[P1-C-0331] 下部胸郭呼吸介助法による換気力学的変化
Keywords:呼吸介助, 胸腔内圧, 換気
【はじめに,目的】
呼吸介助法は,いくつかの生理学的効果が報告されているが,一方で過剰な圧による弊害も指摘されている。特に我々は側臥位に比べ,仰臥位でpressure-volume loop(P-V loop)上の気道虚脱の所見であるlower inflection point(LIP)が生じやすいことを報告している。しかし,LIPの出現要因や呼吸介助法の換気力学的なメカニズムに関しては明らかではない。
我々は仰臥位での呼吸介助法でLIPが出現しやすい理由を,側臥位に比べ仰臥位での呼吸介助法では,①術者が胸郭に加える圧が強く,胸腔内圧がより陽圧になりやすいのではないか,もしくは②胸郭に加える圧が胸腔内圧に反映されやすいのではないか,と考えた。本研究の目的は,この二つの仮説を検証することとした。
【方法】
対象は術者を男性理学療法士1名(年齢31歳,呼吸理学療法の経験年数9年),被術者を健常男性5名(年齢34±8歳)とした。
測定は仰臥位,左右側臥位にて下部胸郭呼吸介助法を実施した。いずれも十分な安静(安静時)の後,呼吸介助を2分(介助時)行った。胸腔内圧・腹腔内圧は,食道内圧(Pes)・胃内圧(Pga)を指標とし,トランスデューサー(チェスト社製)を用いて,食道バルーン法(外径2.5mm,内径1.5mmのポリエチレンチューブに長さ12cmのバルーンを付けたものを使用)にて測定し,流量変化は呼気ガス分析器(ミナト医科学社製AE300-S)を用いて測定した。データはサンプリング周波数100HzでPCに取り込み,安静時,介助時ともにTV,呼吸数(RR)の安定した3呼吸を抽出し,1呼吸中の呼気終末Pes,呼気終末Pga,TV,RRを求めた。術者が被術者の胸郭に加える圧(手掌面圧)は被術者の胸郭にシートセンサ(XSENSOR社製X3PX100)を置き測定した。経時的な手掌面圧変化はサンプリング周波数10Hzで面圧解析ソフト(XSENSOR社製X3Medical5.0)に取り込み,呼気終末Pes,呼気終末Pga等を算出した同呼吸時の手掌面圧の最大値と最小値の差(Δ手掌面圧)を求めた。各施行での呼気終末Pes,呼気終末Pgaの安静時と介助時の差(Δ呼気終末Pes,Δ呼気終末Pga)を算出し,Δ手掌面圧に対する割合(Δ呼気終末Pes/Δ手掌面圧,Δ呼気終末Pga/Δ手掌面圧)を求めた。また抽出部の流量変化とPesのデータから,P-V loopを作成し,LIPの有無について視覚的に確認した。
統計方法は測定項目に対し,各施行間に違いがあるかどうかについて分散分析を用いた後,多重比較法を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
安静時に比べ介助時でTVは有意に増加し,RRは有意に減少したが,各施行間においては有意差を認めなかった。
介助時の手掌面圧の最大値は,仰臥位(157±10cmH2O)に比べ,左右側臥位(185±18 cmH2O,198±7 cmH2O)で有意に高値を示した。しかし,介助時の呼気終末Pesは仰臥位(6.3±4.1 cmH2O)に比べ左右側臥位(-1.9±1.0 cmH2O,-2.8±0.2 cmH2O)で有意に低値を示した。また安静時の呼気終末Pesは仰臥位(2.5±3.2 cmH2O)に比べ左右側臥位(-3.8±0.1 cmH2O,-4.1±0.8 cmH2O)で有意に低値を示した。さらに,Δ呼気終末Pes/Δ手掌面圧は仰臥位(4.6±1.5%)に比べ,左右側臥位(1.5±1.0%,1.4±1.0%)で有意に低く,Δ呼気終末Pga/Δ手掌面圧においても同様に仰臥位(13.5±6.6%)に比べ,左右側臥位(3.4±0.7%,4.4±1.1%)で有意に低い値を示した。P-V loopでは,仰臥位で全例,左側臥位で1例,右側臥位で2例においてLIPを認めた。
【考察】
今回,呼吸介助法で術者が被術者の胸郭に加える圧は,仰臥位に比べ左右側臥位で強いことがわかった。しかし,介助時の呼気終末Pesは側臥位に比べ仰臥位で高い値を示し,より高い陽圧となっていた。また,Δ手掌面圧に対するΔ呼気終末Pes,Δ呼気終末Pgaは左右側臥位に比較し仰臥位で高い値を示した。さらにP-V loopにおいても仰臥位でLIP出現例を多く認めた。すなわち,左右側臥位に比べ仰臥位では,手掌面圧の強さが胸腔内圧や腹腔内圧に反映されやすく,胸腔内の陽圧化に伴う気道虚脱を引き起こす可能性も高いことがわかった。そのため,仰臥位での介助時には胸郭に加える圧に十分注意する必要があると考えられる。要因として,仰臥位に比べ側臥位では,肋骨に囲まれていない腹壁が側方を向くため,腹部が拡張しやすく,加えた圧が腹壁の前方移動にも作用し,腹圧が上昇しにくい状態にあることが考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
