[P2-A-0500] 人工膝関節置換術術後患者に対する筋力測定値の視覚フィードバックが最大筋力発揮に及ぼす影響
Keywords:人工膝関節置換術, 最大筋力, 視覚フィードバック
【はじめに】
筋力測定は,理学療法の臨床場面において患者の運動機能を把握するために有用な手段であり,ある段階での筋力測定値を予後予測に用いた報告も多い。しかし,運動器疾患の術後患者や,廃用によってADLが低下した症例では,疼痛や運動パフォーマンスの低下から筋力発揮にばらつきが生じ,正確な最大筋力が発揮できているかは疑問である。一方,最大筋力の発揮には,視覚や聴覚などの感覚フィードバックが有効なことが知られている。我々は,視覚フィードバック(visual feedback;VF)の提示方法の違いによって,健常例の等尺性膝伸展運動における最大筋力発揮パフォーマンスに差を認めたと報告しているが,2種類の提示方法ともVFなしでの測定値に対する増加率は小さく,健常者を対象にした先行研究と同程度であった。さらに,運動器疾患患者や高齢者を対象とした同様の研究も渉猟しえた範囲では見当たらない。そこで本研究では,運動器疾患の術後である人工膝関節置換術(TKA)術後患者に対してVFを用いた筋力測定を行い,最大筋力発揮パフォーマンスの変化を健常例と比較することを目的とした。
【方法】
TKA術後患者12名(71.9±4.7歳,女性10名,男性2名)TKA群,下肢運動器疾患の既往のない健常成人12名(24.9±2.6歳,女性7名,男性5名)を健常群とし,等尺性膝伸展筋力を測定した。測定肢は,TKA群は術側(右5名,左7名)とし,健常群は対象毎に左右無作為(右8名,左4名)に割り振った。TKA群の測定日は術後14日目とし,通常の理学療法施行後に筋力を測定した。筋力測定にはHHDミュータスF-1(アニマ社製)を用い,股および膝関節屈曲90度になるように設定した座位で同一の検者が測定した。VFの提示は,機器の数値が読み取れる距離で対象者に表示画面を見せ,「できるだけ大きな数値を目指してください」と指示を与えた。機器の表示画面にはピーク値が表示され続ける仕様になっている。筋力測定は3回行い,1回目はVFなしで通常の測定を行った。その後,VFあり・なしを順不同に各1回測定した。データ解析では,2回目以降のVFあり・なしの各測定値を1回目の測定値(基準値)で除し,筋力変化率(%)を算出した。統計処理として,各群におけるVFの有無による筋力変化率の比較に対応のあるt検定を用い,VF時の両群の筋力変化率の比較に2標本t検定を用いた。統計解析ソフトウェアはIBM SPSS 21.0(IBM社製)を用い,統計学的有意水準は5%とした。
【結果】
各条件における等尺性膝伸展筋力の測定値は,TKA群が基準値13.1±8.5kgf,VFなし13.6±7.0kgf,VFあり15.3±7.4kgf,健常群が基準値42.3±15.1kgf,VFなし39.7±13.1kgf,VFあり44.1±14.2kgfであった。筋力変化率は,TKA群がVFなし106.6±11.3%,VFあり121.9±16.6%,健常群がVFなし95.1±6.6%,VFあり106.2±11.2%であり,両群ともVFなしよりVFありで有意に大きかった(p<0.05)。また,VFありでの筋力変化率は健常群よりTKA群で有意に大きかった(p<0.05)。
【考察】
健常群にVFを提示した際の筋力変化率は約106%まで増大し,その変化量は我々の過去の報告や先行研究と同程度であった。一方,TKA群ではVFの提示で120%以上にまで増大し,健常群との比較においても有意差を認めたことから,TKA術後患者に対して行われる通常の筋力測定では,発揮筋力に余力が残されていることが示唆された。TKAの術後では,一時的に筋出力の低下が認められ,その原因として手術侵襲による疼痛や術後のアライメント変化等が挙げられるが,何がどの程度関与しているかまでは解明されていない。今回,術後2週の時点においてVF提示下の筋力測定で最大筋力が増大したことから,運動器疾患術後の筋出力低下に対するアプローチにVFが応用できる可能性が示された。但し,今回の方法では,TKA群の基準値が健常群に比べて低かった。そのため,VF時の筋力変化率が高く出てしまったことも結果に影響している。TKA群の中には,VFありでの測定値が基準値やVFなしでの値と変わらない症例も含まれており,術後に抑制される筋出力には個人差があると推察される。今後,他の運動器疾患や健常高齢者での検討を加えることで,運動器疾患の術後患者の筋力測定におけるVFの効果検証を進めていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
TKA術後患者に対する筋力測定時に測定値を視覚的にフィードバックすると,抑制されていた筋力が賦活された。運動器疾患の術後患者に対する理学療法の効果判定や予後予測因子に筋力測定値を用いる場合,VFを用いることで結果の信頼性が増す可能性を示した。
