[P2-A-0471] 経頭蓋直流電気刺激による最大等速性膝関節伸展筋力および筋出力制御能力の即時的効果
キーワード:経頭蓋直流電気刺激, 筋出力制御能力, 最大等速性膝関節伸展筋力
【はじめに,目的】
経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation;tDCS)は頭皮上に設置した電極から微弱な直流電流を一定時間流すことで,非侵襲的に皮質活動の興奮性を強化又は減衰する機器である。陽極を運動野直上の頭皮に設置するAnodal-tDCSは,刺激部位の神経活動の興奮性を高める事から皮質脊髄路の興奮性が高まる事が広く知られている。逆に運動野直上に陰極を設置するCathodal-tDCSは,脳の興奮性を抑えることができる。刺激開始1分前後で電流をOFFにするsham-tDCSでは,被験者に気づかれることなく刺激を行うことができ,研究に用いられる。近年,tDCSが運動パフォーマンスに与える効果が多く報告されてきているが,筋機能へ与える効果は十分明らかにされているとは言えない。また,運動学習の向上や,学習の維持にも有効であると報告されているが筋出力を制御する能力がtDCSにより変化するかは明らかではない。
そこで本研究では,運動野のAnodal-tDCSが,等速性膝関節伸展筋力および膝関節伸展筋の筋出力制御能力に及ぼす影響について検討し,若干の知見を得たので報告する。
【方法】
対象は整形外科疾患の既往のない健常男性6名(平均年齢25.5±6.7歳)とした。研究デザインは二重盲検法とし,Anodal-tDCSとSham-tDCSの2条件を無作為化し2日間に分けて実施した。tDCSはNeuroConn社製DC Stimulator Plusを用い,一次運動野の直上にanodal電極(25cm2)を右眼窩上にcathodal電極(25cm2)を設置した。刺激強度は1mAとし,Anodal-tDCS時には20分間刺激を継続し,Sham-tDCS時には刺激開始1分後に自動的に電流を停止させた。各試行間での学習効果の依存を避けるため1週間以上の間隔をあけた。tDCSの介入前,及び介入直後に最大等速性膝関節伸展筋力と,筋出力制御能力を評価した。最大等速性膝関節伸展筋力はBIODEX社製バイオデックスシステム4(以下Biodex)を用い,角速度60deg/sでの等速性筋力を3回実施し,最大トルクの体重比を算出した。一方,筋出力制御能力は設定された目標筋出力値に近い筋出力を制御する能力であり。今回は角速度60deg/sでの等速性求心収縮とし,20Nmを目標筋力値とした。先行研究(Hortobagyi T. et al, 2001)を参考に,目標値と実測値との差の絶対値を算出し,膝関節90°屈曲位から伸展0°までの範囲の平均値をForce accuracyとして算出した。測定前に5分間の練習期間を作り十分に方法の習熟ができたことを確認後,5回連続で測定を実施した。
最大等速性膝関節伸展筋力はanodal-tDCSあるいはsham-tDCS介入前後の平均値を対応のあるt-testを用いて比較した。さらにForce accuracyは,anodal-tDCSあるいはsham-tDCS介入前後の比率(=tDCS後のForce accuracy/tDCS前のForce accuracy)を算出し,群間でMannwhitenyのU-tesutを用いた。ともに有意水準を5%とした。
【結果】
最大等速性膝伸展筋力は,Sham-tDCSの直前2.71±0.56Nm/gから直後2.70±0.55Nm/kgと有意差は認めず,Anodal-tDCSにおいても直前2.93±0.65Nm/kgから直後2.99±0.63Nm/kgと有意差は認めなかった。一方,Sham-tDCSおよびAnodl-tDCS前後を比較しAnodal-tDCSでのForce accuracyはSham-tDCSを比較してAnodal-tDCS施行前後で改善を示した。
【考察】
本研究ではAnodal-tDCS後の最大等速性膝伸展筋力向上は認められなかった。Tanaka(2011)らは脳卒中症例においてtDCSにより即時的にダイナモメーターで計測した等尺性筋力が向上することを報告している。本研究ではBiodexを用いて評価を試みたが,明らかな変化は認められなかった。対象が健常者であったことや,対象者数が不十分であり,今後さらに検証していく必要があると思われた。一方で,筋出力制御能力に関してはSham-tDCS前後とAnodl-tDCS前後を比較しAnodal-tDCSでのForce accuracyはSham-tDCSを比較してAnodal-tDCSでは低下していた。一次運動野は学習の初期段階に関与していると考えられており,筋出力を制御するための運動学習が促進される可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
tDCSは大脳皮質の興奮性を簡便かつ安全に変えることができ,脳卒中をはじめとする多くの症例のリハビリテーションの効率を高めるために非常に有用な装置になり得ると考えられる。本研究では,健常人において筋出力を制御するとい学習が促進され,運動学習課題前にtDCSを実施しておくことで効率的なリハビリテーションを展開していく可能性が期待できる。
