第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

地域理学療法5

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-C-0319] 痛み関連体性感覚ERPに及ぼす環境色の影響

梅木一平1, 田原聖也1, 加藤優志1, 秋山純一1, 橋本翠2, 小西賢三3 (1.吉備国際大学保健医療福祉学部理学療法学科, 2.広島大学大学院教育学研究科心理学講座, 3.吉備国際大学心理学部心理学科)

Keywords:主観的疼痛, 色彩環境, ERP

【はじめに,目的】
クリニカルパスにより目標に向け治療計画を立て主治医の指示から看護・作業療法士・言語聴覚士・薬剤師など多職種とのチーム医療を高めることや早期退院を促すなどできるとされている。しかし,疼痛による拒否が術後早期リハビリテーションを困難とさせており治療計画の遅延がみられる。そのため,何等かの簡単な方法で疼痛という主観的感覚を和らげることができれば,術後早期からのリハビリテーションや意欲も高まり,より高い効果も期待できる。主観的疼痛は,他に注意を逸らせることあるいは注意を逸らせるような課題を行うことで減弱することが知られている(Yamasakietal.2000;Sato and Ohnishi)。より簡単な環境設定で疼痛を減弱できれば,多くの領域での応用が期待できるが,そういった研究は見当たらない。心理的状態に影響を与えるものの一つとして色彩がある。本研究では,探索的研究として主観的疼痛における色彩環境効果を痛み関連体性感覚ERP(EventRelatedPotentils)を指標として調べることを目的とする。
【方法】
本実験の参加者は大学生11名(女性4名,年齢:M±SD=20.9±0.3)の健常者で行った。色彩環境として白,黄,緑,青,赤の5条件を設けた。これらは,色セロファン(白色は白無地ポリ袋紙)をゴーグルに貼り付けることにより設定した。透過光の明るさは光度計を用いて600~700luxに各色等しくした。疼痛刺激は右手根部正中神経上への電気刺激で行った。実験に先立ち,各参加者について疼痛を感じる閾値を測定しそれより3V高い強度を刺激として用いた。電気刺激は,提示時間200ms,提示間隔1000msで提示し,60刺激を1試行とした。ゴーグル装着後,参加者は上半身を覆う均等に照明された他の視覚的が入らない部屋内で全色につき各5試行ずつ実験を行った。実験色順は参加者内,参加者間でカウンターバランスした。各試行の前後に,SATI(SateTraitAnxietyInyentory)を用い状態不安度を,また各試行後にVASを測定した。脳波は国10-20法におけるC3,C4より両耳朶結合を基準に0.5~30Hzのバンドパスフィルターを用いて増幅,記録した。ERPは刺激提示前100msから400ms間を瞬き等による±80μV以上のアーチファクトのない試行を加算平均することにより算出した。
【結果】
各色彩条件における疼痛に統計的な有意差は見られなかったが,赤色条件において最も疼痛は弱かった。各試行前後における状態不安得点の変化量(試行後-試行前)では有意差は赤色と白色間(P<.05)のみであったが赤色環境条件で最も不安が上昇した。疼痛刺激に対するC3,C4導出における総平均ERP波形では刺激後100ms以降にP180,N250,P280成分が観察された。色彩条件差の顕著に現れているP180成分を含む,潜時165ms~195msの区間平均電位について色条件(5)×電極位置(2)の2要因の分散分析を行った。その結果,色条件と電極位置関係に交互作用の有意傾向が認められた(P<.06)。下位検定の結果,C4導出において赤色条件と黄色・青色条件の間で有意差がみられた(各々P<.01,P<.05)だけであったが,赤色環境におけるものが最大であった。
【考察】
主観的評定の結果,赤色環境は不安を増大させ,疼痛を減弱させた。これは,状況が不安であるために注意が環境に向けられ,疼痛刺激から注意を逸らされたためとも考えられる。そうした疼痛がERPのP180成分の性質を明確にし,疼痛との関連を詳細に知る事により,その主観的疼痛の指標としての応用が期待できる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果,主観的疼痛における色彩環境効果が痛み関連体性感覚ERPの間に関係性がみられた。赤色環境は不安を増大させ環境への注意を増大させることで注意が刺激から逸らされ疼痛が減弱していることを示唆している。色彩環境による視覚的刺激により術後早期からのリハビリテーションや意欲も高まりより高い効果ができる一助になると考える。