[P1-C-0202] 腹腔内圧が体幹安定性に及ぼす影響
3次元体幹筋骨格モデルによるシミュレーション解析
キーワード:腹腔内圧, 体幹伸展筋力, 筋骨格モデル
【はじめに,目的】
腹腔内圧は,腹腔構成筋群の同時収縮で増加し,支持性や強制呼気,排尿や排便に貢献するとされている。腹腔内圧の上昇には,横隔膜,腹横筋,骨盤底筋などが重要となり,支持性向上のための運動療法が積極的に行われている。この腹腔内圧は,脊柱に強い伸展モーメントが加わる際に不随意で上昇するとされており,スポーツなどの素早い動作や日常生活動作で腰部障害予防の観点から重要な因子といえる。
これまでわれわれは,3次元体幹筋骨格モデルを作成し,前屈時における脊柱モーメントや体幹筋張力の変化,スクワット動作時の下肢を含めた解析など報告してきた。このモデルは体幹筋を詳細に再現したモデルであり,動作時の筋張力を算出することが出来る。本研究の目的は,3次元体幹筋骨格モデルを用いて腹腔内圧の有無により立位姿勢保持に必要な体幹筋筋力をシミュレーション解析することである。
【方法】
3次元体幹筋骨格モデルの作成
健常な成人男性(31歳,身長1.74m,体重78.5kg)を対象にCT,MRIを撮像した。3次元骨格モデルは,Materialise社製MIMICSを用いてCT/DICOMデータから骨形状を抽出し作成した。作成した骨格モデルとMRI断層画像より抽出した筋を基に3次元体幹筋骨格モデルを作成した。筋骨格モデルの構築は,豊田中央研究所製EICASを使用した。モデルに構築した筋は,腹直筋,内外腹斜筋,腰方形筋,大腰筋,棘間筋,横突間筋,回旋筋,多裂筋,腰腸肋筋,胸腸肋筋,胸最長筋,胸棘筋,胸半棘筋である。各筋の断面積はMRIより算出した。また,各椎体間の可動性はモーメントに影響を及ぼすため,レントゲン写真で可動性を測定し,関節最終可動域で抵抗がかかるように設定した。また,MRI断層画像から腹腔体積を求めた。本モデルに用いた腹腔内圧値は健常者における日常生活動作時の平均値を用い30mmHgとした。またValsalva時の最大腹腔内圧はJ. Mensらの報告に基づき120mmHgとした。
解析条件
構築した筋骨格モデルで立位状態を反映させるため,3次元動作解析装置VICON MXで立位姿勢を計測した。対象は健常成人6名(平均身長170.5 cm,平均体重66.8 kg)で,直径6mmの反射マーカー計72個を脊柱および四肢に貼付した。計測した座標位置を3次元体幹筋骨格モデルに反映させ,立位保持時に発揮している筋力を算出した。得られた筋力値と筋断面積から導き出した最大筋力値より筋活動量を算出した。対象筋は腹筋群と脊柱起立筋群(腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋,棘筋,最長筋,腸肋筋)とした。腹圧なし,腹腔内圧30mmHg(以下,腹圧あり),valsalva時の腹腔内圧120mmHg(以下,Valsalva)の3条件とし,Kruskal-Wallis検定を用いて比較した。有意水準は5%未満とし,統計処理はSPSS ver.20を使用した。
【結果】
腹腔内圧の有無による腹筋群,脊柱起立筋群の筋活動量を算出した。静的立位時の筋活動量は,腹筋群で3群間に差がなかったが,脊柱起立筋群では腹腔内圧が増加するにつれ,筋活動量の減少がみられた。特に最長筋では,腹腔内圧なしで18.6±2.5%,腹腔内圧ありで15.2±3.2%,valsalvaで9.1±3.4%で有意に差が認められた(p<0.05)。また,腸肋筋は腹腔内圧なしで15.3±4.4%,腹腔内圧ありで13.6±2.4%,valsalvaで10.1±3.5%で有意に差が認められた(p<0.05)。
【考察】
脊柱アライメントは体幹伸展筋力の与える影響が大きく,われわれは体幹伸展筋力の低下が脊柱後弯を増強させることを報告した。今回の結果から,腹腔内圧の設定で姿勢保持に必要な体幹伸展筋力が減少する結果となった。これは腹腔内圧が体幹伸展筋力を補助し,体幹安定性を高めるといえる。本モデル上では,腹腔容積が変化しないため設定した腹圧が直接体幹に作用するが,生体では腹横筋や横隔膜,骨盤底筋などの筋力や筋硬度が必要となり,体幹の安定化に重要な役割を果たす。したがって,体幹の固定性を得るためには,あらゆる姿勢や動作で持続的な腹腔内圧を維持できる筋持久力や高い体幹伸展筋力が必要な際に腹腔内圧を高めるなどコントロールする能力が重要になると考える。
本研究では腹腔内圧が体幹安定性を補助し,少ない筋活動量で姿勢を維持できることがシミュレーションにより導き出された。
【理学療法学研究としての意義】
