[P1-C-0352] 臨床実習に対する到達目標の設定の仕方が特性的自己効力感や自尊感情におよぼす影響
キーワード:臨床実習, 解決志向アプローチ, リフレクション
【はじめに,目的】
臨床実習において養成校教員が関わる時間や方法は限られており,巡回指導や実習後の振り返りが十分なリフレクションとなっているか疑問を感じた。そこで心理学の手法として用いられているブリーフセラピーの解決志向アプローチ(Solution-Focused Approach:以下SFA)をアンケートにて調査し,ポートフォリオ化することで学生の特性的自己効力感(以下GSE)や自尊感情尺度(以下SE)がどのように影響を与え,臨床実習の成果(学び)についての検討を本研究の目的とした。
【方法】
本校理学療法学科最終学年38名を対象に,実習前(4月),臨床実習I終了後(6月),臨床実習II終了後(8月)の計3回,SFAを基にした記述式アンケートを実施した。同時期にGSEと自尊感情尺度を調査し,比較・検討を行った。また,目標設定のスケーリングにおける目標達成上位群と下位群に群分けし,SFAの観点から質的に検討を行った。
【結果】
1)10点法における目標値推移
目標値平均及び標準偏差は4月が2.55±1.52,6月が4.78±1.62,8月が5.49±2.23となった。一元配置分散分析の結果,主効果が認められた(p<0.0001)。さらに,Bonferroniの方法で多重比較検定を行った結果,4月と6月,4月と8月において1%水準での有意差が認められ,6月と8月では5%水準での有意差が認められた。
2)①臨床実習I終了後の目標値の変化(6月-4月)と6月GSE,②臨床実習II終了後の目標値の変化(8月-4月)と8月GSEの相関関係
①では相関係数r=0.102261,危険率p=0.5412,②では相関係数r=0.312948,危険率p=0.05579といずれも5%水準において相関関係は認められなかった。なお,臨床実習IIにおいて実習中止が2名出たため,②では2名を除外した。
3)①臨床実習I終了後の目標値の変化(6月-4月)と6月SE,②臨床実習II終了後の目標値の変化(8月-4月)と8月SEの相関関係
①では相関係数r=0.086756,危険率p=0.6045,②では相関係数r=0.124911,危険率p=0.4549といずれも5%水準において相関関係は認められなかった。なお,臨床実習IIにおいて実習中止が2名出たため,②では2名を除外した。
4)目標値が初期と最終で大きく変化した上位6名の群(以下上位群)と変化のみられなかった下位6名の群(以下下位群)における事例検討
上位群においては目標値,GSE,SE,実習成績の項目において目標値と実習成績に変化が見られた。下位群では全ての項目で変化が乏しい結果となった。
【考察】
本研究では,臨床実習場面における到達目標設定に介入することにより,GSEやSEにどう影響を及ぼし,実習場面で困難に直面する学生への支援方法としてSFAの質問技法を検討した。
結果として,GSE,SEと目標値の向上に相関はみられなかった。詳細には,4月・6月間での達成感からくる目標値に対し,GSE,SEの向上が見られず,6月・8月間では目標値,GSE,SE全てにおいてわずかな上昇率に留まっている。これは,①自己の能力評価と「臨床実習指導者・養成校教員・患者」などからなる他者の評価に乖離がみられる②達成確率と課題の判別性が十分でないこと③自己の能力に関する先行知識の不確実度によって目標設定が曖昧になってしまうことなどが挙げられる。
理学療法分野における臨床実習の目標には情意領域,精神運動領域,認知領域が混在している。しかし学生は経験不足とマンツーマンでの指導に対する極度の緊張で具体的な目標を定めることが出来ない場合が多い。この事に対してSFAの手法,特にスケーリングと例外探し,ミラクル・クエスチョンを使用しての質問技法が個人目標値を向上させた上位群においては有効であることを示した。臨床実習のような学生にとっては長い期間であるが,2ヶ月の間に1度の訪問で,後は電話やメールによってしか対応できない。
上記の有効性によって学生の支援ツールの一つとしてSFAによる面接やポートフォリオの使用は解決の手がかりとなると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
「経験はしっかりと内省してはじめて学習になる」という考え方がリフレクションであり,経験の浅い学生にはとても重要であるということは自明の理である。学生にとって臨床実習が有効な学習になるための支援ツールとして,SFAを基にした目標設定が必要ではないかと考える。
