[P1-C-0205] 肢位の変化が肩甲骨や上腕骨頭の位置関係に与える影響
キーワード:肩関節, 姿勢変化, アライメント
【目的】
肩関節疾患の中でも腱板断裂術後症例は夜間痛を訴える人が多く,特に術後数日間は背臥位で睡眠できず,坐位で夜間の疼痛回避をする人も少なくない。
臨床上,肩関節疾患症例に対する理学的評価の一つとして姿勢やアライメントを評価し,肩甲骨の位置異常や骨頭の上昇を問題視することが多いが,肢位の変化が肩甲骨や上腕骨頭の位置関係に与える影響に関する報告は渉猟した限りでは見つからない。
そこで今回,肩関節疾患患者について肢位の変化が肩甲骨や上腕骨頭の位置関係に与える影響を調査し,興味ある知見が得られたので報告する。
【対象】
2014年9月末までの4か月間に当院整形外科を受診した症例のうち,初診時に「Scapula-45撮影法」によるレントゲンとMRIを撮影し,鏡視下腱板修復術を受けた20名(R群,平均年齢62.6歳±9.5,男性7名・女性13名,罹患側 右7名・左13名)と,鏡視下Bankart修復術を受けた15名(B群,平均年齢22歳±8.2,男性12名・女性3名,罹患側 右5名・左10名)である。
【方法】
「Scapula-45撮影法」によるレントゲン像のうち下垂位無負荷像(X像)と,MRI像のうち斜位環状断関節上結節部T2強調画像(M像)を用い,肩甲骨上方回旋角度,関節窩と上腕骨頭の適合性について,富士フィルム社製計測ソフトOP-A V2.0を用いて計測した。計測方法は筒井らの報告に準じ,肩甲骨上方回旋角度(肩甲骨)は任意の垂線に対する関節窩の角度を計測し,関節窩と上腕骨頭の適合性(適合性)は,関節窩上縁・下縁を結ぶ線を基準線として,それぞれを通る垂線が骨頭と交わる点を結んだ線と基準線がなす角度を計測し,数値が大きくなるにつれ,関節窩に対して上腕骨頭が上方移動しているとした。
検討項目は,各群でのX像およびM像における肩甲骨,適合性と,肩甲骨および適合性についてX像とM像の変化である。
統計学的処理は,Mann-Whitney検定,Wilcoxon signed-rank検定を用いて危険率5%にて行い,各群の肩甲骨と適合性についてレントゲン像とMRI像の違いを比較検討した。
【結果】
測定数値は,中央値(95%信頼区間)を示す。X像におけるR群の肩甲骨は-5.15(-9.05~-0.28),適合性は0.3(-10.51~3.46),B群の肩甲骨は-5.8(-8.90~2.13),適合性は-3.2(-7.51~-0.03),M像におけるR群の肩甲骨は1.85(-1.16~9.24),適合性は4.15(1.27~6.97),B群の肩甲骨は-2.7(-6.17~1.85),適合性は7(2.51~9.78)だった。
統計学的検討の結果,適合性は,X像およびM像ともに両群間に違いがなかったが,両群ともにX像よりもM像で大きくなっていた(R群p=0.02,B群p=0.001)。また,肩甲骨はM像でR群のほうがB群よりも大きくなった(p=0.0006)が,X像では有意差はなかった。
【考察】
今回用いた画像の撮影肢位は安静位であり,上腕骨はどちらも体側に下垂しているが,X像は坐位,M像は背臥位と異なるため,姿勢による変化の影響を反映しているものと考える。今回の結果,肩甲骨の上方回旋角度に関して,X像で両群間に有意差がないにも関わらず,M像でR群がB群よりもが大きくなったことは,R群に関しては股関節・体幹の坐位に関与する機能が肩甲骨の上方回旋に影響を与えることが推測され,肩関節疾患患者に対する理学療法評価では,姿勢の変化と肩関節機能を確認する必要性が示唆された。
腱板断裂の補助診断として,肩峰骨頭間距離(AHI)が広く用いられているが,腱板断裂が存在するにも関わらずAHIが狭小化を示さない症例が多く存在し,信頼度は必ずしも高くないとする報告もある。今回の結果も,両群でX像,M像ともに有意差がなかったことから,関節窩に対する骨頭の上方化が腱板断裂症例特有の所見と判断できないと考える。
また,両群ともにX像よりもM像の方が関節窩に対して上腕骨頭が上昇していたことから,疾患に関わらず,安静時では,坐位よりも背臥位のほうが上腕骨頭の上方化が起きていることが示されたが,レントゲン像とMRI画像という違いもあり,肩関節疾患術後患者の夜間痛に関与することは推測の域を超えない。
通常,肩関節疾患患者の理学的評価は坐位・立位で行い,機能改善目的の治療プログラムは背臥位で行うことが多いが,今回の結果から,背臥位と坐位では関節内のアライメントが異なることを念頭に治療を行う必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
