[P1-C-0240] 脳卒中片麻痺患者における短下肢装具の役割―歩行中の荷重解析―
Keywords:下肢荷重率, 短下肢装具, 安定性
【はじめに,目的】
脳卒中片麻痺患者(片麻痺者)に対する短下肢装具(AFO)の目的の一つに,麻痺側立脚期の安定性の向上が挙げられる。片麻痺者におけるAFOを用いた歩行の評価は床反力計が中心に使用されており,歩行の安定性は歩行速度の向上などから報告されている。歩行の恒常性の観点から歩行時間,重複歩距離などの変動性に着目した報告があり,安定性という解釈が曖昧であるように思われる。また,床反力計を用いた歩行分析は歩行距離が短く,恒常性については評価が困難と思われる。そこで,今回我々は歩行の評価に,床反力の鉛直成分を測定可能な靴型荷重測定機器を使用することとした。この機器は歩行距離や測定場所の制限がなく測定が可能である。この機器を使用し,片麻痺者のAFOの有無による歩行中の麻痺側下肢荷重量の測定を実施し,AFOを使用した歩行の安定性について下肢荷重の観点から検証を行った。
【方法】
対象は当院に入院している片麻痺者で,平行棒を支持し裸足にて監視歩行が可能である12名とした。また除外基準は日常会話や理解に支障をきたす高次脳機能障害を有する者とした。対象者の麻痺側下肢Brunnstrom recovery stage(BRS)はIVが9名,Vが3名であった。全ての対象者において,平行棒内にて10m歩行中の麻痺側下肢荷重量および10m歩行時間をAFOの有無による2条件にて測定した。AFOは各対象者が普段使用しているものとした。下肢荷重量の測定は株式会社イマック社製のステップエイドを使用し,麻痺側に装着して実施した。歩行中の荷重量計測は歩行開始から終了までとし,取り込み周期は10msとした。その際の荷重計測値の各周期のピーク値を荷重量として採用し,測定された荷重量を体重で除し100をかけたものを麻痺側下肢荷重量の荷重率(WBR)とした。比較項目は,10m歩行時間,10m歩行中のWBRの平均値およびその変動係数(CV)とした。CVは(標準偏差/歩行中のWBRの平均値)×100にて算出した。AFO装着時と非装着時の前後を比較するため統計解析はpaired-t testおよびWilcoxonの符号付順位検定を用いて行った。危険率は5%に設定した。
【結果】
10m歩行時間は,装着時で25.6±7.3秒,非装着時で31.8±14.2秒と装着時で有意な減少が認められた。歩行中のWBRは装着時で87.1±14.7%,非装着時で98.2±7.2%と装着時で有意に減少した。また,WBRのCVは装着時で3.7±1.1%,非装着時で7.3±6.5%と装着時で有意な減少が認められた。
【考察】
先行研究より片麻痺者の歩行はAFOを使用することにより歩容や速度,安定性などが改善されたと報告がある。本研究の結果,歩行中のWBRのCVが減少し,恒常性に改善を認めた。山本らは,AFOの装着によりICから荷重応答期(LR)の身体重心進行方向速度が増大すると述べている。本研究においても,装着時でAFOにより麻痺側足関節の底屈が制動されることで前方への推進力が増大し,歩行速度が向上したのではないかと考えられる。また,窪田らは,床反力波形指標を用いて片麻痺者のAFOの有無における歩行を比較しており,AFO装着時において麻痺側の足底荷重の進行方向への移行を定量的に示す移行指数が減少すると報告している。これは,本研究の歩行中のWBRがAFO装着時に減少した結果と一致している。これらより,装着時ではICからLRにかけてAFOにより足関節の底屈が制動されたことで,鉛直方向の荷重ベクトルが前方向へのベクトルに変位し麻痺側下肢荷重量が減少したと思われる。明崎らは,市販用体重計を使用し,立位のWBRを用いた研究により,一定以上のWBRを閾値として歩行能力が変化することを報告している。本研究では,歩行時のWBRは装着時で有意な減少が認められ,10m歩行時間も有意な改善を示す結果となった。このことから,歩行の安定性を評価するには,立位のWBRのみでなく,歩行中のWBRやそのCVも評価することが重要と考えられる。以上より,片麻痺者におけるAFOの役割の一つとして,AFOを装着することで歩行中の麻痺側下肢への荷重量を制動し,スムースに推進力を得ることのできる重要なものであると再確認できた。またAFO装着による歩行の安定性については,歩行中のWBRのCVを測定することで評価が可能になったと思われる。
【理学療法学研究としての意義】
AFOを使用する片麻痺者の歩行中の下肢荷重量を捉えることにより,今までの評価では曖昧であった歩行の安定性について評価することが可能になったと思われる。今後は対象者を増やし,どの程度のWBRまたはCVであればよいのかを評価・検証していきたい。