臨床実習において養成校教員が関わる時間や方法は限られており,巡回指導や実習後の振り返りが十分なリフレクションとなっているか疑問を感じた。そこで心理学の手法として用いられているブリーフセラピーの解決志向アプローチ(Solution-Focused Approach:以下SFA)をアンケートにて調査し,ポートフォリオ化することで学生の特性的自己効力感(以下GSE)や自尊感情尺度(以下SE)がどのように影響を与え,臨床実習の成果(学び)についての検討を本研究の目的とした。
【方法】
本校理学療法学科最終学年38名を対象に,実習前(4月),臨床実習I終了後(6月),臨床実習II終了後(8月)の計3回,SFAを基にした記述式アンケートを実施した。同時期にGSEと自尊感情尺度を調査し,比較・検討を行った。また,目標設定のスケーリングにおける目標達成上位群と下位群に群分けし,SFAの観点から質的に検討を行った。
【結果】
1)10点法における目標値推移
目標値平均及び標準偏差は4月が2.55±1.52,6月が4.78±1.62,8月が5.49±2.23となった。一元配置分散分析の結果,主効果が認められた(p<0.0001)。さらに,Bonferroniの方法で多重比較検定を行った結果,4月と6月,4月と8月において1%水準での有意差が認められ,6月と8月では5%水準での有意差が認められた。
2)①臨床実習I終了後の目標値の変化(6月-4月)と6月GSE,②臨床実習II終了後の目標値の変化(8月-4月)と8月GSEの相関関係
①では相関係数r=0.102261,危険率p=0.5412,②では相関係数r=0.312948,危険率p=0.05579といずれも5%水準において相関関係は認められなかった。なお,臨床実習IIにおいて実習中止が2名出たため,②では2名を除外した。
3)①臨床実習I終了後の目標値の変化(6月-4月)と6月SE,②臨床実習II終了後の目標値の変化(8月-4月)と8月SEの相関関係
①では相関係数r=0.086756,危険率p=0.6045,②では相関係数r=0.124911,危険率p=0.4549といずれも5%水準において相関関係は認められなかった。なお,臨床実習IIにおいて実習中止が2名出たため,②では2名を除外した。
4)目標値が初期と最終で大きく変化した上位6名の群(以下上位群)と変化のみられなかった下位6名の群(以下下位群)における事例検討
上位群においては目標値,GSE,SE,実習成績の項目において目標値と実習成績に変化が見られた。下位群では全ての項目で変化が乏しい結果となった。
【考察】
本研究では,臨床実習場面における到達目標設定に介入することにより,GSEやSEにどう影響を及ぼし,実習場面で困難に直面する学生への支援方法としてSFAの質問技法を検討した。
結果として,GSE,SEと目標値の向上に相関はみられなかった。詳細には,4月・6月間での達成感からくる目標値に対し,GSE,SEの向上が見られず,6月・8月間では目標値,GSE,SE全てにおいてわずかな上昇率に留まっている。これは,①自己の能力評価と「臨床実習指導者・養成校教員・患者」などからなる他者の評価に乖離がみられる②達成確率と課題の判別性が十分でないこと③自己の能力に関する先行知識の不確実度によって目標設定が曖昧になってしまうことなどが挙げられる。
理学療法分野における臨床実習の目標には情意領域,精神運動領域,認知領域が混在している。しかし学生は経験不足とマンツーマンでの指導に対する極度の緊張で具体的な目標を定めることが出来ない場合が多い。この事に対してSFAの手法,特にスケーリングと例外探し,ミラクル・クエスチョンを使用しての質問技法が個人目標値を向上させた上位群においては有効であることを示した。臨床実習のような学生にとっては長い期間であるが,2ヶ月の間に1度の訪問で,後は電話やメールによってしか対応できない。
上記の有効性によって学生の支援ツールの一つとしてSFAによる面接やポートフォリオの使用は解決の手がかりとなると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
「経験はしっかりと内省してはじめて学習になる」という考え方がリフレクションであり,経験の浅い学生にはとても重要であるということは自明の理である。学生にとって臨床実習が有効な学習になるための支援ツールとして,SFAを基にした目標設定が必要ではないかと考える。