第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法6

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-C-0280] 感覚の残存した部位から介入することで,感覚脱失と起立・歩行動作のパフォーマンスが改善した慢性期脳卒中右片麻痺患者の一症例

上田将吾 (認知神経リハビリテーション結ノ歩訪問看護ステーション)

Keywords:感覚脱失, 片麻痺, 歩行

【はじめに,目的】理学療法診療ガイドライン第1版(2011)にて,脳卒中に対する種々の理学療法介入とそのエビデンスが示されている。しかし感覚障害に対する介入の記載はなく,感覚障害に対する理学療法介入は未だ確立されていない。今回,右下肢の感覚脱失を呈した慢性期脳卒中右片麻痺症例に対し,感覚が残存した部位から知覚が可能な領域の拡大を意図した介入を実施した。結果,感覚障害の改善と起立および歩行動作のパフォーマンスに改善を認めたため,報告する。

【方法】対象は左被殻出血により右片麻痺を呈した60歳代男性。約6ヶ月間回復期病棟でのリハビリテーションを受け,発症後約7ヶ月時点で訪問リハビリテーションの介入を開始した。麻痺側Brunnstroms Recovery Stage(以下BRS)は上肢II,手指II,下肢IIであった。右足底および右下肢の表在感覚検査は10回法で0/10であり,脱失と判断した。体幹は,肩甲帯背面で5/10,臀部は0/10であった。起立動作は物的介助で可能も,物的介助なしでは困難であり,30秒椅子立ち上がりテスト(以下CS-30)は0回であった。自宅内移動はShoehorn Brace(以下SHB)およびSide Caneを使用し自立であった。Timed Up& Go Test(以下TUG)は77秒であった。
症例の肢位は端座位とし,右側身体に対する接触の有無を回答するよう求める訓練課題を実施した。接触する部位は肩甲帯から下肢へ少しずつ移動し,接触の有無はランダムとして,20回実施した。介入頻度は2回/週,60分/回であり,介入期間は2ヶ月間であった。

【結果】訓練課題にて,接触を開始する身体部位に関わらず,臀部・下肢から接触した場合も8/10で正答が可能となった。表在感覚検査では,右足底が5/10に変化した。右下肢のBRSがIIIに変化した。物的介助なしでの起立が可能となり,CS-30は7回であった。自宅内移動はSHB非着用での歩行が自立し,物的介助はSide CaneからQuad Caneに変更となった。TUGは53秒に変化した。

【考察】足底感覚へのアプローチの例として,足部のコンディショニング,足底からの情報に変化をつけるなどの方法が提唱されている(諸橋,2006)。しかし,このような足底に対する直接的な介入は,右下肢の感覚が脱失した本症例では実施が困難であると判断し,感覚が残存した肩甲帯からの介入を実施した。神経生理学的には,刺激への注意により体性感覚野の反応が大きくなることが示されている(Hamalainen,2000)。また,円盤に触れさせる課題を行った後,触れた身体部位に対応した体性感覚野領域が広がることが報告されている(Jenkins,1990)。今回実施した訓練課題では,右側身体への刺激に対する注意を要求した。このため体性感覚野にて,刺激した部位に対応した領域の反応の増大や,対応した体性感覚野領域が広がることにより,感覚が改善したと考えられる。片麻痺患者の感覚障害の多くは体性感覚を障害されることが多く,体性感覚が障害されると円滑でスムーズな運動は困難となるとされている(成田,2003)。本症例でも下肢の感覚改善に伴い起立・歩行動作のパフォーマンスが改善したことから,理学療法介入において感覚障害に対する治療介入が有効となる可能性が考えられる。その方法として,感覚脱失を呈した脳卒中片麻痺症例では,感覚が残存した部位から知覚が可能な領域の拡大を意図した介入が有効である可能性が示唆された。

【理学療法学研究としての意義】麻痺側体性感覚脱失に対する治療介入の1モデルと,起立・歩行動作のパフォーマンス向上のための感覚障害に対する介入の有用性の提案。