[P1-C-0325] 認知症高齢者に対するボール拾い課題の認知・前頭葉・注意機能に対する効果
3症例による検討
キーワード:認知機能, 前頭葉機能, ボール拾い課題
【はじめに,目的】
高齢社会を迎え,認知症者が400万人・軽度認知症者が820万人を超えており,65歳以上の4人に1人が何らかの認知機能低下をきたしているとされている。認知症予防や認知症治療は重要度の高いテーマではないかと考えられる。また,我々理学療法士がメインとする運動学習における学習効率にも認知機能や前頭葉機能は大きく関与している。そこで,今回は特に運動学習の入口として重要な認知機能,前頭葉機能,注意機能に焦点を当て,それらの機能の向上を目的としたボール拾い課題を実施した。その結果,若干の知見を得たので考察を交えて報告する。
【方法】
対象者は次の3症例である
症例1:76歳,女性,脳梗塞,アルツハイマー型認知症(AD),独歩監視,他のサービス利用なし
症例2:84歳,男性,慢性心不全,AD,独歩監視,他のサービスの利用なし
症例3:94歳,女性,左大腿骨転子部骨折後,AD,T字杖歩行監視,他のサービス利用なし理学療法介入後2ヶ月間は70m程度(ボール拾い課題で歩行するであろう距離)の歩行を含む通常の理学療法を実施する。介入後2ヶ月経過後から70mの歩行練習をボール拾い課題に置き換えて実施した。
ボール拾い課題は験者がリハ室内にランダムな順で4色のカラーボールを置き,被験者にはボールの置かれた場所と順番を記憶してもらう。次に被験者には置かれた色の順番を言語化し口に出して確認する。最後にリハ室内に置かれたカラーボールを記憶した順番に拾い歩いてもらうというものである。実施頻度は一回につき3セット,外来時の週2回実施した。
また,認知機能・前頭葉機能・注意機能は理学療法介入直後,2ヶ月後,ボール拾い課題介入後1ヶ月おきにそれぞれMini Mental State Examination(MMSE)・Frontal Assessment Battery(FAB)・Trail Making Test part A(TMT-A)で評価した。
【結果】
症例1:PT介入前MMSE 21点,FAB 5点,TMT-A 408秒,PT介入後2ヶ月MMSE 21点,FAB 5点,TMT-A 546秒,課題介入後1ヶ月MMSE 22点,FAB 8点,TMT-A 347秒,課題介入後2ヶ月MMSE 23点,FAB 13点,TMT-A 430秒,課題介入後3ヶ月MMSE 25点,FAB 14点,TMT-A 516秒。
症例2:PT介入前MMSE 26点,FAB 11点,TMT-A 1054秒,PT介入後2ヶ月MMSE 24点,FAB 13点,TMT-A 1045秒,課題介入後1ヶ月MMSE 30点,FAB 12点,TMT-A 723秒,課題介入後2ヶ月MMSE 30点,FAB 15点,TMT-A 825秒。
症例3:PT介入前MMSE 17点,FAB 11点,TMT-A 473秒,PT介入後2ヶ月MMSE 19点,FAB 11点,TMT-A 433秒,課題介入後1ヶ月MMSE 21点,FAB 13点,TMT-A 501秒,課題介入後2ヶ月MMSE 25点,FAB 13点,TMT-A 325秒。
症例全てにおいてMMSE,FABの大きな改善がみられた。しかし,今回の結果ではTMT-Aに関しては遂行時間が速くなったり,遅くなったりと結果が一定せず,効果の有無の検討が困難であった。
【考察】
先行研究では,Medinghy(2000)やR N Hensonら(2000)は空間的なワーキングメモリーには背内側前頭前野が音因性のワーキングメモリーには下前頭回が関与するとしている。また,Koechilinら(1999)は二重課題での歩行は背外側前頭前野を中心としたワーキングメモリーが関与するとしている。今回実施したボール拾い課題では,第一にボールを置く順番を目で追ってもらうことで,空間的なワーキングメモリーが活用されるのではないかと考え,第二に色の順番を言語化することで,ワーキングメモリーの音韻ループを活用すると同時に陳述記憶化することができるのではないかと考えた。そして最後に,認知処理をしながら歩行してもらうことで二重課題歩行を促している。これらのことから,ボール拾い課題には広範囲な前頭前野を中心とするワーキングメモリーと海馬を中心とする陳述記憶の要素を含んでいると考えている。MMSEは通常3点以上の変化を有意な変化と捉え,FABのカットオフ値は長船ら(2014)によれば11点である。そのことを考えればボール拾い課題には認知機能・前頭葉機能を症例によっては,一時的に上げる効果が示された。
今後の課題としては,症例数を増やし信頼性のあるデータを蓄積し,対象となる症例を定めていく必要があると考える。また効果の持続期間についてもみていく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
