[P1-C-0211] 人工股関節全置換術患者の術後歩行機能に影響を与える術前因子の検討
Keywords:人工股関節全置換術, 術前評価, 術後歩行機能
【はじめに,目的】
人工股関節全置換術(以下,THA)後の理学療法を効果的に進めるには術前の運動機能から術後の歩行能力を予測することが重要となる。歩行の予後は様々な報告がなされているが,術後の歩行機能を動画解析したものと術前理学療法評価(以下,術前評価)を比較し,予後予測に用いた報告は演者らが渉猟する限りにおいては見当たらない。そこで,本研究はTHA術前の評価結果と術後の歩行視標の相関をみることで,術後の歩行機能に影響を及ぼし得る術前因子を検討することを目的として調査を行った。
【方法】
対象は,平成25年7月~26年7月に片側変形性股関節症により演者所属施設で初回THAを施行した52人のうち,除外項目(変形性股関節症以外の下肢疾患,腰椎疾患,脳血管疾患,認知症を有する)に該当する人を除き,研究に同意を得られた10人(年齢63.8±23歳,男性2人,女性8人)とした。術前評価項目は,機能評価として股関節可動域測定(両側屈曲,外転及び術側伸展,内転)と,徒手筋力検査法にて術側股関節外転筋力,及びNumerical rating scale(以下,NRS)を用いて術前の安静時・動作時疼痛の程度を調査した。さらに,動的バランスの指標としてTimed up and go test(以下TUG)とFunctional reach test(以下,FRT)を測定し,歩行の指標としては10m歩行時間(以下,10m時間)と歩行率(steps/min)を測定した。これらに加えて,股関節機能の指標として,日本整形外科学会股関節判定基準(以下,JOA)を基に術前股関節機能を点数化し,さらに術前の日常生活をFunctional independent measure(以下,FIM)を聞き取りにて実施し,その中の運動機能に着目したmotor-FIM(以下,m-FIM)を測定した。術後の歩行機能指標として,術側股関節の歩行時運動機能とその際の膝関節屈曲代償を検討するために立脚終期における術側股関節最大伸展角度(体幹長軸と大腿骨のなす角,歩行時股伸展),及びその際の術側膝関節屈曲角度(大腿骨と腓骨のなす角,歩行時膝屈曲) を側方から撮影した歩行動画を基に,高度映像処理プログラム(DARTFISH team Data pro 6.0)を用いて算出した。さらに,術後の歩行速度因子として術後歩行率,10m時間,重複歩(cm)を測定した。これらの術後歩行機能指標は,T字杖歩行自立となり,術後17~34日目である退院前日に測定した。術前評価結果と術後歩行機能指標との関係性の検討のために,統計学的解析にスピアマンの相関係数を用い,危険率5%未満をもって有意とした。
【結果】
術後歩行機能と術前評価結果において有意な相関関係がみられた項目を示し,()内に相関係数を記す。歩行時股伸展は術前歩行率(0.794)と強い正の相関を示し,歩行時膝屈曲は術側内転角度(0.637)と中等度の正の相関を示した。術後歩行率は,術側外転角度(0.710),非術側外転角度(0.679),非術側JOA(0.765)と中等度から強い正の相関を示した。術後10m時間は,術側外転角度(-0.648),非術側外転角度(-0.901),m-FIM(-0.659), 非術側JOA(-0.875),全体JOA(-0.695)と中等度から強い負の相関を示し,TUG(0.794),術前10m時間(0.794)と強い正の相関を示した。術後重複歩では,術側内転角度(0.672),外転筋力(0.682),m-FIM(0.634)と中等度の正の相関を示し,TUG(-0.745),術前10m時間(-0.636)と中等度から強い負の相関を示した。
【考察】
本結果から,術後歩行時の股関節運動機能と膝関節屈曲による有益な代償を起こし得る術前因子として,歩行率と術側股関節内転角度が挙げられた。さらに,術後の歩行速度因子に影響を与え得る術前因子としては,術側非術側の股関節機能と歩行状態,および日常生活における活動性が挙げられた。二木ら(2013)は,術後歩行速度に術前歩行速度が影響することを報告しており,本研究と同様の結果を示している。このことは,術前の術側股関節機能のみならず,日常生活での活動性と非術側の状態が術後の歩行機能に影響を与える可能性を示唆していると考える。つまり術前から術側股関節に加え,非術側への股関節機能に対して筋力強化訓練などのアプローチを実施していくことと,日常生活動作練習や歩行練習などの活動性向上に向けたアプローチが術後の歩行機能の回復を促進し得ると考える。
