[P1-C-0217] 人工股関節置換術後の歩行中における前額面上での跛行の有無は股関節外転筋力により判別できる
キーワード:人工股関節置換術, 股関節外転筋力, 基準値
【目的】股関節疾患患者では歩行中の立脚期に体幹を患側に傾ける跛行を呈することが多い。歩行中における前額面上での体幹の側方動揺性の増加は,歩行中のエネルギー消費の増大や前方への推進力低下を招くことが報告されている。このため人工股関節置換術(以下,THA)術後の歩行能力の向上を図るためには,前額面上での体幹の側方への安定性を得ることが必要となる。歩行中における体幹の動揺性と股関節外転筋力の機能低下は相互に関連しており,前額面上での跛行の改善には股関節外転筋の機能向上を図ることが治療の第一選択となる。しかし,THA術後における歩行中の体幹の動揺性の改善に必要な機能やその明確な基準値を明らかとした報告は見当たらない。そこで,本研究の目的は,THA術後6ヶ月の歩行中における体幹の前額面上での体幹の傾きに関連する因子を検討するとともにそのカットオフ値を明らかとすることである。
【方法】対象は片側変形性股関節症により初回THAを施行され,術後6ヶ月が経過した103名(年齢:59.3±10.9歳,BMI:22.2±2.9kg/m2,女性86名,男性17名)とした。手術方法は全例前外側アプローチ方法であり,術後の理学療法は当院のプロトコールに準じて行い,術後4週で退院となった。THA術後6ヶ月における術側の下肢運動機能として,股関節痛,股関節屈曲と外転の関節可動域,股関節外転筋力,膝関節伸展筋力,脚伸展筋力を測定した。股関節痛は日本整形外科学会の股関節判定基準の点数を用いた。また,股関節外転筋力は徒手筋力計(日本MEDIX社製),膝関節伸展筋力と脚伸展筋力はIsoforce GT-330(OG技研社製)により等尺性筋力を測定した。股関節外転と膝関節伸展筋力値はトルク体重比(Nm/kg),脚伸展筋力は体重比(N/kg)にて算出した。さらに,THA術後6ヶ月での歩行観察において,歩行中の患側立脚期に体幹の傾きを認めた症例(以下,A群)と認めなかった症例(以下,B群)の2群に分けた。統計処理には,各測定項目の2群間の比較は,カイ2乗検定,対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定を用いた。また,2群間で有意差を認めた項目を説明変数術後6ヶ月の跛行を目的変数としたロジスティック回帰分析を行い,ロジスティック回帰分析により有意な項目として選択された要因については,Receiver operating characteristic curve(以下,ROC)を用いてTHA術後6ヶ月の跛行の有無を最適に分類するカットオフ値および感度と特異度を求めるとともに曲線下面積(以下,AUC)を算出した。なお,統計学的有意基準は5%未満とした。
【結果】両群の割合はA群51名(49.5%),B群52名(50.5%)であった。年齢,BMI,性別の基本属性に関しては,両群間で有意差を認めなかった。また,股関節痛,股関節屈曲と外転の関節可動域に関しても,両群間で有意差を認めなかった。下肢筋力に関しては,股関節外転筋力はA群0.64±0.14(Nm/kg),B群0.94±0.20(Nm/kg),膝関節伸展筋力はA群1.43±0.48(Nm/kg),B群1.97±0.65(Nm/kg),脚伸展筋力はA群6.32±1.07(N/kg),B群7.75±1.26(N/kg)であり,全ての下肢筋力はA群と比較してB群のほうが有意に高い値を示した。ロジスティック重回帰分析を行った結果,THA術後6ヶ月での前額面上での跛行の有無に関わる因子として股関節外転筋力のみが選択された。さらに,股関節外転筋力のROC曲線より求めたカットオフ値は0.80(Nm/kg)(感度86.3%,特異度84.6%)であり,AUCは0.90であった。
