第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

地域理学療法5

Fri. Jun 5, 2015 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-C-0322] 振動刺激による膝関節屈筋群の過剰な筋収縮軽減効果とその意義

関節可動域制限を予防する取り組みの一環として

宿野真嗣, 小倉正基, 髙野裕子, 阿部光, 福田卓民 (医療法人社団慶成会青梅慶友病院リハビリテーション室)

Keywords:振動刺激, 過剰な筋収縮, 関節可動域制限

【はじめに,目的】リハビリテーションの対象となる障害高齢者では関節可動域制限を呈している症例は珍しくなく,生活自立度が低いほどそれが顕著であるとの報告がされている。関節可動域制限の病態は軟部組織の器質的変化と過剰な筋収縮が混在した状態といわれており,そのことは治療をおこなう上で過剰な筋収縮を取り除かない限り関節可動域制限に対する効果的な介入が困難であることを意味する。過剰な筋収縮に対しては伸張や他動運動,温熱や振動刺激法についての先行研究が多数あり,その中では振動刺激法の効果についても報告されているが,実際の臨床場面からの報告はほとんどない。そこで今回,関節可動域制限が重篤な障害高齢者に対して振動刺激による過剰な筋収縮の軽減を目的とした取り組みを行ったので報告する。
【方法】対象は2014年8月から2014年10月の間当院に在院し,振動刺激実施前のModified Ashworth Scale(以下:MAS)が2以上,膝関節伸展可動域が-30°以上の患者12名(男性1名,女性11名)とした。対象者の平均年齢は87.0±8.0歳,平均在院期間は4.2±3.6年であった。振動刺激装置にはHandy vibe(大東電気工業株式会社製)を使用し,2014年8月18日から10月11日の8週間,週5回実施した。方法は背臥位にて内側ハムストリングス筋腹にHandy vibe先端を接地させ76.6Hzの刺激量で1分間持続的に刺激を負荷した。その際,対象者の皮膚を傷つけるなど受傷事故を予防するため衣服上から行ない,施行後は必ず接地部位の皮膚の確認を行った。そして,評価は膝関節屈筋群MASと膝関節伸展可動域を週1回測定した。なお,関節可動域測定にはゴニオメーターを使用し背臥位にて行った。統計処理はFriedman検定を用い有意水準は1%未満とした。また,統計処理上,MAS0=0,MAS1=1,MAS1+=2,MAS2=3,MAS3=4,MAS4=5とMASの値を置き換えた。
【結果】1・2・3・4・5・6・7・8週における膝関節屈筋群MASの平均値は2.5,2.4,2.2,2.0,2.0,2.4,2.4,2.2となり,1週目と8週目の差は0.3で有意差(P<0.01)が認められた。膝関節伸展可動域の平均値は同様に-49.4±18.3°,-44.2±22.2°,-43.8±22.6°,-42.9±22.1°,-42.1±22.0°,-43.1±22.1°,-41.7±22.7°,-41.7±22.3°となり,1週目と8週目の差は7.7°であり有意差(P<0.01)が認められた。
【考察】今回の取り組みでは,振動刺激により筋収縮が軽減し,期間を通して平均7.7°の膝関節伸展可動域の改善が認められた。このことは,先行研究で述べられている過剰な筋収縮に対する振動刺激の有効性を裏付ける結果と捉えることができる。ランクCの高齢者において過剰な筋収縮を軽減することは,単に関節可動域制限の予防や能力向上のためだけではなく,日常ケアにおいて介護する側の負担を軽減し,限られた活動機会を可能な限り保つための一助になると思われ,それは生活の質の向上に直接的に影響するものであると考えられる。今回,一連の対応の中で,開始直後から明らかな筋収縮の軽減が認められそれが維持された例や,MASの変化は認められないものの関節の他動運動が容易になった例などを実感することができた。また,実施中における検討では,対象者を拡大した時にどのように対応するか,日常生活にどのように還元するかなどの課題も明らかになり,今後はそれらを反映した実施を検討したいと考える。
【理学療法学研究としての意義】障害高齢者の関節可動域制限の予防は超高齢社会・多死社会を向かえるわが国には必要不可欠であると考える。その主要因といわれる過剰な筋収縮に焦点をあてた取り組みは重要であると考えられ,その一つの方法として振動刺激の効果を検証することは理学療法として意義あるものと思われる。