【理学療法学研究としての意義】
THA術後患者の歩行機能は術側のみならず非術側の股関節機能と術前の活動性が影響していることが明らかとなった。このことは,手術予定患者に対する効果的な理学療法を選択,実施する根拠の一助となることから意義がある。
人工股関節全置換術(以下,THA)後の理学療法を効果的に進めるには術前の運動機能から術後の歩行能力を予測することが重要となる。歩行の予後は様々な報告がなされているが,術後の歩行機能を動画解析したものと術前理学療法評価(以下,術前評価)を比較し,予後予測に用いた報告は演者らが渉猟する限りにおいては見当たらない。そこで,本研究はTHA術前の評価結果と術後の歩行視標の相関をみることで,術後の歩行機能に影響を及ぼし得る術前因子を検討することを目的として調査を行った。
【方法】
対象は,平成25年7月~26年7月に片側変形性股関節症により演者所属施設で初回THAを施行した52人のうち,除外項目(変形性股関節症以外の下肢疾患,腰椎疾患,脳血管疾患,認知症を有する)に該当する人を除き,研究に同意を得られた10人(年齢63.8±23歳,男性2人,女性8人)とした。術前評価項目は,機能評価として股関節可動域測定(両側屈曲,外転及び術側伸展,内転)と,徒手筋力検査法にて術側股関節外転筋力,及びNumerical rating scale(以下,NRS)を用いて術前の安静時・動作時疼痛の程度を調査した。さらに,動的バランスの指標としてTimed up and go test(以下TUG)とFunctional reach test(以下,FRT)を測定し,歩行の指標としては10m歩行時間(以下,10m時間)と歩行率(steps/min)を測定した。これらに加えて,股関節機能の指標として,日本整形外科学会股関節判定基準(以下,JOA)を基に術前股関節機能を点数化し,さらに術前の日常生活をFunctional independent measure(以下,FIM)を聞き取りにて実施し,その中の運動機能に着目したmotor-FIM(以下,m-FIM)を測定した。術後の歩行機能指標として,術側股関節の歩行時運動機能とその際の膝関節屈曲代償を検討するために立脚終期における術側股関節最大伸展角度(体幹長軸と大腿骨のなす角,歩行時股伸展),及びその際の術側膝関節屈曲角度(大腿骨と腓骨のなす角,歩行時膝屈曲)
【結果】
術後歩行機能と術前評価結果において有意な相関関係がみられた項目を示し,()内に相関係数を記す。歩行時股伸展は術前歩行率(0.794)と強い正の相関を示し,歩行時膝屈曲は術側内転角度(0.637)と中等度の正の相関を示した。術後歩行率は,術側外転角度(0.710),非術側外転角度(0.679),非術側JOA(0.765)と中等度から強い正の相関を示した。術後10m時間は,術側外転角度(-0.648),非術側外転角度(-0.901),m-FIM(-0.659)
【考察】
本結果から,術後歩行時の股関節運動機能と膝関節屈曲による有益な代償を起こし得る術前因子として,歩行率と術側股関節内転角度が挙げられた。さらに,術後の歩行速度因子に影響を与え得る術前因子としては,術側非術側の股関節機能と歩行状態,および日常生活における活動性が挙げられた。二木ら(2013)は,術後歩行速度に術前歩行速度が影響することを報告しており,本研究と同様の結果を示している。このことは,術前の術側股関節機能のみならず,日常生活での活動性と非術側の状態が術後の歩行機能に影響を与える可能性を示唆していると考える。つまり術前から術側股関節に加え,非術側への股関節機能に対して筋力強化訓練などのアプローチを実施していくことと,日常生活動作練習や歩行練習などの活動性向上に向けたアプローチが術後の歩行機能の回復を促進し得ると考える。
【理学療法学研究としての意義】
THA術後患者の歩行機能は術側のみならず非術側の股関節機能と術前の活動性が影響していることが明らかとなった。このことは,手術予定患者に対する効果的な理学療法を選択,実施する根拠の一助となることから意義がある。