[P1-C-0316] 脳血管障害による片麻痺者の体脂肪率測定
キャリパーによる測定方法・部位の検討
Keywords:片麻痺, キャリパー法, 二重エネルギーX線吸収法
【はじめに,目的】
2008年から特定健診・特定保健指導が義務づけられ,生活習慣病の予防対策が行われるようになった。障害者においても健常者同様,体重・体脂肪率の測定および運動や食事の指導が必要である。理学療法士は個々の状態にあわせた運動指導を提供しなければならない。しかし,一般的に使用されている体脂肪率測定機器は裸足立位を必要とするものが多く,装具使用者や下肢切断者,立位困難者における測定は困難を極めている。
当センターでは,栄養サポートチームが中心となり,体脂肪率を考慮した栄養指導を行っている。指導の根拠となる体脂肪率測定は,上肢の把持のみで測定可能な機器を使用したり,皮下脂肪厚計(以下キャリパー)を用いて算出している。しかしながら,上肢に麻痺を有する片麻痺者では測定機器の把持が困難であること,先行研究から麻痺域に脂肪が多く分布する可能性があることにより,正確な測定ができているとは言い難い。
本研究の目的は,片麻痺者において,運動指導の根拠となる体脂肪率の測定方法を確立することである。
【方法】
対象は脳血管障害による片麻痺者20名である。右片麻痺者9名(男性9名,女性0名),左片麻痺者11名(男性9名,女性2名)である。装具を使用すれば起立・歩行が可能な者,車椅子を常用している者である。上下肢に麻痺を有し,一般的な体脂肪率測定機器が使用困難な者とした。
キャリパー法と二重エネルギーX線吸収法(Dual Energy X-ray Absorptiometry:DXA)を用いて,体脂肪率を計測した。キャリパー法による体脂肪率測定では,肩甲骨内側および上腕後面の皮下脂肪厚をキャリパーにて計測し,得られた値より長嶺と鈴木の式を用いて算出した。麻痺側・非麻痺側の両側を計測し,それぞれから体脂肪率を算出した。DXAによる体脂肪率測定は,背臥位にて計測し,白無地の下着と検査着を着用した。
麻痺側の皮下脂肪厚から算出された体脂肪率と非麻痺側の皮下脂肪厚から算出された体脂肪率を比較した。さらに,キャリパー法によって算出されるそれぞれの体脂肪率とDXAによって計測される体脂肪率を比較した。統計学的解析には対応のあるt検定を用いた。
【結果】
麻痺側の皮下脂肪厚から算出された体脂肪率と非麻痺側の皮下脂肪厚から算出された体脂肪率には有意差が認められた(p<0.05)。
麻痺側の皮下脂肪厚から算出された体脂肪率とDXAにて計測された体脂肪率には有意差が認められなかったが,非麻痺側の皮下脂肪厚から算出された体脂肪率とDXAにて計測された体脂肪率には有意差が認められた(p<0.05)。
【考察】
麻痺側・非麻痺側それぞれの皮下脂肪厚から算出された,体脂肪率に差異があり,非麻痺側に比べ麻痺側に多くの脂肪が分布していた。対麻痺者を対象とした先行研究では麻痺域に脂肪が分布しやすいと報告されており,片麻痺者においても同様の結果となった。
さらに麻痺側の皮下脂肪厚から算出された体脂肪率と,DXAにて計測された体脂肪率には有意差が認められなかったことから,麻痺側の皮下脂肪厚から算出された体脂肪率の値が真値に近いと考えられる。よって,キャリパー法にて体脂肪率を測定する場合は,麻痺側の皮下脂肪厚を用いることを推奨する。
キャリパー法は,キャリパー以外に特別な機器が必要なく,測定手技も容易である。片麻痺者などの上肢に麻痺を有するもの,立位が困難である車椅子使用者や装具使用者に対しても測定可能な方法である。臨床において,より正確な体脂肪率を測定し,運動指導および栄養指導に,用いるべきである。
なお,本研究に関わる一部の成果は,株式会社タニタによるタニタ健康体重基金の研究助成によるものである。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法は高齢者に対する転倒予防や介護予防事業に参加し,有効なサービス提供ができている。一方,障害者の予防分野については,経験則に頼らざる得ない現状がある。再発や新たな疾病の予防のために,簡易にかつ正確に体脂肪率を計測できる手法の確立が急務であり,障害者の予防分野での活動に不可欠なものであると考える。