筋力測定は,理学療法の臨床場面において患者の運動機能を把握するために有用な手段であり,ある段階での筋力測定値を予後予測に用いた報告も多い。しかし,運動器疾患の術後患者や,廃用によってADLが低下した症例では,疼痛や運動パフォーマンスの低下から筋力発揮にばらつきが生じ,正確な最大筋力が発揮できているかは疑問である。一方,最大筋力の発揮には,視覚や聴覚などの感覚フィードバックが有効なことが知られている。我々は,視覚フィードバック(visual feedback;VF)の提示方法の違いによって,健常例の等尺性膝伸展運動における最大筋力発揮パフォーマンスに差を認めたと報告しているが,2種類の提示方法ともVFなしでの測定値に対する増加率は小さく,健常者を対象にした先行研究と同程度であった。さらに,運動器疾患患者や高齢者を対象とした同様の研究も渉猟しえた範囲では見当たらない。そこで本研究では,運動器疾患の術後である人工膝関節置換術(TKA)術後患者に対してVFを用いた筋力測定を行い,最大筋力発揮パフォーマンスの変化を健常例と比較することを目的とした。
【方法】
TKA術後患者12名(71.9±4.7歳,女性10名,男性2名)TKA群,下肢運動器疾患の既往のない健常成人12名(24.9±2.6歳,女性7名,男性5名)を健常群とし,等尺性膝伸展筋力を測定した。測定肢は,TKA群は術側(右5名,左7名)とし,健常群は対象毎に左右無作為(右8名,左4名)に割り振った。TKA群の測定日は術後14日目とし,通常の理学療法施行後に筋力を測定した。筋力測定にはHHDミュータスF-1(アニマ社製)を用い,股および膝関節屈曲90度になるように設定した座位で同一の検者が測定した。VFの提示は,機器の数値が読み取れる距離で対象者に表示画面を見せ,「できるだけ大きな数値を目指してください」と指示を与えた。機器の表示画面にはピーク値が表示され続ける仕様になっている。筋力測定は3回行い,1回目はVFなしで通常の測定を行った。その後,VFあり・なしを順不同に各1回測定した。データ解析では,2回目以降のVFあり・なしの各測定値を1回目の測定値(基準値)で除し,筋力変化率(%)を算出した。統計処理として,各群におけるVFの有無による筋力変化率の比較に対応のあるt検定を用い,VF時の両群の筋力変化率の比較に2標本t検定を用いた。統計解析ソフトウェアはIBM SPSS 21.0(IBM社製)を用い,統計学的有意水準は5%とした。
【結果】
各条件における等尺性膝伸展筋力の測定値は,TKA群が基準値13.1±8.5kgf,VFなし13.6±7.0kgf,VFあり15.3±7.4kgf,健常群が基準値42.3±15.1kgf,VFなし39.7±13.1kgf,VFあり44.1±14.2kgfであった。筋力変化率は,TKA群がVFなし106.6±11.3%,VFあり121.9±16.6%,健常群がVFなし95.1±6.6%,VFあり106.2±11.2%であり,両群ともVFなしよりVFありで有意に大きかった(p<0.05)。また,VFありでの筋力変化率は健常群よりTKA群で有意に大きかった(p<0.05)。
【考察】
健常群にVFを提示した際の筋力変化率は約106%まで増大し,その変化量は我々の過去の報告や先行研究と同程度であった。一方,TKA群ではVFの提示で120%以上にまで増大し,健常群との比較においても有意差を認めたことから,TKA術後患者に対して行われる通常の筋力測定では,発揮筋力に余力が残されていることが示唆された。TKAの術後では,一時的に筋出力の低下が認められ,その原因として手術侵襲による疼痛や術後のアライメント変化等が挙げられるが,何がどの程度関与しているかまでは解明されていない。今回,術後2週の時点においてVF提示下の筋力測定で最大筋力が増大したことから,運動器疾患術後の筋出力低下に対するアプローチにVFが応用できる可能性が示された。但し,今回の方法では,TKA群の基準値が健常群に比べて低かった。そのため,VF時の筋力変化率が高く出てしまったことも結果に影響している。TKA群の中には,VFありでの測定値が基準値やVFなしでの値と変わらない症例も含まれており,術後に抑制される筋出力には個人差があると推察される。今後,他の運動器疾患や健常高齢者での検討を加えることで,運動器疾患の術後患者の筋力測定におけるVFの効果検証を進めていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
TKA術後患者に対する筋力測定時に測定値を視覚的にフィードバックすると,抑制されていた筋力が賦活された。運動器疾患の術後患者に対する理学療法の効果判定や予後予測因子に筋力測定値を用いる場合,VFを用いることで結果の信頼性が増す可能性を示した。