第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

運動制御・運動学習5

Sat. Jun 6, 2015 11:25 AM - 12:25 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0507] ロコモティブシンドロームへの理学療法効果の基礎研究

運動単位のデコンポジション解析より

三和真人1, 竹内弥彦1, 大谷拓哉1, 雄賀多聡1, 小川真司2, 伊橋光二3, 真壁寿3 (1.千葉県立保健医療大学, 2.浜松赤十字病院, 3.山形県立保健医療大学)

Keywords:ロコモティブシンドローム, 運動単位, Recruitment

【はじめに,目的】ロコモティブシンドロームは「運動器症候群」と称され,運動器障害による「要介護になるリスク」をいう。加齢に伴った運動器疾患と筋力低下など運動機能不全の2つの原因が考えられ,高齢化社会の真っ只中の現在においては「健康寿命の短縮」や「寝たきり・要介護」に繋がりかねない。ゆえに運動器症候群を早期発見,予防するための運動介入など計画する必要があることも容易に考えられる。本研究は下肢筋力が運動器症候群の予防に関連することを踏まえて,運動介入によって高齢者の不規則な運動単位(motor unit;MU)のrecruitmentがtypeIIからtypeI筋線維への筋収縮メカニズムにつながるとの仮説を立て,recruitmentの出現様式を分析することを目的とした基礎研究である。若年者の筋収縮特性と比較検討し,若干の知見を得たので報告する。
【方法】対象は中規模な市に在住している高齢者24名(年齢75.8±4.9歳,身長155.0±6.9cm,体重57.0±8.3kg)とした。対照は若年者健常人9名(年齢21.8±1.6歳,身長167.2±7.2cm,体重58.7±11.0kg)とした。対象者が力を発揮しやすい左右いずれかの前脛骨筋を被験筋とし,背もたれのない椅子座位で足関節低屈20°位を測定肢位とした。筋力測定は,ハンドヘルドダイナモメーターで等尺性随意筋収縮を2回発揮してもらい,うちの最大値を採用した。課題の測定は最大筋力の30%を保持するものとし,準備時間と終了後のそれぞれ5秒,recruitmentが出現しやすい立ち上がり・下がり時間をそれぞれ3秒,および保持14秒を含めた合計30秒間とした。MU測定はデコンポジションシステム(dEMG-UMS-1:Delsys Inc. MA)を用いて,筋腹中央に電極間距離0.5cmの四方形Array電極を貼付し,サンプリング周波数10kHzで筋電図信号を導出した。信号はAD変換した後,PCに取り込み,筋電図信号解析ソフトDelsys社製EMG works 4.0で処理した。算出した項目はMU数,correl関数を使った相互相関係数(correlation coefficient;CC),およびCCに関連したMU数である。統計学的解析は高齢者群と若年者群の筋トルク値に加えて,本研究目的であるMU数,CC数とCC関連MU数の差を対応のあるt検定で比較した。また高齢者群はrecruitmentが規則的に終了する群と不規則になる群が存在するため,MU数,CC数とCC関連MU数の差を比較した。一方高齢者群の規則群・不規則群と若年者群のMU数,CC数とCC関連MU数は一元配置分散分析を行った。差の検定はTurkey-Kramer法を用いた。なお有意水準は5%とした。
【結果】高齢者群と若年者群の比較では,足関節背屈筋は21.6±6.6Nmと26.7±7.7Nmで筋トルク値であった。MU数は31.2±9.1(範囲8~49)と38.2±6.9(範囲26~46),CC数は2.8±3.9(範囲0~17)と5.3±5.2(範囲0~17),CC関連MU数は5.7±13.1(範囲0~62)と20.1±31.5(範囲1~96)であり,それぞれに有意差(p<0.05)がみられた。高齢者MUの不規則群15名(75.8±4.9歳)と規則群9名(76.0±3.6歳)の比較では,MU数30.9±9.9と31.7±8.0で有意差が認められたが,CC数とCC関連MU数の比較では差がなかった。また規則群とControl群で規則性の有無を比較した結果,MU数31.7±8.0と38.2±6.9,CC関連MU数11.4±20.4と20.1±31.5と標準偏差が大きいものの,それぞれ有意差(p<0.05)がみられた。
【考察】高齢者群は若年者群に比較してMU数が少なく,Tomlinsonらが60歳前後から脊髄神経細胞が減少したとの報告と同様の結果を確認できた。高齢者の場合,MUの絶対数が減少し,筋力発揮が困難になることも理解できた。また不規則なrecruitmentの出現はKamenらが針電極を用いた実験で13人中4名よりも多く,24名中15名と62.5%の高齢者に不規則なrecruitmentが認められた。また規則群と若年者群の違いはMU数とCC関連MU数であり,CC数に差がなかったことは興味深い。つまり,運動時のMU絶対数は若年者群よりも劣り,その分の筋力低下があったとしても筋収縮メカニズムに違いはないものと考えられた。今後の本研究の課題は,運動機能不全の早期発見に活用し,運動介入でrecruitmentが改善するのか否かを研究することにある。またバランス機能などの運動機能との関連を分析することも必要と考える。
【理学療法学研究としての意義】運動器症候群の予防を考えた場合,単に運動機能のOutcomeだけでは機能不全を捉えるには限界があるものと考える。詳細にOutcomeの基にある生体機能レベルを分析することが必要であり,本研究は生体機能を的確に捉え,かつ運動機能の改善へのプロセスを解析できるものと確信する。