脳卒中片麻痺患者(片麻痺者)に対する短下肢装具(AFO)の目的の一つに,麻痺側立脚期の安定性の向上が挙げられる。片麻痺者におけるAFOを用いた歩行の評価は床反力計が中心に使用されており,歩行の安定性は歩行速度の向上などから報告されている。歩行の恒常性の観点から歩行時間,重複歩距離などの変動性に着目した報告があり,安定性という解釈が曖昧であるように思われる。また,床反力計を用いた歩行分析は歩行距離が短く,恒常性については評価が困難と思われる。そこで,今回我々は歩行の評価に,床反力の鉛直成分を測定可能な靴型荷重測定機器を使用することとした。この機器は歩行距離や測定場所の制限がなく測定が可能である。この機器を使用し,片麻痺者のAFOの有無による歩行中の麻痺側下肢荷重量の測定を実施し,AFOを使用した歩行の安定性について下肢荷重の観点から検証を行った。
【方法】
対象は当院に入院している片麻痺者で,平行棒を支持し裸足にて監視歩行が可能である12名とした。また除外基準は日常会話や理解に支障をきたす高次脳機能障害を有する者とした。対象者の麻痺側下肢Brunnstrom recovery stage(BRS)はIVが9名,Vが3名であった。全ての対象者において,平行棒内にて10m歩行中の麻痺側下肢荷重量および10m歩行時間をAFOの有無による2条件にて測定した。AFOは各対象者が普段使用しているものとした。下肢荷重量の測定は株式会社イマック社製のステップエイドを使用し,麻痺側に装着して実施した。歩行中の荷重量計測は歩行開始から終了までとし,取り込み周期は10msとした。その際の荷重計測値の各周期のピーク値を荷重量として採用し,測定された荷重量を体重で除し100をかけたものを麻痺側下肢荷重量の荷重率(WBR)とした。比較項目は,10m歩行時間,10m歩行中のWBRの平均値およびその変動係数(CV)とした。CVは(標準偏差/歩行中のWBRの平均値)×100にて算出した。AFO装着時と非装着時の前後を比較するため統計解析はpaired-t testおよびWilcoxonの符号付順位検定を用いて行った。危険率は5%に設定した。
【結果】
10m歩行時間は,装着時で25.6±7.3秒,非装着時で31.8±14.2秒と装着時で有意な減少が認められた。歩行中のWBRは装着時で87.1±14.7%,非装着時で98.2±7.2%と装着時で有意に減少した。また,WBRのCVは装着時で3.7±1.1%,非装着時で7.3±6.5%と装着時で有意な減少が認められた。
【考察】
先行研究より片麻痺者の歩行はAFOを使用することにより歩容や速度,安定性などが改善されたと報告がある。本研究の結果,歩行中のWBRのCVが減少し,恒常性に改善を認めた。山本らは,AFOの装着によりICから荷重応答期(LR)の身体重心進行方向速度が増大すると述べている。本研究においても,装着時でAFOにより麻痺側足関節の底屈が制動されることで前方への推進力が増大し,歩行速度が向上したのではないかと考えられる。また,窪田らは,床反力波形指標を用いて片麻痺者のAFOの有無における歩行を比較しており,AFO装着時において麻痺側の足底荷重の進行方向への移行を定量的に示す移行指数が減少すると報告している。これは,本研究の歩行中のWBRがAFO装着時に減少した結果と一致している。これらより,装着時ではICからLRにかけてAFOにより足関節の底屈が制動されたことで,鉛直方向の荷重ベクトルが前方向へのベクトルに変位し麻痺側下肢荷重量が減少したと思われる。明崎らは,市販用体重計を使用し,立位のWBRを用いた研究により,一定以上のWBRを閾値として歩行能力が変化することを報告している。本研究では,歩行時のWBRは装着時で有意な減少が認められ,10m歩行時間も有意な改善を示す結果となった。このことから,歩行の安定性を評価するには,立位のWBRのみでなく,歩行中のWBRやそのCVも評価することが重要と考えられる。以上より,片麻痺者におけるAFOの役割の一つとして,AFOを装着することで歩行中の麻痺側下肢への荷重量を制動し,スムースに推進力を得ることのできる重要なものであると再確認できた。またAFO装着による歩行の安定性については,歩行中のWBRのCVを測定することで評価が可能になったと思われる。
【理学療法学研究としての意義】
AFOを使用する片麻痺者の歩行中の下肢荷重量を捉えることにより,今までの評価では曖昧であった歩行の安定性について評価することが可能になったと思われる。今後は対象者を増やし,どの程度のWBRまたはCVであればよいのかを評価・検証していきたい。