第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法5

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-C-0270] Wallenberg症候群を呈した一症例のめまいと姿勢制御障害に対するGalvanic Vestibular Stimulationの即時的効果

植田耕造1,2, 金由佳2, 岡田洋平1,3, 森岡周1,3 (1.畿央大学大学院健康科学研究科神経リハビリテーション学研究室, 2.星ヶ丘医療センターリハビリテーション部, 3.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター)

Keywords:めまい, 姿勢制御障害, Galvanic Vestibular Stimulation

【はじめに,目的】
Wallenberg症候群後には嚥下障害や温痛覚障害の他にめまいや姿勢制御障害が出現する。めまい,姿勢制御障害ともに日常生活に大きな影響を及ぼすにも関わらず有効な治療方法の報告は少ない。めまいは前庭機能の異常によるものであるが,近年の報告(阿部2011,Eggers 2009)から,姿勢制御障害も前庭機能障害の関与が示唆されており,両者ともに前庭機能に働きかける介入が効果的である可能性が考えられる。
前庭機能に直接的に働きかける介入として直流前庭電気刺激(Galvanic Vestibular Stimulation:GVS)があり,Wallenberg症候群後のめまいや姿勢制御障害に有効である可能性がある。
今回,Wallenberg症候群を呈した一症例のめまいと姿勢制御障害に対するGVSの即時的効果を調べたので報告する。
【方法】
症例は左延髄外側部梗塞発症後,Wallenberg症候群を呈した60歳代男性である。発症後約30日で回復期病棟へ転棟。その頃には複視は認めたがめまいの訴えはほぼ無かった。発症後約45日頃にめまいが強くなったと訴え,体が右側へ倒れるほどの急激なめまいが座位や立位中に2週間に3回起こった。その際は実際に体が右側へ倒れたこともあった。MRI再検査上,新たな梗塞は発見されず,耳鼻科受診においても明確な原因は検出されなかった。症例は「左から右へ回転するような感じ」と回転性めまいを訴えており,めまいは起き上がりなど動作時に起こるわけではなく,座位などでも常に周囲が回転している状態であった。また開眼,開脚での静止立位保持は可能であったが,閉脚では頭頸部が徐々に右へ傾き,何とか立位保持が可能な状態であった。閉脚で閉眼すると5秒もたたないうちに右側へ傾きバランスを崩した。独歩も時折右側へふらつき介助が必要であった。
本症例の損傷部位やめまいが強いこと,そして静止立位や歩行時にめまいと同じ方向に頭が傾くことやふらつく傾向があることから,これらが前庭機能障害によるものと考え,その内容を症例に伝え相談した上で発症後約60日目にGVSを実施した。
GVSにはIntelect Advenced Combo(chattanooga社製)を用いた。GVSは陽極側に身体を傾ける効果があることから,左の乳様突起を陽極とし,車椅子に乗車した座位姿勢で1.0mAで2分実施し,めまいが強くなっていないかと,閉脚開眼での静止立位保持が可能かを確認し,両方とも増悪はなく改善傾向であったため,続けて1.2mAで3分,0.5mAで5分間実施した。
めまいの評価はNumeric Rating Scale(NRS)を用い,「0:めまいなし」から「10:これまで経験した一番強いめまい」で示してもらった。
姿勢制御の評価は,閉脚開眼の静止立位中の足圧中心動揺を重心動揺計(ANIMA社製G7100)で30秒を2回測定した。評価項目は,矩形面積,左右,前後方向の単位軌跡長とした。
実施日の理学療法所見は,筋力は下肢は左右ともにMMTで4~5,体幹屈曲は3,SIASの運動スコアは右上下肢ともに4,右半身の触覚は軽度鈍麻,温痛覚軽度低下,左顔面感覚低下を認め,位置覚は正常であった。
Scale for the assessment and rating of ataxiaは歩行4,他の運動項目は全て2であった。眼球運動障害は複視を認めた。
【結果】
GVS前後で,NRSは10から5になり,「左から右へ回転する感じがましになったし,少し楽になった」との発言が聞かれた。GVS前の立位は何とか保持可能も徐々に右側へ頭頸部や上部体幹が傾いていっていたが,GVS後は右への傾きはなくなった。矩形面積は43.7から29.3(cm2),単位軌跡長は左右方向が6.6から5.0へ,前後方向が5.6から4.6となった。また,独歩時に右側へふらつく傾向は動作観察上も,症例の主観としても軽減した。
【考察】
NRS,足圧中心動揺の結果は,本症例のめまいと姿勢制御障害に対してGVSが即時的ではあるが有効であったことを示している。特徴的であったのが,左から右へ回転するとの訴えや静止立位中の頭頸部の傾き,歩行時の右へのふらつきが軽減するなど,症例の主観的な訴え,動作場面ともに右への傾きが軽減したことである。今回は未測定なため定かではないが,これらの変化にはsubjective visual vertical(SVV)の変化が関与している可能性が考えられる。SVVはWallenberg症候群において異常であると報告(Cnyrim 2007)されており,GVS実施中は陽極側に偏移すると報告(Volkening 2014)されている。今回はGVS介入のみの即時的効果であることから,SVVが改善しめまいや姿勢制御障害が改善した可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
介入報告の少ないWallenberg症候群後のめまいと姿勢制御障害にGVSが有効である可能性を初めて示した点が意義である。