[P1-C-0277] 脳卒中片麻痺の症例における足関節VIM課題の効果
Keywords:脳卒中片麻痺, 運動錯覚, 運動イメージ
【はじめに,目的】
運動イメージ(MI)を客観的に評価する手段の一つとして脳波(electroencephalogram:EEG)が用いられる。高橋ら(2009)は安静時に比較し,足関節背屈運動想起時には,運動野の足領域付近であるCz領域において20-30Hz付近で電位低下することを報告した。Mulder Tら(2007)は,臨床において運動観察やMIが脳卒中後の運動機能回復を目的とした有効な介入手段の一つであることを示唆している。また,湯川ら(2012)は,脳血管障害(CVA)患者において,手指への振動誘発運動感覚錯覚(VIM)課題は,MIの鮮明度や手指の運動機能が向上することを報告した。一方,足関節に対するVIM課題は,運動機能を改善させることは報告されているが,MIの鮮明度の変化を検討した報告は少ない。本報告では,CVA患者1名を対象に足関節に対するVIM課題を実施し,課題前後での足関節運動機能とMIの鮮明度の変化について日本語版the Kinesthetic and Visual Imagery Questionnaire-20(KVIQ)とEEGを用いて検討した。
【方法】
症例は,右大脳運動野領域から頭頂葉領域にかけての梗塞により左片麻痺を呈した40歳代男性とした。発症約2ヶ月後の下肢Br.stageはIV,感覚は中等度鈍麻であった。関節可動域(ROM)は,下腿三頭筋の筋緊張亢進による足関節背屈制限を認めた。足関節に対する振動刺激では運動錯覚を生じた。VIM課題は,閉眼背臥位で膝関節軽度屈曲位にて左下腿三頭筋腱に振動刺激装置(YSM-21山善)を用いて,87.2Hzの振動刺激を実施した。「安静10秒・課題10秒」を1セットとし,1日10セットを2週間実施した。課題前後の運動機能評価には,足関節底背屈Modified Ashworth scale(MAS),膝関節軽度屈曲位での自動運動による足関節背屈のROM,10m歩行最大速度を用いた。MIの評価は,主観的評価であるKVIQの視覚イメージ(VI)と運動感覚イメージ(KI)を用いた。また,高橋ら(2009)の報告を基に,EEGを用いて足のMI時におけるCz領域でのβ波(13-30Hz)帯域を計測し,MIの鮮明度の評価の手段とした。EEGのプロトコルは「安静5秒,左足関節を背屈している映像に合わせてのMIを5秒,安静5秒」を1セッションとし,10セッションを計3セット実施した。測定は,脳波計(EEG-1200日本光電)を使用し,国際10-20法に基づき,19chをサンプリング周波数500Hzにて導出した。また,MI中の筋活動をモニターしておくために,前脛骨筋から表面筋電図を同時に記録し,筋活動の有無を確認した。EEGの解析には,ATAMAPII(キッセイコムテック)を用いて,運動野の足領域付近であるCz領域からβ波帯域を周波数解析し,安静時に対するMI時の減衰率を求めた。
【結果】
VIM課題後の運動機能は,MASが2から1+,ROMが-20°から-2°と改善を認め,10m歩行においても9.12秒から7.85秒と向上を認めた。MI評価では,KVIQのVIが3.6から4.3,KIが1.3から4と向上し,EEGにおいてβ波が10.7から21.9へと減衰を認め,その際の筋活動は認めなかった。
【考察】
VIM課題を実施後,足関節の運動機能に改善を認め,MIの評価においてもKVIQのKIの向上や,EEGにて運動野の足領域付近であるCz領域でβ波の減衰を認めた。運動錯覚やMIでは,背外側運動前野(一次運動野吻側部を含む),補足運動野および小脳が賦活することが報告されており,本報告においても,振動刺激によって生じる運動錯覚で,MIの鮮明度が向上したことや運動関連領域の活動が高まったことにより運動機能の変化が生じたことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
今回,KIが低値であるCVA患者の足関節に対してVIM課題を実施することで,運動機能の改善に加え,KIの向上やEEGでβ波が減衰したことから,振動刺激による運動錯覚を利用することでMIの鮮明度の向上や運動関連領域の変化が起こることが示唆された。
