第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法3

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-C-0249] 脳卒中患者における立位回転動作の動作戦略の分析

評価尺度作成に向けた予備的研究

小林将生1,2, 佐藤みゆき1, 落合久幸1, 中條浩樹1, 吉田絵美1, 田畑直人1, 藤井保仁1, 高橋久美子3, 関根麻子3, 臼田滋2 (1.老年病研究所附属病院, 2.群馬大学大学院保健学研究科, 3.群馬老人保健センター陽光苑)

Keywords:脳卒中, 尺度開発, 立位回転動作

【はじめに,目的】
立位回転動作は家事動作にも含まれ,日常生活には欠かせない重要な動作である。これまで,高齢者やパーキンソン病患者では,身体の向きを変える動作である「立位回転動作」や「方向転換動作」の特徴について報告されているが,脳卒中片麻痺患者の立位回転動作の動作戦略については,明らかにされておらず,動作を評価する尺度はない。
脳卒中患者は,麻痺による筋力低下や協調性の低下によって動作戦略が高齢者やパーキンソン病患者と異なっていることが予想される。特に,一側下肢を軸足とする立位回転動作は,一側の運動機能障害の影響が大きいと考えられる。運動は個人・課題・環境が相互に影響することで発現されるが,様々な要因の変化によって運動戦略は変化する。したがって,多様な動作戦略を用いることができる能力は重要であり,動作戦略を明らかにすることは理学療法場面において有用であると考えられる。
本研究の目的は立位回転動作の動作戦略を分析する評価方法の作成を予備的に試みることである。
【方法】
立位回転動作の動作戦略を分析する評価尺度の作成に当たって,主研究者が先行研究を参考に必要となる評定項目を抽出した。抽出された項目について,理学療法士4名とともに評価項目の内容について検討した。対象とした理学療法士の平均経験年数は15.1±7.9年(平均値±標準偏差)であった。合計6回検討を行い,1回の議論は30~60分とした。その後,主研究者を含む5名の理学療法士が動画を用いて立位回転動作の評価を行った。対象は脳卒中片麻痺患者10名であり,平均年齢は65.5±7.2歳であった。下肢運動機能はMotricity indexを使用し,合計点の平均点は51.8±20.7点であった。快適歩行速度は平均0.35±0.27m/secであった。立位回転動作は麻痺側回転・非麻痺側回転それぞれ実施し,平均所要時間が8.8±6.3s,11.0±6.1sであり平均歩数は8.9±3.3歩,10.5歩±3.7歩であった。
【結果】
立位回転動作を評価する評定項目として,「タイプ」「安定性」「歩幅」「流動性」「ストラテジー」「麻痺側下肢への重心移動」「その他」「所要時間,歩数」が抽出された。また,動作の相から「開始」「実行」「停止」の3つを抽出した。抽出された11項目について4名の理学療法士と内容について検討した。その結果,「進行方向」,「タイプ」,「開始」,「停止」,「安定性」,「流動性」,「足の運び」を評定項目とした。
主研究者を含む5名の理学療法士による立位回転動作の評価結果から,一致率を算出した。4名以上の理学療法士の評価結果の一致率が6割以下であった評定項目は,「タイプ」「停止」であった。一致率は6割以上だったが,主研究者の評価結果と他の4名の理学療法士の評価結果が全員一致しなかった結果を含むものは,「進行方向」「安定性」であった。したがって,「進行方向」「タイプ」「停止」「安定性」については定義の変更を行った。また,4名の理学療法士に評定項目の内容について再度確認を行い,「use of space」を追加し,「進行方向」,「タイプ」,「use of space」「開始」,「停止」,「不安定性」,「流動性」,「足の運び」を評定項目とした。
【考察】
本尺度は脳卒中患者の立位回転動作を評価する尺度である。評定項目の抽出には,高齢者やパーキンソン病患者の立位回転動作や方向転換動作を評価する先行研究を参考に抽出した。対象とした理学療法士は臨床経験豊かであり,長年脳卒中患者のリハビリテーション関わっている。そのため,評定項目の内容的妥当性は高いと考えられる。また,動画を用いた評価では,「タイプ」「停止」の一致率が低かった。これについては,評定項目の定義が不明瞭であり,評価結果のばらつきが生じてしまったと考えられる。
本研究の限界として,動画を用いた評価であるため実際の動作観察による評価結果とは異なる可能性がある。また,信頼性の検討を行っておらず,妥当性の検討は不十分である。したがって,今後は,信頼性・妥当性の検討を行い,評定項目の選定を進めるとともに,運動機能や歩行能力との関連性や回転方向による動作戦略の違いについて検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
動作戦略を分析することは理学療法を実施するうえで重要である。多様な動作戦略を用いることができる能力は日常生活に必要であり,立位回転動作の動作戦略を評価する本尺度は有用であると考えられる。