第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

運動制御・運動学習3

Sat. Jun 6, 2015 11:25 AM - 12:25 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0496] 頸部アライメントが静止立位と歩き始めの姿勢制御に及ぼす影響

浅見侑花, 中島恵, 笹野純布, 関直人, 小宅綾希, 上條史子 (文京学院大学保健医療技術学部理学療法学科)

Keywords:頸部前方位, 姿勢制御, 体幹

【はじめに,目的】
デスクワークに携わる人の増加や携帯電話などの電子機器の普及により頸部のアライメント不良を呈する人を多く観察する。高齢者や片麻痺患者を対象にした先行研究では頭頸部アライメントが変化すると,前方を向いて頭部を中間位に保持した立位姿勢より重心動揺が大きくなることが報告されている。しかし,若年健常者についての報告は見当たらない。そこで本研究は,若年健常者の立位姿勢時の頸部アライメントの違いが静止立位と歩き始めの姿勢制御へ与える影響について検討することを目的とした。
【方法】
対象は,神経疾患や整形外科疾患を有さない若年健常男性17名した。頸部アライメントの測定は,Marilyn Mらが提示する方法を用いた。壁から30cm離れた線に踵を置き,壁に頭部と背部をつけ立位姿勢をとりつつ頸部をできるだけ壁に近づけた。オトガイレベルから伸ばした壁への垂直線上に検者の手指を置き,そのスペースが3横指以下の被験者を良好群とし,3.5横指以上を不良群と分類した。姿勢動作計測には,三次元動作解析システムVICON NEXUS(VICON MOTION SYSTEMS社),カメラ8台,床反力計6枚(AMTI社製)を使用した。直径14mmの赤外線反射マーカをPlug in Gait full body Modelに基づき,身体に貼付した。静止立位の測定では,床反力計2枚に左右それぞれの足部が乗るようにし,計3回の30秒間の開眼静止立位を計測した。データは,測定開始から5秒後から20秒間のものを使用し,3回分の平均値を用いた。抽出項目は,足関節底背屈モーメント(Nm/kg),合成床反力作用点(以下,COP)の進行方向位置移動の標準偏差,COPの速度,セグメントの位置移動の標準偏差を算出した。セグメントの位置は頭部に貼付した4点のマーカの中点(頭部),体幹に貼付した2点のマーカの中点(体幹),骨盤に貼付した4点のマーカ中点(骨盤)位置を計算し,両足関節中心から静止保持中での進行方向位置移動の標準偏差を抽出した。歩き始めの測定では,床反力計6枚のうち床反力計2枚に左右それぞれの足部が乗るようにし,5秒間の開眼静止立位の後,検者の合図で利き足から床反力計上をY軸プラス方向へ歩行した。歩き始めは3回計測した。歩き始めのデータは,静止立位保持2秒後から,COPが最大に後方に移動した時点までのものを使用した。抽出項目は,身長で正規化したCOPの最大後方移動量と各セグメントの移動量とした。群間比較には,Mann-Whitney Utest(p<0.05)を使用した。また,群内での各セグメント間の移動に関して相関をみるためにSpearmanの順位相関係数を用いた(p<0.05)。
【結果】
頸部アライメント計測から,良好群7名,不良群10名の結果となった。静止姿勢での群間比較では,COPの進行方向標準偏差のみ有意差を認め,不良群で大きな結果となった(p<0.01)。セグメントの移動の相関に関しては,不良群ですべてのセグメント間に正の相関(頭部-体幹;r=0.59**,頭部-骨盤;r=0.72**,体幹-骨盤;r=0.78**)を認めたが,良好群では頭部と骨盤の相関のみであった(r=0.51*)。歩き始めでは,群間に有意な項目を認めたものはなかった。しかし,セグメントの移動量は不良群ですべてのセグメントに正の相関(頭部-体幹;r=0.62**,頭部-骨盤;r=0.74**,体幹-骨盤;r=0.83**)を示し,良好群よりも高い相関(頭部-体幹;r=0.37,頭部-骨盤;r=0.67**,体幹-骨盤;r=0.64**)を示した。
【考察】
静止姿勢ではCOPの標準偏差のみ群間差を認める結果となった。不良群では,全てのセグメント間で相関が認めた。Hodgesらは,姿勢制御における腰部の関与を示している。下部体幹の深部筋は起始と停止が腰椎にあり椎間関節,腰椎分節による姿勢制御を行っているとの報告もあるが,不良群ではこの機能が低く,身体を一つのセグメント様に連動して姿勢制御を行っていると推察される。結果,COPの移動量のばらつきが大きくなったと考えられる。歩き始めにおいても,各セグメント同士の相関係数が不良群の方が高かった。不良群では骨盤と体幹間での制御,つまり下部体幹の機能に差があるのではないかと推察する。頸部深層筋により適切な頸部アライメントで立位を保つことは,立位姿勢制御や動作開始での身体全体の動きにも影響を与えていると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
姿勢不良から機能の低下を推察することで,理学療法評価・治療の一助となると考える。