第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法5

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-C-0264] 低頻度反復性経頭蓋磁気刺激と集中的訓練の併用実施が主観的・客観的な運動イメージ想起能力に及ぼす影響

―KVIQ・Mu波による検討―

伊藤大剛1, 大松聡子1,2, 谷茉理菜1, 富永孝紀1 (1.医療法人穂翔会村田病院リハビリテーション科, 2.畿央大学大学院健康科学研究所神経リハビリテーション研究室)

Keywords:低頻度反復性経頭蓋磁気刺激, 脳波, 運動イメージ

【はじめに】運動イメージとは,過去の経験に基づいて想起される感覚フィードバックを伴わない脳内の心的シミュレーションであり,運動イメージがより鮮明となることで心的シュミレーションが活性化し運動学習の促進に繋がると考えられている。また,運動イメージの想起にはミラーニューロンシステムを活動させる運動観察が重要とされており,運動観察時・運動イメージ時には実際の運動実行と類似した運動関連領域が賦活し脳波ではMu波の減衰を認める報告(松尾2010)がされている。一方,近年では脳卒中片麻痺(CVA)患者に対して低頻度反復性経頭蓋磁気刺激(low-frequency repetitive transcanial magnetic stimulation:LF-rTMS)と集中的訓練の実施による運動機能回復の報告が多数みられている。谷ら(2014)は,LF-rTMSと集中的訓練の実施前後において,運動観察時の運動関連領域のMu波の有意な減衰と上肢運動機能の改善を認めたことを報告した。しかし,これらの報告は運動観察時のみの変化に着目した検討であり,運動機能回復に伴った運動イメージの変化については検討されていない。本研究ではLF-rTMSと集中的訓練後の運動機能回復における主観的・客観的な両側面の運動イメージ想起能力の変化を検討した。
【方法】対象は,CVA患者8名(男性4名,女性4名,年齢67.1±8.3歳)とした。LF-rTMSは経頭蓋磁気刺激装置(the Magstim company Ltd:Magstim Super Rapid2)を使用し,刺激強度を安静時運動閾値の90%とした。非損傷側運動野に1Hzの頻度で,1300発刺激した後に集中的訓練を60分間実施した。これらを1セッションとし,14日間で22セッション実施した。介入前後の運動イメージの客観的評価として脳波でMu波の減衰を,主観的評価として日本語版the Kinesthetic and Visual Imagery Questionnaire-20(KVIQ)に準じて実施し,手指対立の運動イメージの鮮明度を評価した。上肢運動機能の評価はFugl-Meyer Assessment(FMA)の手指項目を実施した。脳波のプロトコルは,運動観察条件(安静12秒,立方体の対立つまみにおける運動観察12秒)と運動イメージ条件(安静12秒,立方体の対立つまみにおける運動イメージ12秒)を5トライアル実施し,これを5セッション実施した。測定は脳波計(EEG-1200日本光電)を使用し,サンプリング周波数500Hz,国際10-20法に基づき19chを記録した。脳波の解析にはATAMAPII(キッセイコムテック社)を用いて,各患者の感覚運動皮質野直上のC3,C4領域からMu波(8-13Hz)帯域を周波数解析し,減衰率を求めた。減衰率は,安静条件から各条件(運動観察条件・運動イメージ条件)の平均値を減算し,安静条件で除した数値に100を掛けた数値とした。また,各条件中の筋活動をモニターしておくために,患側の第1背側骨間筋から表面筋電図を同時に記録し,筋活動の有無を確認した。統計学的処理は,Wilcoxon符号順位検定を用いて比較し,有意水準は5%未満とした。
【結果】介入後,FMAの手指項目(p<0.05)とKVIQ(p<0.01)は介入前と比較して有意な値の増加を認めた。また,Mu波は介入前後で,運動観察条件において有意に減衰(p<0.05)を認め,運動イメージ条件においては有意な減衰は認められなかった。
【考察】今回,LF-rTMSと集中的訓練の実施により,上肢運動機能の回復を認めた。また,その際に運動観察条件においてMu波の有意な減衰が認められた。このことから,LF-rTMSと集中的訓練の実施により,運動関連領域が賦活され,運動機能回復に繋がったと考えられる。一方,介入後にKVIQでは有意な値の増加を認めたにも関わらず,運動イメージ条件でのMu波は介入前後で有意な差は認められなかったため,運動イメージの主観と客観の評価に差が生じた要因や症例に応じた特徴などは今後さらに検討していく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究では,KVIQとMu波を用いてLF-rTMSと集中的訓練の実施前後の主観的・客観的な両側面の運動イメージ想起能力を評価した。その結果,運動イメージの主観的・客観的の評価に差があった。このことから,CVA患者の運動機能回復において主観的・客観的な両側面から運動イメージを評価することの重要性が示唆された。