第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

運動制御・運動学習4

Sat. Jun 6, 2015 11:25 AM - 12:25 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0503] 視覚遮断条件の差異が立位姿勢制御に及ぼす影響

吉田浩実1, 岡田洋平2,3, 増田崇1, 門脇明仁1, 冷水誠2,3, 森岡周2,3 (1.奈良県総合医療センターリハビリテーション部, 2.畿央大学大学院健康科学研究科, 3.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター)

Keywords:視覚遮断, 閉眼, アイマスク

【はじめに,目的】立位姿勢制御において視覚は重要であり,視覚が遮断されると立位姿勢制御に影響を与える。理学療法において視覚を遮断する際,閉眼を用いることが多いが日常生活において閉眼立位をとることは少ない。閉眼と開眼した状態の暗所とは立位姿勢制御が異なる可能性がある。両者ともに重心の前後方向の最大動揺が増加し,前者より後者が認知課題の処理能力が落ちることが報告されている(Raymond K, 2012)。しかし,先行研究では重心の前後の最大動揺を評価しているのみである。そこで,今回は前後だけでなく総軌跡長と矩形面積を評価した。また,臨床場面において完全暗室を用いて評価することは難しいため,開眼した状態でアイマスクを装着することにより暗室と類似した立位姿勢制御を評価した。本研究の目的は,高齢者と若年者において,閉眼および開眼した状態でアイマスクを装着するという二つの視覚遮断条件が姿勢動揺に与える差異を明らかにすることとした。
【方法】対象は健常大学生20名(男性10名,女性10名,年齢21.7±0.6歳)と健常高齢者20名(男性10名,女性10名,年齢72.7±4.0歳)とした。対象者はForce platform(WIN FDM, Zebris, Germany)上で開眼,閉眼,アイマスクの3つの視覚条件にて立位を各々30秒間測定した。評価項目は総軌跡長と矩形面積とした。アイマスク条件ではアイマスク内で開眼するよう指示した。統計解析は年齢(若年者,高齢者),視覚条件(開眼,閉眼,アイマスク)による測定項目の平均値の差を反復測定二元配置分散分析を用いて検討した。交互作用があれば単純主効果検定を行ない,交互作用がなければ主効果判定を行なった。有意水準は5%未満とした。
【結果】総軌跡長において,若年者ではアイマスクが開眼と比較して総軌跡長の値が有意に大きかった。高齢者では全ての視覚条件の間で有意差が認められ,開眼,閉眼,アイマスクの順に大きくなる傾向が示された。年齢と視覚条件の有意な交互作用が認められた。矩形面積においては,若年者と高齢者ともに開眼と閉眼に対してアイマスクで矩形面積の値が有意に大きかった。年齢と視覚条件の有意な交互作用が認めらなかった。
【考察】本研究の結果,若年者ではアイマスク,閉眼の間で総軌跡長に有意な差はないが,高齢者では閉眼よりもアイマスクにおける総軌跡長が有意に大きいことが示された。この結果は,加齢の影響により開眼した状態で視覚情報が得られない場合,自ら閉眼するときよりも姿勢動揺が大きくなることを示唆している。姿勢制御能力が低下した高齢者にとって,夜間の暗所でのトイレ移動のように開眼しているが見えないという状況において姿勢動揺が増加する危険性が高くなると考えられる。また,矩形面積においては年齢と視覚条件の主効果のみ認め,それらの交互作用は認められなかった。このことから,アイマスクでは閉眼と比較して姿勢動揺が増加し,また不意の大きな動揺の出現や動揺の方向の変化が生じると考えられる。高齢者や患者においては特に,閉眼立位に加えて,アイマスクなどを利用して開眼した状態で視覚を遮断した立位時の姿勢動揺も合わせて評価する必要があると考える。閉眼とアイマスクによる視覚遮断において姿勢動揺に差異が生じたメカニズムについて考察する。健常成人は開眼立位時と比較して,閉眼立位時に前頭眼野,前頭前野背外側部の活動が増大する(Ouchi, 1999)。前頭前野は姿勢制御における感覚の重みづけに関わっている可能性がある(Bolton, 2012)。開眼した状態で視覚情報が得られない際の脳活動に関する先行研究はない。閉眼による視覚遮断時は開眼した状態でのアイマスクによる視覚遮断時と比較して,前頭前野による足底感覚など姿勢制御に必要な視覚以外の感覚への再重みづけが有効に行われる。その結果,姿勢動揺が減少した可能性があると考える。視覚遮断の方法によって立位時動揺に差異が生じる機序について今後明らかにする必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究の結果,自ら閉眼して見えない状況と開眼しながら見えない状況では姿勢動揺の傾向に違いがあることがはじめて示された,その差異を考慮することにより,理学療法において視覚遮断時の姿勢制御の評価・治療を実際の日常生活環境に近い状況で実施可能になるのではないかと考える。