認知機能,前頭葉機能は運動学習理論における入口の重要な部分を占めている。これらの機能を向上させることで,よりスムーズな運動学習がなされる可能性がある。その点で意義がある。
高齢社会を迎え,認知症者が400万人・軽度認知症者が820万人を超えており,65歳以上の4人に1人が何らかの認知機能低下をきたしているとされている。認知症予防や認知症治療は重要度の高いテーマではないかと考えられる。また,我々理学療法士がメインとする運動学習における学習効率にも認知機能や前頭葉機能は大きく関与している。そこで,今回は特に運動学習の入口として重要な認知機能,前頭葉機能,注意機能に焦点を当て,それらの機能の向上を目的としたボール拾い課題を実施した。その結果,若干の知見を得たので考察を交えて報告する。
【方法】
対象者は次の3症例である
症例1:76歳,女性,脳梗塞,アルツハイマー型認知症(AD),独歩監視,他のサービス利用なし
症例2:84歳,男性,慢性心不全,AD,独歩監視,他のサービスの利用なし
症例3:94歳,女性,左大腿骨転子部骨折後,AD,T字杖歩行監視,他のサービス利用なし理学療法介入後2ヶ月間は70m程度(ボール拾い課題で歩行するであろう距離)の歩行を含む通常の理学療法を実施する。介入後2ヶ月経過後から70mの歩行練習をボール拾い課題に置き換えて実施した。
ボール拾い課題は験者がリハ室内にランダムな順で4色のカラーボールを置き,被験者にはボールの置かれた場所と順番を記憶してもらう。次に被験者には置かれた色の順番を言語化し口に出して確認する。最後にリハ室内に置かれたカラーボールを記憶した順番に拾い歩いてもらうというものである。実施頻度は一回につき3セット,外来時の週2回実施した。
また,認知機能・前頭葉機能・注意機能は理学療法介入直後,2ヶ月後,ボール拾い課題介入後1ヶ月おきにそれぞれMini Mental State Examination(MMSE)・Frontal Assessment Battery(FAB)・Trail Making Test part A(TMT-A)で評価した。
【結果】
症例1:PT介入前MMSE 21点,FAB 5点,TMT-A 408秒,PT介入後2ヶ月MMSE 21点,FAB 5点,TMT-A 546秒,課題介入後1ヶ月MMSE 22点,FAB 8点,TMT-A 347秒,課題介入後2ヶ月MMSE 23点,FAB 13点,TMT-A 430秒,課題介入後3ヶ月MMSE 25点,FAB 14点,TMT-A 516秒。
症例2:PT介入前MMSE 26点,FAB 11点,TMT-A 1054秒,PT介入後2ヶ月MMSE 24点,FAB 13点,TMT-A 1045秒,課題介入後1ヶ月MMSE 30点,FAB 12点,TMT-A 723秒,課題介入後2ヶ月MMSE 30点,FAB 15点,TMT-A 825秒。
症例3:PT介入前MMSE 17点,FAB 11点,TMT-A 473秒,PT介入後2ヶ月MMSE 19点,FAB 11点,TMT-A 433秒,課題介入後1ヶ月MMSE 21点,FAB 13点,TMT-A 501秒,課題介入後2ヶ月MMSE 25点,FAB 13点,TMT-A 325秒。
症例全てにおいてMMSE,FABの大きな改善がみられた。しかし,今回の結果ではTMT-Aに関しては遂行時間が速くなったり,遅くなったりと結果が一定せず,効果の有無の検討が困難であった。
【考察】
先行研究では,Medinghy(2000)やR N Hensonら(2000)は空間的なワーキングメモリーには背内側前頭前野が音因性のワーキングメモリーには下前頭回が関与するとしている。また,Koechilinら(1999)は二重課題での歩行は背外側前頭前野を中心としたワーキングメモリーが関与するとしている。今回実施したボール拾い課題では,第一にボールを置く順番を目で追ってもらうことで,空間的なワーキングメモリーが活用されるのではないかと考え,第二に色の順番を言語化することで,ワーキングメモリーの音韻ループを活用すると同時に陳述記憶化することができるのではないかと考えた。そして最後に,認知処理をしながら歩行してもらうことで二重課題歩行を促している。これらのことから,ボール拾い課題には広範囲な前頭前野を中心とするワーキングメモリーと海馬を中心とする陳述記憶の要素を含んでいると考えている。MMSEは通常3点以上の変化を有意な変化と捉え,FABのカットオフ値は長船ら(2014)によれば11点である。そのことを考えればボール拾い課題には認知機能・前頭葉機能を症例によっては,一時的に上げる効果が示された。
今後の課題としては,症例数を増やし信頼性のあるデータを蓄積し,対象となる症例を定めていく必要があると考える。また効果の持続期間についてもみていく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
認知機能,前頭葉機能は運動学習理論における入口の重要な部分を占めている。これらの機能を向上させることで,よりスムーズな運動学習がなされる可能性がある。その点で意義がある。