運動イメージ(MI)を客観的に評価する手段の一つとして脳波(electroencephalogram:EEG)が用いられる。高橋ら(2009)は安静時に比較し,足関節背屈運動想起時には,運動野の足領域付近であるCz領域において20-30Hz付近で電位低下することを報告した。Mulder Tら(2007)は,臨床において運動観察やMIが脳卒中後の運動機能回復を目的とした有効な介入手段の一つであることを示唆している。また,湯川ら(2012)は,脳血管障害(CVA)患者において,手指への振動誘発運動感覚錯覚(VIM)課題は,MIの鮮明度や手指の運動機能が向上することを報告した。一方,足関節に対するVIM課題は,運動機能を改善させることは報告されているが,MIの鮮明度の変化を検討した報告は少ない。本報告では,CVA患者1名を対象に足関節に対するVIM課題を実施し,課題前後での足関節運動機能とMIの鮮明度の変化について日本語版the Kinesthetic and Visual Imagery Questionnaire-20(KVIQ)とEEGを用いて検討した。
【方法】
症例は,右大脳運動野領域から頭頂葉領域にかけての梗塞により左片麻痺を呈した40歳代男性とした。発症約2ヶ月後の下肢Br.stageはIV,感覚は中等度鈍麻であった。関節可動域(ROM)は,下腿三頭筋の筋緊張亢進による足関節背屈制限を認めた。足関節に対する振動刺激では運動錯覚を生じた。VIM課題は,閉眼背臥位で膝関節軽度屈曲位にて左下腿三頭筋腱に振動刺激装置(YSM-21山善)を用いて,87.2Hzの振動刺激を実施した。「安静10秒・課題10秒」を1セットとし,1日10セットを2週間実施した。課題前後の運動機能評価には,足関節底背屈Modified Ashworth scale(MAS),膝関節軽度屈曲位での自動運動による足関節背屈のROM,10m歩行最大速度を用いた。MIの評価は,主観的評価であるKVIQの視覚イメージ(VI)と運動感覚イメージ(KI)を用いた。また,高橋ら(2009)の報告を基に,EEGを用いて足のMI時におけるCz領域でのβ波(13-30Hz)帯域を計測し,MIの鮮明度の評価の手段とした。EEGのプロトコルは「安静5秒,左足関節を背屈している映像に合わせてのMIを5秒,安静5秒」を1セッションとし,10セッションを計3セット実施した。測定は,脳波計(EEG-1200日本光電)を使用し,国際10-20法に基づき,19chをサンプリング周波数500Hzにて導出した。また,MI中の筋活動をモニターしておくために,前脛骨筋から表面筋電図を同時に記録し,筋活動の有無を確認した。EEGの解析には,ATAMAPII(キッセイコムテック)を用いて,運動野の足領域付近であるCz領域からβ波帯域を周波数解析し,安静時に対するMI時の減衰率を求めた。
【結果】
VIM課題後の運動機能は,MASが2から1+,ROMが-20°から-2°と改善を認め,10m歩行においても9.12秒から7.85秒と向上を認めた。MI評価では,KVIQのVIが3.6から4.3,KIが1.3から4と向上し,EEGにおいてβ波が10.7から21.9へと減衰を認め,その際の筋活動は認めなかった。
【考察】
VIM課題を実施後,足関節の運動機能に改善を認め,MIの評価においてもKVIQのKIの向上や,EEGにて運動野の足領域付近であるCz領域でβ波の減衰を認めた。運動錯覚やMIでは,背外側運動前野(一次運動野吻側部を含む),補足運動野および小脳が賦活することが報告されており,本報告においても,振動刺激によって生じる運動錯覚で,MIの鮮明度が向上したことや運動関連領域の活動が高まったことにより運動機能の変化が生じたことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
今回,KIが低値であるCVA患者の足関節に対してVIM課題を実施することで,運動機能の改善に加え,KIの向上やEEGでβ波が減衰したことから,振動刺激による運動錯覚を利用することでMIの鮮明度の向上や運動関連領域の変化が起こることが示唆された。