[P1-C-0214] 背臥位での左右の骨盤挙上角度
測定方法の信頼性と股関節屈曲角度を変化させた時の差
キーワード:骨盤挙上, 股関節屈曲, 信頼性
【はじめに】
臨床で変形性股関節症や変形性膝関節症などの下肢疾患を有する者の理学療法において,前額面上での骨盤の動きが減少している症例に遭遇することがある。そのような症例に対し骨盤の前額面上の動きを改善することで,歩容の変化や痛みの軽減がみられることがある。そして前額面上での骨盤挙上運動を行なう際,股関節の屈曲角度を変えることで骨盤の挙上角度が異なる印象を受ける。前額面上での骨盤挙上角度や骨盤側方傾斜角度を測定する方法は,X線を用いたものや動作解析装置を用いたものなど報告されているが臨床上簡便とは言い難い。今回,簡便な方法としてゴニオメーターを用いて,背臥位での骨盤挙上角度の測定を行なった。その測定方法の検者内および検者間信頼性を検討し,そして健常者で股関節屈曲角度を変化させることで骨盤挙上角度に差があるかを検討した。
【方法】
対象は腰部や下肢に疾患や痛みのない,年齢38-55歳の健常成人女性10名とした。それぞれの平均値±標準偏差は年齢47.2±5.6歳,身長158.6±3.8cm,体重50.9±3.7kgであった。診察用ベッド上に背臥位にて東大式ゴニオメーター(腕長30cm)を用いて,左右の骨盤挙上角度を測定した。検者は2名の男性理学療法士(以下,検者A・B)とした。対象者にベッド上にまっすぐ寝るよう口頭指示し,検者は体幹や骨盤などの回旋や側屈が生じていないかを測定毎に確認した。骨盤挙上角度は前額面上の正中線との垂直線を0度とし,両側の上前腸骨棘(以下,ASIS)を結んだ線との角度とした。右のASISが頭側に移動することを右骨盤挙上,左のASISが頭側に移動することを左骨盤挙上とした。検者はASISの内側下端を触診するよう統一し,1度単位で測定した。ゴニオメーターは目盛りが確認できないよう裏返して使用し,検者以外の理学療法士が角度を読み記録し,検者には測定結果が分からないようにした。検者Aは測定を左右交互に2回ずつ行い検者内信頼性を検討した。検者Bは検者Aと同日に測定し検者間信頼性を検討した。股関節屈曲角度を変化させた時の骨盤挙上角度の測定は,検者Aが行なった。股関節屈曲角度を0度,30度,45度,60度の順に設定し,骨盤挙上角度を同様の方法で左右交互に2回ずつ測定し,平均値を採用した。なお股関節屈曲角度は測定毎に確認した。信頼性については,級内相関係数(以下,ICC)を用いて検討した。検者内信頼性はICC(1.1),ICC(1.2),検者間信頼性はICC(2.1),ICC(2.2)を算出した。股関節屈曲角度を変化させた時の骨盤挙上角度については,反復測定による分散分析を用いて検討した。なお統計処理にはR2.8.1を使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】
左右の骨盤挙上角度測定のICC(1.1),ICC(1.2)はそれぞれ右0.759,0.863,左0.682,0.811であった。ICC(2.1),ICC(2.2)はそれぞれ右0.672,0.804,左0.639,0.779であった。股関節屈曲角度を変化させた時の左右の骨盤挙上角度の平均値±標準偏差は,屈曲0度は右9.8±1.4度,左12.3±1.7度,屈曲30度は右9.9±1.3度,左11.9±1.7度,屈曲45度は右10.5±1.4度,左12.5±1.2度,屈曲60度は右10.6±1.4度,左11.8±1.0度であった。骨盤挙上角度は左右ともに,全ての股関節屈曲角度の組み合わせで有意差はみられなかった。
【考察】
ICCの判定基準は0.6以上「可」,0.7以上「普通」,0.8以上「良好」という報告が多い。今回の結果では全て0.6以上であり,2回測定した平均値をとることで左の骨盤挙上角度測定のICC(2.2)は0.779,それ以外は0.8以上と検者内,検者間とも高い信頼性が得られた。股関節屈曲角度を変化させた時の左右の骨盤挙上角度は,左右ともに有意差はみられなかった。これは股関節の屈曲角度が骨盤や腰椎の動きにはほとんど関与していないためと考えられる。骨盤の挙上は脊柱,主に腰椎の側屈で起こる。諸家の報告では健常人の股関節屈曲時に軽度の骨盤後傾と軽度の腰椎屈曲が起こる。腰椎が屈曲することで側屈が大きくなる可能性が考えられる。今回の対象者は健常成人女性であった。それらの角度変化は骨盤挙上角度に影響するほどの変化量ではないことが推察される。今後,下肢疾患を有する者への検討を重ねていきたいと考えているが,その点も考慮していく必要があるだろう。
【理学療法学研究としての意義】
前額面上の骨盤挙上角度を測定する簡便な方法としてゴニオメーターを用いた本方法は,良好な信頼性が得られたため実用的な測定方法となり得る。また健常成人女性では股関節屈曲角度を変化させた時の骨盤挙上角度の差はなかった。今後これを対照群として,下肢疾患などを有する者の骨盤挙上角度と比較していく。
