼痛に影響する術前因子の検討

白石明継1, 熊代功児1, 山本遼1, 伊藤秀幸2, 森川真也3 (1.倉敷中央病院リハビリテーション部, 2.山口コ・メディカル学院, 3.放射線第一病院リハビリテーション部)

キーワード:術後疼痛, 術前因子, 人工膝関節置換術

【はじめに,目的】
人工膝関節全置換術(以下,TKA)や単顆関節置換術(以下,UKA)は変形性膝関節症(以下,膝OA)などに対する外科的治療の一つとして用いられており,優れた除痛効果やQOLの向上をもたらすとされている。その一方でTKAの術後15%の症例が術後に慢性疼痛の経過をたどると報告されており,TKAはTHAに比べて術後の満足度が低く,除痛効果が関連していたとの報告もある。そのため,術後疼痛の軽減は,術後の満足度やQOL向上に重要である。坂本らは術後1週時点での疼痛が早期の歩行自立に大きく影響していたと述べ,内田らは術後早期の移動能力には疼痛や関節可動域がより重要と報告している。これらの報告から術後疼痛は患者の運動機能の回復を遅延させることが予測される。TKAおよびUKAの術後疼痛に影響する術前因子として精神的な要因が多く報告されているが,PTが介入可能な疼痛や運動機能に関する報告はない。術後疼痛に影響する術前因子を明らかにすることによって,術前よりPTが適切に介入することで術後疼痛を軽減させる可能性がある。本研究の目的は,TKAおよびUKA後2週時の疼痛に影響する術前因子の検討を行うことである。
【方法】
対象は2013年9月~2014年9月に多施設共同研究参加施設において膝OAと診断され,TKAおよびUKAを施行した147例(女性125例,男性22例,平均年齢76±7歳)とした。術前因子として,①術前疼痛(NRS),②等尺性膝伸展筋力(以下,膝伸展筋力),③等尺性膝屈曲筋力(以下,膝屈曲筋力),④膝関節伸展可動域(以下,膝伸展可動域),⑤膝関節屈曲可動域(以下,膝屈曲可動域),⑥股関節伸展可動域(以下,股伸展可動域),⑦TUG最大速度の7項目を測定した。なお,筋力および可動域は術側と非術側について測定した。また,患者属性として年齢,性別,BMI,術側FTA,術側OA重症度の5項目を調査した。術後2週時の疼痛に影響する因子を検討するために,術後疼痛を従属変数とした重回帰分析を行った。重回帰分析では,術前因子を独立変数とし,事前に単変量解析にてp<0.20であった説明変数をステップワイズ法にて投入した。さらに,患者属性を交絡因子として強制投入した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
単変量解析の結果,術前疼痛,術側・非術側膝伸展筋力,術側・非術側膝屈曲筋力,術側股伸展可動域が抽出された。重回帰分析の結果,術前疼痛が独立して従属変数を説明した。(標準偏回帰係数:β=0.432,修正済み決定係数:R2=0.186)。また,交絡因子投入後も術前疼痛は独立して従属変数を説明した(β=0.258,R2=0.114)。
【考察】
術後2週時の疼痛に影響する術前因子として術前疼痛が抽出され,術前疼痛は交絡因子からも独立して術後疼痛に影響する要因であった。木藤らは,膝OA患者の疼痛には関節内の痛みと筋緊張亢進による痛みが複雑に絡み合っていることが多いと述べており,強い安静時痛がある場合には全身の筋緊張が亢進し,局所的にはハムストリングスや下腿三頭筋,大腿直筋の筋緊張亢進を起こすと報告している。本研究における疼痛は安静時痛の評価であり,術前の安静時痛が強い症例は,筋緊張亢進に伴う疼痛が術前疼痛の要因として強く影響したと考える。一方で術後疼痛に関して阪本らは,術前のアライメント異常や異常な運動パターンの学習によって生じる異常な筋収縮パターンは,手術によるアライメント正常化後もただちには改善しないと述べている。このことより,術後2週の時点では関節原性の疼痛は手術により改善するものの,異常な筋収縮に伴う疼痛は術後も持続したと考える。以上より,術前に筋緊張亢進に伴う疼痛が強い症例は,TKAおよびUKA後も術前に学習された異常な筋収縮によって生じた疼痛が改善されず術後も持続すると考える。術前疼痛の要因としては前述したように筋緊張亢進に伴う疼痛と考えるが,術前に筋緊張が亢進した状態に至るまでのアライメント変化や運動パターンは個々によって異なる。以上より,個々の対象者における疼痛の原因に沿った理学療法を提供し術前疼痛の軽減を図ることによって,術後疼痛の軽減に繋がると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,人工膝関節置換術適用患者の術後疼痛を予測する上での一指標となると考える。また,術前から個々に応じた適切な理学療法介入を行うことにより術後疼痛を軽減するうえでの一助となると考える。