第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

運動制御・運動学習2

2015年6月6日(土) 11:25 〜 12:25 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0484] 痛みの高負荷運動による身体疲労の影響と慢性頚部痛者への低負荷運動の疼痛抑制効果

長谷川隆史1,2, 田平隆行2, 小無田彰仁1, 竹田圭佑3, 佐賀里昭4, 東登志夫5 (1.医療法人和仁会和仁会病院, 2.西九州大学大学院健康福祉学研究科, 3.平川整形外科医院, 4.日本赤十字社長崎原爆病院, 5.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻リハビリテーション科学講座)

キーワード:Pain-related SEP, 運動負荷, 慢性疼痛

【はじめに,目的】
近年,頚椎症や腰痛などの慢性疼痛に対する運動負荷の影響が注目されている。先行研究では,低負荷運動による疼痛抑制効果に関する報告がある一方で,高負荷運動での身体的疲労は痛みのリスクを高くする可能性に関する報告もあり,運動負荷量の設定はリハビリテーションの実践において重要である。
そこで本研究では,慢性疼痛に対する運動負荷の影響を検討する目的で,実験1として高負荷運動が体性感覚野の入力動態に及ぼす影響をPain-related SEPを用いて検討した。また,実験2として,頸椎症患者に対する低負荷運動が痛覚感受性を低下させるか否かについて検討した。
【対象と方法】
実験1
健常成人9名(平均年齢22.0±2.4歳)を対象とした。Pain-related SEPsの測定にはNeuropack・μを使用し,EPLIZERIIで解析した。実験条件は,椅子座位で,机上に前腕中間位で両上肢をリラックスした状態で置き,①負荷前条件(Pre),②最大努力下の5分間のエルゴメーター駆動直後(Post1),③駆動5分後(Post2)の3条件とした。刺激部位は右手関節部の正中神経とし,0.3msecの矩形波を1Hzの頻度で1条件につき100発電気刺激した。刺激強度は,疼痛閾値(20.6±3.9mA)に設定した。記録電極は,国際10/20法に基づきC3’,C4’から導出し,基準電極は両耳朶とした。得られた100回の加算平均波形より短潜時SEPs(P14-N18,N18-P24,P24-N33),長潜時SEPs(P80-N140)を同定した。また,疲労の程度を確認するために,各条件で疲労強度(VAS)と血圧,心拍数を測定した。更に,客観的な疲労指標として唾液アミラーゼモニターによる測定も実施した。これらと合わせて,電気刺激時の主観的痛み強度(VAS)も測定した。各条件間でFriedman検定を用いて頂点間振幅を比較した。また,その他各評価はそれぞれ反復測定分散分析を行った。いずれも多重比較にはBonferroni法を用い,有意水準は5%とした。
実験2
外来通院中の頚椎症患者16名(平均年齢30.4±4.6歳,罹患期間は113.3±31.9日)を対象とし,通常プログラム後に運動あり群,運動なし群の2群にグループ分けをした。運動あり群では,低負荷5分間のエルゴメーター駆動前後で,血圧,心拍数,疲労強度(VAS)と主観的痛み強度(VAS)を測定した。また,運動なし群では,5分間の休憩前後で同様の評価項目を測定した。課題前後の各評価項目における比較を,2群間の比較はStudent’s t-test,群内の比較はpaired t-testを行った。
【結果】
実験1
①課題前後のPain-related SEP
各成分の同定はでき,P80-N140の振幅値では条件間に有意な主効果が認められた。多重比較では,Preと比較してPost1は高値を示したが統計学的有意差は認められなかった。
②課題前後の各評価
疲労強度(VAS),唾液アミラーゼモニター,収縮期血圧,心拍数はPost1で有意に高値を示した。しかし,主観的痛み強度(VAS)における各条件間の有意差は認められなかった。
実験2
運動あり群では課題前後の主観的痛み強度(VAS)の有意な低下が認められたが,その他項目における群間,群内の有意差は認められなかった。
考察
実験1では,Pain-related SEPを使用して,痛みを客観的に評価し,高負荷運動による身体的疲労が体性感覚領域への入力動態に及ぼす影響を検討した。その結果,P80-N140の長潜時SEPsにて高負荷運動直後の振幅の増大傾向が観察された。短潜時SEPsは一次体性感覚野の興奮性を反映し,長潜時SEPsは二次体性感覚野の興奮性を示すとされており,本研究におけるP80-N140の長潜時SEPs振幅の増大傾向については,二次体性感覚野の興奮性の増大を反映している可能性がある。また,二次体性感覚野は痛み強度のコード化に関与するとの報告もあり,高負荷運動直後は,痛み刺激に対する二次体性感覚野の興奮性が一時的に増大する可能性が示唆された。主観的な痛み強度は二次体性感覚野の興奮性の変化やその他疲労に関する各評価との同調性は認められなかった。
一方,実験2では,運動あり群では主観的痛み強度の有意な低下が認められ,低負荷運動による慢性疼痛の抑制効果を示唆するもので,先行研究を支持する結果となった。5分間運動実施後も心拍数,血圧などのバイタルサインに変動が出ない程度の負荷量で,この疼痛抑制機序は自動運動に伴う中枢性の影響が大きいものと考える。
【理学療法学研究としての意義】
痛みを有する患者に対するリハビリテーションプログラムを計画するにあたり,その運動負荷量と身体的疲労の程度が痛みの強度に影響する可能性があることを示す。