第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法1

2015年6月5日(金) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-C-0229] ロボットスーツHAL単脚型を使用し歩行能力が改善した2症例について

大岡恒雄1, 浦辺幸夫2, 島俊也1, 白川泰山3 (1.マッターホルンリハビリテーション病院リハビリテーション部, 2.広島大学大学院医歯薬保健学研究院, 3.マッターホルンリハビリテーション病院整形外科)

キーワード:ロボットスーツHAL, 歩行能力, 理学療法の可能性

【目的】
当院では2009年11月にロボットスーツHAL両脚型を導入し,2012年3月からはHAL単脚型も加え脳卒中片麻痺患者や脊髄損傷患者等の歩行練習に使用している。これまでに,HAL装着下での歩行練習を中心とした運動療法の実施数は延べ500例以上に達している。筆者らは,HAL両脚型が維持期片麻痺患者に対して歩行能力の向上や麻痺側立脚期の荷重量の増大をもたらすことを報告してきた(金澤ら,2010,大岡ら,2012)。HAL両脚型に関する症例検討や歩行能力等の改善を報告したものは多い。しかしながら,HAL単脚型についての報告は少ない。今回,HAL単脚型を使用した2例について症例検討を行う。


【症例紹介】
症例Aは60歳代半ばの女性であり,診断名は脳挫傷(左片麻痺)であった。平成23年3月に交通事故により救急搬送先で頭蓋内血腫除去術を施行した。同年5月にはVPシャント術,7月には海綿静脈洞コイル塞栓術を施行した。平成24年10月までに複数の病院の入退院を繰り返した。平成24年12月にリハビリテーションセンターに入所し,平成25年8月に夫がHALを勧め開始となった。主訴は「しっかり歩けない」,Demandは「T字杖で歩行したい」であった。Brunnstrom Recovery Stageは上肢2,手指2,下肢3だった。初回来院時のADLは監視レベル,移動は車椅子を使用していた。歩行は四脚杖と短下肢装具を使用し監視が必要であり,1日の歩行練習量は約90m(30m×3回)だった。理学療法上の問題点としては,麻痺側下肢の振り出しが弱いことや疲労による連続歩行距離が短いことをあげた。
症例Bは70歳代前半の女性であり,診断名は脊髄梗塞(両下肢不全麻痺)であった。平成15年2月に誘因なく腰部から下肢にかけて強い疼痛が出現し,C病院に入院となった。退院後はクリニックで週1回理学療法を実施していたが,平成26年3月にHALでの歩行練習を希望し開始した。主訴は「坂道や階段が歩きにくい」,Demandは「杖なしで歩きたい」だった。初回来院時のADLは自立,移動はT字杖を使用し,屋内・外ともに自立レベルであった。問題点として,歩行耐久性等には問題なかったので歩容の変更をあげた。
症例A,BともにHALの実施時間は1回約60分とし,実施頻度を月1~2回とした。歩行能力の評価には,10m歩行テスト(10MWT)とビデオ画像による歩行観察を行った。10MWTの測定値は毎回のHAL装着前に計測した。


【結果】
症例Aの初回の10MWTは四脚杖を使用し48.1秒,歩数は60歩であり,HAL装着による歩行練習量は100m(20m×5回)まで可能であった。HAL2回目では25.5秒,42歩と変化がみられた。HAL4回目の歩行練習量は270mまで増大し,「HAL実施後の数日間は左足が上がりやすい」というコメントが得られた。6回目には17.1秒,30歩とさらに改善し,歩行練習量は330mまで増大した。HALの実施回数は16回の時点で,症例Aの都合で中断した。
症例Bの初回の10MWTはT字杖を使用し13.8秒,歩数は23歩であり,初回のHAL装着による歩行練習は180m可能であった。HAL2回目には11.5秒,18歩と変化し,歩行練習量も270mまで増大した。HAL5回目の歩行練習量は540mまで増大し,連続歩行距離は180mまで可能となった。8回目では11.1秒,19歩と変化はみられないが,歩行練習量は750mに達し,「昇りの坂道で右足がひっかかりにくくなった」というコメントが聞かれた。現在も継続中である。


【考察】
症例A,BともにHAL初回より100m以上の歩行練習が可能となり,2回目以降に歩行能力や身体機能に変化がみられ,各々のDemandや目標は概ね達成された。HAL単脚型の本体の重量は7kg,両脚型は11kgと4kgの違いがあり,歩行中に両脚型では重量が重いこと,非麻痺側の運動が制限される問題がある。島ら(2012)は,HAL両脚型では歩行練習が2回以上の継続が困難であった症例は全体の47%でだったと報告している。症例A,Bともに麻痺は主に片側であり,初回より麻痺側のみに効果的にアシストが加えられた。HAL両脚型では1日の歩行練習が100m程度しか行えない症例を多く経験する。本症例のようにアシストが主に片脚のみに必要で,初回から100m以上の歩行可能な対象には,より疲労の少ない状態で歩行時の筋活動に適切なタイミングで刺激を加えられるロボットスーツHAL単脚型を選択すべきではないかと考えられる。


【理学療法学研究としての意義】
今後,理学療法分野におけるロボットスーツHALをはじめとするロボット機器の使用機会は増えてゆく。理学療法士が対象の状態や要望に合わせてロボットを活用し満足度を高めていくように工夫することは理学療法の発展に寄与し意義がある。