経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation;tDCS)は頭皮上に設置した電極から微弱な直流電流を一定時間流すことで,非侵襲的に皮質活動の興奮性を強化又は減衰する機器である。陽極を運動野直上の頭皮に設置するAnodal-tDCSは,刺激部位の神経活動の興奮性を高める事から皮質脊髄路の興奮性が高まる事が広く知られている。逆に運動野直上に陰極を設置するCathodal-tDCSは,脳の興奮性を抑えることができる。刺激開始1分前後で電流をOFFにするsham-tDCSでは,被験者に気づかれることなく刺激を行うことができ,研究に用いられる。近年,tDCSが運動パフォーマンスに与える効果が多く報告されてきているが,筋機能へ与える効果は十分明らかにされているとは言えない。また,運動学習の向上や,学習の維持にも有効であると報告されているが筋出力を制御する能力がtDCSにより変化するかは明らかではない。
そこで本研究では,運動野のAnodal-tDCSが,等速性膝関節伸展筋力および膝関節伸展筋の筋出力制御能力に及ぼす影響について検討し,若干の知見を得たので報告する。
【方法】
対象は整形外科疾患の既往のない健常男性6名(平均年齢25.5±6.7歳)とした。研究デザインは二重盲検法とし,Anodal-tDCSとSham-tDCSの2条件を無作為化し2日間に分けて実施した。tDCSはNeuroConn社製DC Stimulator Plusを用い,一次運動野の直上にanodal電極(25cm2)を右眼窩上にcathodal電極(25cm2)を設置した。刺激強度は1mAとし,Anodal-tDCS時には20分間刺激を継続し,Sham-tDCS時には刺激開始1分後に自動的に電流を停止させた。各試行間での学習効果の依存を避けるため1週間以上の間隔をあけた。tDCSの介入前,及び介入直後に最大等速性膝関節伸展筋力と,筋出力制御能力を評価した。最大等速性膝関節伸展筋力はBIODEX社製バイオデックスシステム4(以下Biodex)を用い,角速度60deg/sでの等速性筋力を3回実施し,最大トルクの体重比を算出した。一方,筋出力制御能力は設定された目標筋出力値に近い筋出力を制御する能力であり。今回は角速度60deg/sでの等速性求心収縮とし,20Nmを目標筋力値とした。先行研究(Hortobagyi T. et al, 2001)を参考に,目標値と実測値との差の絶対値を算出し,膝関節90°屈曲位から伸展0°までの範囲の平均値をForce accuracyとして算出した。測定前に5分間の練習期間を作り十分に方法の習熟ができたことを確認後,5回連続で測定を実施した。
最大等速性膝関節伸展筋力はanodal-tDCSあるいはsham-tDCS介入前後の平均値を対応のあるt-testを用いて比較した。さらにForce accuracyは,anodal-tDCSあるいはsham-tDCS介入前後の比率(=tDCS後のForce accuracy/tDCS前のForce accuracy)を算出し,群間でMannwhitenyのU-tesutを用いた。ともに有意水準を5%とした。
【結果】
最大等速性膝伸展筋力は,Sham-tDCSの直前2.71±0.56Nm/gから直後2.70±0.55Nm/kgと有意差は認めず,Anodal-tDCSにおいても直前2.93±0.65Nm/kgから直後2.99±0.63Nm/kgと有意差は認めなかった。一方,Sham-tDCSおよびAnodl-tDCS前後を比較しAnodal-tDCSでのForce accuracyはSham-tDCSを比較してAnodal-tDCS施行前後で改善を示した。
【考察】
本研究ではAnodal-tDCS後の最大等速性膝伸展筋力向上は認められなかった。Tanaka(2011)らは脳卒中症例においてtDCSにより即時的にダイナモメーターで計測した等尺性筋力が向上することを報告している。本研究ではBiodexを用いて評価を試みたが,明らかな変化は認められなかった。対象が健常者であったことや,対象者数が不十分であり,今後さらに検証していく必要があると思われた。一方で,筋出力制御能力に関してはSham-tDCS前後とAnodl-tDCS前後を比較しAnodal-tDCSでのForce accuracyはSham-tDCSを比較してAnodal-tDCSでは低下していた。一次運動野は学習の初期段階に関与していると考えられており,筋出力を制御するための運動学習が促進される可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
tDCSは大脳皮質の興奮性を簡便かつ安全に変えることができ,脳卒中をはじめとする多くの症例のリハビリテーションの効率を高めるために非常に有用な装置になり得ると考えられる。本研究では,健常人において筋出力を制御するとい学習が促進され,運動学習課題前にtDCSを実施しておくことで効率的なリハビリテーションを展開していく可能性が期待できる。