2008年から特定健診・特定保健指導が義務づけられ,生活習慣病の予防対策が行われるようになった。障害者においても健常者同様,体重・体脂肪率の測定および運動や食事の指導が必要である。理学療法士は個々の状態にあわせた運動指導を提供しなければならない。しかし,一般的に使用されている体脂肪率測定機器は裸足立位を必要とするものが多く,装具使用者や下肢切断者,立位困難者における測定は困難を極めている。
当センターでは,栄養サポートチームが中心となり,体脂肪率を考慮した栄養指導を行っている。指導の根拠となる体脂肪率測定は,上肢の把持のみで測定可能な機器を使用したり,皮下脂肪厚計(以下キャリパー)を用いて算出している。しかしながら,上肢に麻痺を有する片麻痺者では測定機器の把持が困難であること,先行研究から麻痺域に脂肪が多く分布する可能性があることにより,正確な測定ができているとは言い難い。
本研究の目的は,片麻痺者において,運動指導の根拠となる体脂肪率の測定方法を確立することである。
【方法】
対象は脳血管障害による片麻痺者20名である。右片麻痺者9名(男性9名,女性0名),左片麻痺者11名(男性9名,女性2名)である。装具を使用すれば起立・歩行が可能な者,車椅子を常用している者である。上下肢に麻痺を有し,一般的な体脂肪率測定機器が使用困難な者とした。
キャリパー法と二重エネルギーX線吸収法(Dual Energy X-ray Absorptiometry:DXA)を用いて,体脂肪率を計測した。キャリパー法による体脂肪率測定では,肩甲骨内側および上腕後面の皮下脂肪厚をキャリパーにて計測し,得られた値より長嶺と鈴木の式を用いて算出した。麻痺側・非麻痺側の両側を計測し,それぞれから体脂肪率を算出した。DXAによる体脂肪率測定は,背臥位にて計測し,白無地の下着と検査着を着用した。
麻痺側の皮下脂肪厚から算出された体脂肪率と非麻痺側の皮下脂肪厚から算出された体脂肪率を比較した。さらに,キャリパー法によって算出されるそれぞれの体脂肪率とDXAによって計測される体脂肪率を比較した。統計学的解析には対応のあるt検定を用いた。
【結果】
麻痺側の皮下脂肪厚から算出された体脂肪率と非麻痺側の皮下脂肪厚から算出された体脂肪率には有意差が認められた(p<0.05)。
麻痺側の皮下脂肪厚から算出された体脂肪率とDXAにて計測された体脂肪率には有意差が認められなかったが,非麻痺側の皮下脂肪厚から算出された体脂肪率とDXAにて計測された体脂肪率には有意差が認められた(p<0.05)。
【考察】
麻痺側・非麻痺側それぞれの皮下脂肪厚から算出された,体脂肪率に差異があり,非麻痺側に比べ麻痺側に多くの脂肪が分布していた。対麻痺者を対象とした先行研究では麻痺域に脂肪が分布しやすいと報告されており,片麻痺者においても同様の結果となった。
さらに麻痺側の皮下脂肪厚から算出された体脂肪率と,DXAにて計測された体脂肪率には有意差が認められなかったことから,麻痺側の皮下脂肪厚から算出された体脂肪率の値が真値に近いと考えられる。よって,キャリパー法にて体脂肪率を測定する場合は,麻痺側の皮下脂肪厚を用いることを推奨する。
キャリパー法は,キャリパー以外に特別な機器が必要なく,測定手技も容易である。片麻痺者などの上肢に麻痺を有するもの,立位が困難である車椅子使用者や装具使用者に対しても測定可能な方法である。臨床において,より正確な体脂肪率を測定し,運動指導および栄養指導に,用いるべきである。
なお,本研究に関わる一部の成果は,株式会社タニタによるタニタ健康体重基金の研究助成によるものである。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法は高齢者に対する転倒予防や介護予防事業に参加し,有効なサービス提供ができている。一方,障害者の予防分野については,経験則に頼らざる得ない現状がある。再発や新たな疾病の予防のために,簡易にかつ正確に体脂肪率を計測できる手法の確立が急務であり,障害者の予防分野での活動に不可欠なものであると考える。