[P1-C-0274] プロペンシティスコアを用いた脳卒中患者のSelf-Exercise効果に関する研究
キーワード:プロペンシティスコア, Self-Exercise, ADL
【はじめに,目的】
脳卒中患者では,Self-Exercise(SE)を家族及び本人がリハビリテーション(リハ)の時間以外に実行していることが多くみられる。しかし,その効果について検討した研究は少なく,理由として無作為化比較試験が行いにくいことがあげられる。近年,無作為化比較試験が困難な分野において有用な方法として観察データから交絡要因を調整するプロペンシティスコア(PS)法が注目されている。PSとは,例えば特定薬の服薬といった介入に割り付けられる確率を示すスコアであり,同じスコア同士の介入群と対照群で比較すれば,それは疑似無作為割付のようになるのでより,妥当な因果関係を推計できる。そこで,本研究ではPSによる交絡因子の調整により,脳卒中患者に対するSE実施が退院時ADL向上に寄与しているかを検討した。
【方法】
研究デザインは後ろ向きコホート研究である。対象は日本リハ・データベース協議会(JARD)の運営するデータベースに一般病棟患者として登録された,10病院,2170名(男性1202名,女性968名,76.6±9.1歳)とした。調査項目は年齢,性別,脳卒中病型,在院日数,FIM運動,FIM認知,FIM運動利得,在院1日あたりのFIM運動利得(FIM運動利得率),FIM運動利得率中央値の0.87で分割した2値の変数,NIH Stroke Scale(NIHSS),Glasgow Coma Scale(GCS),modified Rankin Scale(mRS),在院1日あたりのリハ単位数,SE有無とした。方法は,正規性を考慮し対数変換したPS(Log_PS)によりSE実施の介入群とSE非実施の対照群とでn=655ペアをマッチングし,退院FIM運動,FIM運動利得,FIM運動利得率を対応のあるt検定により比較した。さらに,多変量解析としてFIM運動利得率中央値の0.87で分割した2値の変数を従属変数,Log_PSおよびSE有無を説明変数としたロジステック回帰分析を行った。
【結果】
今回算出したLog_PSのAUCは0.81(95%CI 0.79-0.83)であり,モデル適合度は良好であった。マッチングした介入群と対照群は,年齢(74.0±8.2,75.3±8.5),発症後入院病日(1.3±0.8,1.4±0.9),入院FIM運動(41.5±24.0,39.2±24.7),入院FIM認知(26.1±9.5,24.4±10.0),入院NIHSS(4.5±5.3,5.6±5.6)と概ねバランスがとれていた。対応のあるt検定では退院FIM運動(76.4±18.7,62.6±25.4),FIM運動利得(35.0±21.9,23.4±18.0),FIM利得率(1.9±1.5,1.2±1.2)に有意差を認め,介入群で良好な結果となった。ロジステック回帰分析ではSEのオッズ比2.1(95%CI 1.7-2.7)であった。
【考察】
今回の研究では,Log_PSによるマッチングにより,介入群と対照群では同様の背景をもった群に振り分けられ疑似無作為割付となっている。介入群と対照群の比較よりSEは年齢,性別,入院時FIM,入院時GCS,入院時NIHSS,mRSなどを考慮しても有効であった。先行研究ではstroke unitが有効な理由として,リハ介入量,多職種の連携による早期離床やADL介入などが重要であるとされており,SEはリハ介入量を補完する一方で,ADL介入としても有用であったと思われた。本研究では参加している施設がリハ医学会に所属する多くは専門医が勤務する施設であり,本データベース事業に参加する熱心な施設に偏ったデータであることを考慮する必要がある。いくつかの限界は持つものの,一般病棟患者ではSE実施が退院時ADL向上に寄与している可能性が,多施設データによって外的妥当性が高い知見として示された。なお,本結果はJARDの見解でなく,発表者個人の見解である。
【理学療法学研究としての意義】
これまでSEに焦点を当てた研究は少なく,さらに,多施設からのデータに基づく研究でかつPSを用いた疑似無作為割付によりSEの有用性を証明した。本邦の一般病棟では必ずしも十分な量のリハ時間が確保できておらず,これらを補う方法としてSEが必要と考えられ,今後の積極的なSE指導の重要性が明らかとなった。