呼吸介助法によって実際に起こっている換気力学的な変化を理解し,より適切な呼吸介助法を検討する上で有用である。
呼吸介助法は,いくつかの生理学的効果が報告されているが,一方で過剰な圧による弊害も指摘されている。特に我々は側臥位に比べ,仰臥位でpressure-volume loop(P-V loop)上の気道虚脱の所見であるlower inflection point(LIP)が生じやすいことを報告している。しかし,LIPの出現要因や呼吸介助法の換気力学的なメカニズムに関しては明らかではない。
我々は仰臥位での呼吸介助法でLIPが出現しやすい理由を,側臥位に比べ仰臥位での呼吸介助法では,①術者が胸郭に加える圧が強く,胸腔内圧がより陽圧になりやすいのではないか,もしくは②胸郭に加える圧が胸腔内圧に反映されやすいのではないか,と考えた。本研究の目的は,この二つの仮説を検証することとした。
【方法】
対象は術者を男性理学療法士1名(年齢31歳,呼吸理学療法の経験年数9年),被術者を健常男性5名(年齢34±8歳)とした。
測定は仰臥位,左右側臥位にて下部胸郭呼吸介助法を実施した。いずれも十分な安静(安静時)の後,呼吸介助を2分(介助時)行った。胸腔内圧・腹腔内圧は,食道内圧(Pes)・胃内圧(Pga)を指標とし,トランスデューサー(チェスト社製)を用いて,食道バルーン法(外径2.5mm,内径1.5mmのポリエチレンチューブに長さ12cmのバルーンを付けたものを使用)にて測定し,流量変化は呼気ガス分析器(ミナト医科学社製AE300-S)を用いて測定した。データはサンプリング周波数100HzでPCに取り込み,安静時,介助時ともにTV,呼吸数(RR)の安定した3呼吸を抽出し,1呼吸中の呼気終末Pes,呼気終末Pga,TV,RRを求めた。術者が被術者の胸郭に加える圧(手掌面圧)は被術者の胸郭にシートセンサ(XSENSOR社製X3PX100)を置き測定した。経時的な手掌面圧変化はサンプリング周波数10Hzで面圧解析ソフト(XSENSOR社製X3Medical5.0)に取り込み,呼気終末Pes,呼気終末Pga等を算出した同呼吸時の手掌面圧の最大値と最小値の差(Δ手掌面圧)を求めた。各施行での呼気終末Pes,呼気終末Pgaの安静時と介助時の差(Δ呼気終末Pes,Δ呼気終末Pga)を算出し,Δ手掌面圧に対する割合(Δ呼気終末Pes/Δ手掌面圧,Δ呼気終末Pga/Δ手掌面圧)を求めた。また抽出部の流量変化とPesのデータから,P-V loopを作成し,LIPの有無について視覚的に確認した。
統計方法は測定項目に対し,各施行間に違いがあるかどうかについて分散分析を用いた後,多重比較法を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
安静時に比べ介助時でTVは有意に増加し,RRは有意に減少したが,各施行間においては有意差を認めなかった。
介助時の手掌面圧の最大値は,仰臥位(157±10cmH2O)に比べ,左右側臥位(185±18 cmH2O,198±7 cmH2O)で有意に高値を示した。しかし,介助時の呼気終末Pesは仰臥位(6.3±4.1 cmH2O)に比べ左右側臥位(-1.9±1.0 cmH2O,-2.8±0.2 cmH2O)で有意に低値を示した。また安静時の呼気終末Pesは仰臥位(2.5±3.2 cmH2O)に比べ左右側臥位(-3.8±0.1 cmH2O,-4.1±0.8 cmH2O)で有意に低値を示した。さらに,Δ呼気終末Pes/Δ手掌面圧は仰臥位(4.6±1.5%)に比べ,左右側臥位(1.5±1.0%,1.4±1.0%)で有意に低く,Δ呼気終末Pga/Δ手掌面圧においても同様に仰臥位(13.5±6.6%)に比べ,左右側臥位(3.4±0.7%,4.4±1.1%)で有意に低い値を示した。P-V loopでは,仰臥位で全例,左側臥位で1例,右側臥位で2例においてLIPを認めた。
【考察】
今回,呼吸介助法で術者が被術者の胸郭に加える圧は,仰臥位に比べ左右側臥位で強いことがわかった。しかし,介助時の呼気終末Pesは側臥位に比べ仰臥位で高い値を示し,より高い陽圧となっていた。また,Δ手掌面圧に対するΔ呼気終末Pes,Δ呼気終末Pgaは左右側臥位に比較し仰臥位で高い値を示した。さらにP-V loopにおいても仰臥位でLIP出現例を多く認めた。すなわち,左右側臥位に比べ仰臥位では,手掌面圧の強さが胸腔内圧や腹腔内圧に反映されやすく,胸腔内の陽圧化に伴う気道虚脱を引き起こす可能性も高いことがわかった。そのため,仰臥位での介助時には胸郭に加える圧に十分注意する必要があると考えられる。要因として,仰臥位に比べ側臥位では,肋骨に囲まれていない腹壁が側方を向くため,腹部が拡張しやすく,加えた圧が腹壁の前方移動にも作用し,腹圧が上昇しにくい状態にあることが考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
呼吸介助法によって実際に起こっている換気力学的な変化を理解し,より適切な呼吸介助法を検討する上で有用である。