臨床で変形性股関節症や変形性膝関節症などの下肢疾患を有する者の理学療法において,前額面上での骨盤の動きが減少している症例に遭遇することがある。そのような症例に対し骨盤の前額面上の動きを改善することで,歩容の変化や痛みの軽減がみられることがある。そして前額面上での骨盤挙上運動を行なう際,股関節の屈曲角度を変えることで骨盤の挙上角度が異なる印象を受ける。前額面上での骨盤挙上角度や骨盤側方傾斜角度を測定する方法は,X線を用いたものや動作解析装置を用いたものなど報告されているが臨床上簡便とは言い難い。今回,簡便な方法としてゴニオメーターを用いて,背臥位での骨盤挙上角度の測定を行なった。その測定方法の検者内および検者間信頼性を検討し,そして健常者で股関節屈曲角度を変化させることで骨盤挙上角度に差があるかを検討した。
【方法】
対象は腰部や下肢に疾患や痛みのない,年齢38-55歳の健常成人女性10名とした。それぞれの平均値±標準偏差は年齢47.2±5.6歳,身長158.6±3.8cm,体重50.9±3.7kgであった。診察用ベッド上に背臥位にて東大式ゴニオメーター(腕長30cm)を用いて,左右の骨盤挙上角度を測定した。検者は2名の男性理学療法士(以下,検者A・B)とした。対象者にベッド上にまっすぐ寝るよう口頭指示し,検者は体幹や骨盤などの回旋や側屈が生じていないかを測定毎に確認した。骨盤挙上角度は前額面上の正中線との垂直線を0度とし,両側の上前腸骨棘(以下,ASIS)を結んだ線との角度とした。右のASISが頭側に移動することを右骨盤挙上,左のASISが頭側に移動することを左骨盤挙上とした。検者はASISの内側下端を触診するよう統一し,1度単位で測定した。ゴニオメーターは目盛りが確認できないよう裏返して使用し,検者以外の理学療法士が角度を読み記録し,検者には測定結果が分からないようにした。検者Aは測定を左右交互に2回ずつ行い検者内信頼性を検討した。検者Bは検者Aと同日に測定し検者間信頼性を検討した。股関節屈曲角度を変化させた時の骨盤挙上角度の測定は,検者Aが行なった。股関節屈曲角度を0度,30度,45度,60度の順に設定し,骨盤挙上角度を同様の方法で左右交互に2回ずつ測定し,平均値を採用した。なお股関節屈曲角度は測定毎に確認した。信頼性については,級内相関係数(以下,ICC)を用いて検討した。検者内信頼性はICC(1.1),ICC(1.2),検者間信頼性はICC(2.1),ICC(2.2)を算出した。股関節屈曲角度を変化させた時の骨盤挙上角度については,反復測定による分散分析を用いて検討した。なお統計処理にはR2.8.1を使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】
左右の骨盤挙上角度測定のICC(1.1),ICC(1.2)はそれぞれ右0.759,0.863,左0.682,0.811であった。ICC(2.1),ICC(2.2)はそれぞれ右0.672,0.804,左0.639,0.779であった。股関節屈曲角度を変化させた時の左右の骨盤挙上角度の平均値±標準偏差は,屈曲0度は右9.8±1.4度,左12.3±1.7度,屈曲30度は右9.9±1.3度,左11.9±1.7度,屈曲45度は右10.5±1.4度,左12.5±1.2度,屈曲60度は右10.6±1.4度,左11.8±1.0度であった。骨盤挙上角度は左右ともに,全ての股関節屈曲角度の組み合わせで有意差はみられなかった。
【考察】
ICCの判定基準は0.6以上「可」,0.7以上「普通」,0.8以上「良好」という報告が多い。今回の結果では全て0.6以上であり,2回測定した平均値をとることで左の骨盤挙上角度測定のICC(2.2)は0.779,それ以外は0.8以上と検者内,検者間とも高い信頼性が得られた。股関節屈曲角度を変化させた時の左右の骨盤挙上角度は,左右ともに有意差はみられなかった。これは股関節の屈曲角度が骨盤や腰椎の動きにはほとんど関与していないためと考えられる。骨盤の挙上は脊柱,主に腰椎の側屈で起こる。諸家の報告では健常人の股関節屈曲時に軽度の骨盤後傾と軽度の腰椎屈曲が起こる。腰椎が屈曲することで側屈が大きくなる可能性が考えられる。今回の対象者は健常成人女性であった。それらの角度変化は骨盤挙上角度に影響するほどの変化量ではないことが推察される。今後,下肢疾患を有する者への検討を重ねていきたいと考えているが,その点も考慮していく必要があるだろう。
【理学療法学研究としての意義】
前額面上の骨盤挙上角度を測定する簡便な方法としてゴニオメーターを用いた本方法は,良好な信頼性が得られたため実用的な測定方法となり得る。また健常成人女性では股関節屈曲角度を変化させた時の骨盤挙上角度の差はなかった。今後これを対照群として,下肢疾患などを有する者の骨盤挙上角度と比較していく。