脳卒中患者では,Self-Exercise(SE)を家族及び本人がリハビリテーション(リハ)の時間以外に実行していることが多くみられる。しかし,その効果について検討した研究は少なく,理由として無作為化比較試験が行いにくいことがあげられる。近年,無作為化比較試験が困難な分野において有用な方法として観察データから交絡要因を調整するプロペンシティスコア(PS)法が注目されている。PSとは,例えば特定薬の服薬といった介入に割り付けられる確率を示すスコアであり,同じスコア同士の介入群と対照群で比較すれば,それは疑似無作為割付のようになるのでより,妥当な因果関係を推計できる。そこで,本研究ではPSによる交絡因子の調整により,脳卒中患者に対するSE実施が退院時ADL向上に寄与しているかを検討した。
【方法】
研究デザインは後ろ向きコホート研究である。対象は日本リハ・データベース協議会(JARD)の運営するデータベースに一般病棟患者として登録された,10病院,2170名(男性1202名,女性968名,76.6±9.1歳)とした。調査項目は年齢,性別,脳卒中病型,在院日数,FIM運動,FIM認知,FIM運動利得,在院1日あたりのFIM運動利得(FIM運動利得率),FIM運動利得率中央値の0.87で分割した2値の変数,NIH Stroke Scale(NIHSS),Glasgow Coma Scale(GCS),modified Rankin Scale(mRS),在院1日あたりのリハ単位数,SE有無とした。方法は,正規性を考慮し対数変換したPS(Log_PS)によりSE実施の介入群とSE非実施の対照群とでn=655ペアをマッチングし,退院FIM運動,FIM運動利得,FIM運動利得率を対応のあるt検定により比較した。さらに,多変量解析としてFIM運動利得率中央値の0.87で分割した2値の変数を従属変数,Log_PSおよびSE有無を説明変数としたロジステック回帰分析を行った。
【結果】
今回算出したLog_PSのAUCは0.81(95%CI 0.79-0.83)であり,モデル適合度は良好であった。マッチングした介入群と対照群は,年齢(74.0±8.2,75.3±8.5),発症後入院病日(1.3±0.8,1.4±0.9),入院FIM運動(41.5±24.0,39.2±24.7),入院FIM認知(26.1±9.5,24.4±10.0),入院NIHSS(4.5±5.3,5.6±5.6)と概ねバランスがとれていた。対応のあるt検定では退院FIM運動(76.4±18.7,62.6±25.4),FIM運動利得(35.0±21.9,23.4±18.0),FIM利得率(1.9±1.5,1.2±1.2)に有意差を認め,介入群で良好な結果となった。ロジステック回帰分析ではSEのオッズ比2.1(95%CI 1.7-2.7)であった。
【考察】
今回の研究では,Log_PSによるマッチングにより,介入群と対照群では同様の背景をもった群に振り分けられ疑似無作為割付となっている。介入群と対照群の比較よりSEは年齢,性別,入院時FIM,入院時GCS,入院時NIHSS,mRSなどを考慮しても有効であった。先行研究ではstroke unitが有効な理由として,リハ介入量,多職種の連携による早期離床やADL介入などが重要であるとされており,SEはリハ介入量を補完する一方で,ADL介入としても有用であったと思われた。本研究では参加している施設がリハ医学会に所属する多くは専門医が勤務する施設であり,本データベース事業に参加する熱心な施設に偏ったデータであることを考慮する必要がある。いくつかの限界は持つものの,一般病棟患者ではSE実施が退院時ADL向上に寄与している可能性が,多施設データによって外的妥当性が高い知見として示された。なお,本結果はJARDの見解でなく,発表者個人の見解である。
【理学療法学研究としての意義】
これまでSEに焦点を当てた研究は少なく,さらに,多施設からのデータに基づく研究でかつPSを用いた疑似無作為割付によりSEの有用性を証明した。本邦の一般病棟では必ずしも十分な量のリハ時間が確保できておらず,これらを補う方法としてSEが必要と考えられ,今後の積極的なSE指導の重要性が明らかとなった。