腹横筋や横隔膜,骨盤底筋など腹圧をコントロールするトレーニングやコルセットの有用性が示された。日常生活上で,腹腔内圧の維持は重要な要素を占めることがシミュレーションにより算出された。
腹腔内圧は,腹腔構成筋群の同時収縮で増加し,支持性や強制呼気,排尿や排便に貢献するとされている。腹腔内圧の上昇には,横隔膜,腹横筋,骨盤底筋などが重要となり,支持性向上のための運動療法が積極的に行われている。この腹腔内圧は,脊柱に強い伸展モーメントが加わる際に不随意で上昇するとされており,スポーツなどの素早い動作や日常生活動作で腰部障害予防の観点から重要な因子といえる。
これまでわれわれは,3次元体幹筋骨格モデルを作成し,前屈時における脊柱モーメントや体幹筋張力の変化,スクワット動作時の下肢を含めた解析など報告してきた。このモデルは体幹筋を詳細に再現したモデルであり,動作時の筋張力を算出することが出来る。本研究の目的は,3次元体幹筋骨格モデルを用いて腹腔内圧の有無により立位姿勢保持に必要な体幹筋筋力をシミュレーション解析することである。
【方法】
3次元体幹筋骨格モデルの作成
健常な成人男性(31歳,身長1.74m,体重78.5kg)を対象にCT,MRIを撮像した。3次元骨格モデルは,Materialise社製MIMICSを用いてCT/DICOMデータから骨形状を抽出し作成した。作成した骨格モデルとMRI断層画像より抽出した筋を基に3次元体幹筋骨格モデルを作成した。筋骨格モデルの構築は,豊田中央研究所製EICASを使用した。モデルに構築した筋は,腹直筋,内外腹斜筋,腰方形筋,大腰筋,棘間筋,横突間筋,回旋筋,多裂筋,腰腸肋筋,胸腸肋筋,胸最長筋,胸棘筋,胸半棘筋である。各筋の断面積はMRIより算出した。また,各椎体間の可動性はモーメントに影響を及ぼすため,レントゲン写真で可動性を測定し,関節最終可動域で抵抗がかかるように設定した。また,MRI断層画像から腹腔体積を求めた。本モデルに用いた腹腔内圧値は健常者における日常生活動作時の平均値を用い30mmHgとした。またValsalva時の最大腹腔内圧はJ. Mensらの報告に基づき120mmHgとした。
解析条件
構築した筋骨格モデルで立位状態を反映させるため,3次元動作解析装置VICON MXで立位姿勢を計測した。対象は健常成人6名(平均身長170.5 cm,平均体重66.8 kg)で,直径6mmの反射マーカー計72個を脊柱および四肢に貼付した。計測した座標位置を3次元体幹筋骨格モデルに反映させ,立位保持時に発揮している筋力を算出した。得られた筋力値と筋断面積から導き出した最大筋力値より筋活動量を算出した。対象筋は腹筋群と脊柱起立筋群(腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋,棘筋,最長筋,腸肋筋)とした。腹圧なし,腹腔内圧30mmHg(以下,腹圧あり),valsalva時の腹腔内圧120mmHg(以下,Valsalva)の3条件とし,Kruskal-Wallis検定を用いて比較した。有意水準は5%未満とし,統計処理はSPSS ver.20を使用した。
【結果】
腹腔内圧の有無による腹筋群,脊柱起立筋群の筋活動量を算出した。静的立位時の筋活動量は,腹筋群で3群間に差がなかったが,脊柱起立筋群では腹腔内圧が増加するにつれ,筋活動量の減少がみられた。特に最長筋では,腹腔内圧なしで18.6±2.5%,腹腔内圧ありで15.2±3.2%,valsalvaで9.1±3.4%で有意に差が認められた(p<0.05)。また,腸肋筋は腹腔内圧なしで15.3±4.4%,腹腔内圧ありで13.6±2.4%,valsalvaで10.1±3.5%で有意に差が認められた(p<0.05)。
【考察】
脊柱アライメントは体幹伸展筋力の与える影響が大きく,われわれは体幹伸展筋力の低下が脊柱後弯を増強させることを報告した。今回の結果から,腹腔内圧の設定で姿勢保持に必要な体幹伸展筋力が減少する結果となった。これは腹腔内圧が体幹伸展筋力を補助し,体幹安定性を高めるといえる。本モデル上では,腹腔容積が変化しないため設定した腹圧が直接体幹に作用するが,生体では腹横筋や横隔膜,骨盤底筋などの筋力や筋硬度が必要となり,体幹の安定化に重要な役割を果たす。したがって,体幹の固定性を得るためには,あらゆる姿勢や動作で持続的な腹腔内圧を維持できる筋持久力や高い体幹伸展筋力が必要な際に腹腔内圧を高めるなどコントロールする能力が重要になると考える。
本研究では腹腔内圧が体幹安定性を補助し,少ない筋活動量で姿勢を維持できることがシミュレーションにより導き出された。
【理学療法学研究としての意義】
腹横筋や横隔膜,骨盤底筋など腹圧をコントロールするトレーニングやコルセットの有用性が示された。日常生活上で,腹腔内圧の維持は重要な要素を占めることがシミュレーションにより算出された。