背臥位と坐位では肩関節のアライメントが異なることが示唆され,そのことを念頭に治療プログラムを立案し,実施する必要性があると考える。
肩関節疾患の中でも腱板断裂術後症例は夜間痛を訴える人が多く,特に術後数日間は背臥位で睡眠できず,坐位で夜間の疼痛回避をする人も少なくない。
臨床上,肩関節疾患症例に対する理学的評価の一つとして姿勢やアライメントを評価し,肩甲骨の位置異常や骨頭の上昇を問題視することが多いが,肢位の変化が肩甲骨や上腕骨頭の位置関係に与える影響に関する報告は渉猟した限りでは見つからない。
そこで今回,肩関節疾患患者について肢位の変化が肩甲骨や上腕骨頭の位置関係に与える影響を調査し,興味ある知見が得られたので報告する。
【対象】
2014年9月末までの4か月間に当院整形外科を受診した症例のうち,初診時に「Scapula-45撮影法」によるレントゲンとMRIを撮影し,鏡視下腱板修復術を受けた20名(R群,平均年齢62.6歳±9.5,男性7名・女性13名,罹患側 右7名・左13名)と,鏡視下Bankart修復術を受けた15名(B群,平均年齢22歳±8.2,男性12名・女性3名,罹患側 右5名・左10名)である。
【方法】
「Scapula-45撮影法」によるレントゲン像のうち下垂位無負荷像(X像)と,MRI像のうち斜位環状断関節上結節部T2強調画像(M像)を用い,肩甲骨上方回旋角度,関節窩と上腕骨頭の適合性について,富士フィルム社製計測ソフトOP-A V2.0を用いて計測した。計測方法は筒井らの報告に準じ,肩甲骨上方回旋角度(肩甲骨)は任意の垂線に対する関節窩の角度を計測し,関節窩と上腕骨頭の適合性(適合性)は,関節窩上縁・下縁を結ぶ線を基準線として,それぞれを通る垂線が骨頭と交わる点を結んだ線と基準線がなす角度を計測し,数値が大きくなるにつれ,関節窩に対して上腕骨頭が上方移動しているとした。
検討項目は,各群でのX像およびM像における肩甲骨,適合性と,肩甲骨および適合性についてX像とM像の変化である。
統計学的処理は,Mann-Whitney検定,Wilcoxon signed-rank検定を用いて危険率5%にて行い,各群の肩甲骨と適合性についてレントゲン像とMRI像の違いを比較検討した。
【結果】
測定数値は,中央値(95%信頼区間)を示す。X像におけるR群の肩甲骨は-5.15(-9.05~-0.28),適合性は0.3(-10.51~3.46),B群の肩甲骨は-5.8(-8.90~2.13),適合性は-3.2(-7.51~-0.03),M像におけるR群の肩甲骨は1.85(-1.16~9.24),適合性は4.15(1.27~6.97),B群の肩甲骨は-2.7(-6.17~1.85),適合性は7(2.51~9.78)だった。
統計学的検討の結果,適合性は,X像およびM像ともに両群間に違いがなかったが,両群ともにX像よりもM像で大きくなっていた(R群p=0.02,B群p=0.001)。また,肩甲骨はM像でR群のほうがB群よりも大きくなった(p=0.0006)が,X像では有意差はなかった。
【考察】
今回用いた画像の撮影肢位は安静位であり,上腕骨はどちらも体側に下垂しているが,X像は坐位,M像は背臥位と異なるため,姿勢による変化の影響を反映しているものと考える。今回の結果,肩甲骨の上方回旋角度に関して,X像で両群間に有意差がないにも関わらず,M像でR群がB群よりもが大きくなったことは,R群に関しては股関節・体幹の坐位に関与する機能が肩甲骨の上方回旋に影響を与えることが推測され,肩関節疾患患者に対する理学療法評価では,姿勢の変化と肩関節機能を確認する必要性が示唆された。
腱板断裂の補助診断として,肩峰骨頭間距離(AHI)が広く用いられているが,腱板断裂が存在するにも関わらずAHIが狭小化を示さない症例が多く存在し,信頼度は必ずしも高くないとする報告もある。今回の結果も,両群でX像,M像ともに有意差がなかったことから,関節窩に対する骨頭の上方化が腱板断裂症例特有の所見と判断できないと考える。
また,両群ともにX像よりもM像の方が関節窩に対して上腕骨頭が上昇していたことから,疾患に関わらず,安静時では,坐位よりも背臥位のほうが上腕骨頭の上方化が起きていることが示されたが,レントゲン像とMRI画像という違いもあり,肩関節疾患術後患者の夜間痛に関与することは推測の域を超えない。
通常,肩関節疾患患者の理学的評価は坐位・立位で行い,機能改善目的の治療プログラムは背臥位で行うことが多いが,今回の結果から,背臥位と坐位では関節内のアライメントが異なることを念頭に治療を行う必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
背臥位と坐位では肩関節のアライメントが異なることが示唆され,そのことを念頭に治療プログラムを立案し,実施する必要性があると考える。