【考察】本研究の結果より,THA術後6ヶ月の前額面上での跛行に関わる因子として,股関節痛や股関節の可動域よりも股関節外転筋力が関与することが明らかとなった。これらの結果は股関節疾患患者を対象とした先行報告と一致する。さらに,THA術後6ヶ月における術側の股関節外転筋力が0.80(Nm/kg)以上で歩行中の患側立脚期に体幹の傾きが改善することが明らかとなり,術後の前額面上での跛行の改善に対する適切な目標設定のための根拠となるデータになると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】本研究の結果はTHA術後の前額面上での体幹の傾きを改善していくための目標設定に有用な情報であり,理学療法学研究として意義のあるものと考えられた。
【方法】対象は片側変形性股関節症により初回THAを施行され,術後6ヶ月が経過した103名(年齢:59.3±10.9歳,BMI:22.2±2.9kg/m2,女性86名,男性17名)とした。手術方法は全例前外側アプローチ方法であり,術後の理学療法は当院のプロトコールに準じて行い,術後4週で退院となった。THA術後6ヶ月における術側の下肢運動機能として,股関節痛,股関節屈曲と外転の関節可動域,股関節外転筋力,膝関節伸展筋力,脚伸展筋力を測定した。股関節痛は日本整形外科学会の股関節判定基準の点数を用いた。また,股関節外転筋力は徒手筋力計(日本MEDIX社製),膝関節伸展筋力と脚伸展筋力はIsoforce GT-330(OG技研社製)により等尺性筋力を測定した。股関節外転と膝関節伸展筋力値はトルク体重比(Nm/kg),脚伸展筋力は体重比(N/kg)にて算出した。さらに,THA術後6ヶ月での歩行観察において,歩行中の患側立脚期に体幹の傾きを認めた症例(以下,A群)と認めなかった症例(以下,B群)の2群に分けた。統計処理には,各測定項目の2群間の比較は,カイ2乗検定,対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定を用いた。また,2群間で有意差を認めた項目を説明変数術後6ヶ月の跛行を目的変数としたロジスティック回帰分析を行い,ロジスティック回帰分析により有意な項目として選択された要因については,Receiver operating characteristic curve(以下,ROC)を用いてTHA術後6ヶ月の跛行の有無を最適に分類するカットオフ値および感度と特異度を求めるとともに曲線下面積(以下,AUC)を算出した。なお,統計学的有意基準は5%未満とした。
【結果】両群の割合はA群51名(49.5%),B群52名(50.5%)であった。年齢,BMI,性別の基本属性に関しては,両群間で有意差を認めなかった。また,股関節痛,股関節屈曲と外転の関節可動域に関しても,両群間で有意差を認めなかった。下肢筋力に関しては,股関節外転筋力はA群0.64±0.14(Nm/kg),B群0.94±0.20(Nm/kg),膝関節伸展筋力はA群1.43±0.48(Nm/kg),B群1.97±0.65(Nm/kg),脚伸展筋力はA群6.32±1.07(N/kg),B群7.75±1.26(N/kg)であり,全ての下肢筋力はA群と比較してB群のほうが有意に高い値を示した。ロジスティック重回帰分析を行った結果,THA術後6ヶ月での前額面上での跛行の有無に関わる因子として股関節外転筋力のみが選択された。さらに,股関節外転筋力のROC曲線より求めたカットオフ値は0.80(Nm/kg)(感度86.3%,特異度84.6%)であり,AUCは0.90であった。
【考察】本研究の結果より,THA術後6ヶ月の前額面上での跛行に関わる因子として,股関節痛や股関節の可動域よりも股関節外転筋力が関与することが明らかとなった。これらの結果は股関節疾患患者を対象とした先行報告と一致する。さらに,THA術後6ヶ月における術側の股関節外転筋力が0.80(Nm/kg)以上で歩行中の患側立脚期に体幹の傾きが改善することが明らかとなり,術後の前額面上での跛行の改善に対する適切な目標設定のための根拠となるデータになると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】本研究の結果はTHA術後の前額面上での体幹の傾きを改善していくための目標設定に有用な情報であり,理学療法学研究として意義のあるものと考えられた。