第50回日本理学療法学術大会

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ポスター2

運動制御・運動学習5

2015年6月6日(土) 11:25 〜 12:25 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0510] 同一課題で難易度を調整した体幹スタビリティトレーニングにおける腹壁筋の変化

腹横筋の収縮で提供できる難易度限界の検索

山本泰三 (株式会社スターティングアゲイン)

キーワード:腹横筋, 体幹スタビリティ, 超音波画像

【はじめに,目的】体幹深部筋のトレーニングについては針筋電図や超音波画像を用いて報告されている。Jukerらは体位と構えを変えた35種類の課題で体幹筋を評価し,腹横筋(以下,TrA)は側臥位ブリッジで最も収縮していたと報告している。大久保らは四つ這い位で上肢や下肢を挙上させて体幹筋評価し,左TrAは左上肢挙上時に増加したと報告している。いずれもTrAが収縮を増加しているものの外腹斜筋(以下,EO)も同程度またはそれ以上に増加していた。体位や構えを変化させて体幹筋を評価し,体幹筋の収縮が全体的に増加しているなかで,TrAが収縮している度合いを報告しているものが多い。Crommertらは立位で3kgの重りを両手に持ち,前後上下に挙上させ構えの変化を強調した7種の課題で体幹筋を評価し,頭上に挙上したときにTrAが他の筋より収縮していたいと報告している。本実験の目的は,同一課題で難易度を調整しTrAの収縮のみが増加する体幹スタビリティトレーニングを検索することである。
【方法】対象は,腰椎疾患の既往がない女性4名,男性6名とした。10名の年齢は24.7±4.1歳であった。課題は膝立ち位で体幹前傾とし,難易度は体幹の前傾角度で調整した。被験者はレッドコードトレーナー(レッドコード社製)の真下に膝立ち位になり,上肢下垂させ肘関節90度屈曲位で肘頭部をスリングした。膝立ち直立位でTrAを主動作筋とする臍引きを2mm行わせ,大腿部から頭部を棒状に維持したまま体幹前傾するよう十分に練習させた。股関節屈曲や腰椎の形状の変化や肩関節伸展を最小限とした。体幹の前傾角度は胸骨に水準計を当て直立位からの変化を測定した。膝立ち直立位から5度前傾,10度前傾,20度前傾,30度前傾させて体幹スタビリティトレーニングの難易度を変化させた。腹壁筋の厚さは超音波画像診断装置(Sono Site社製Micro Maxx)を用いて膝立ち直立位,5度前傾,10度前傾,20度前傾,30度前傾で測定した。測定部位はリニアプローブを前腋窩線で肋骨下端と腸骨稜間の中点の水平面上に当てTrA,内腹斜筋(以下IO),EOの厚さを測定し,同一水平面上で臍方向にプローブを移動し腹直筋(以下,RA)の厚さを測定した。測定は布施らや伊藤らの超音波画像診断装置によるTrA測定の信頼性についての報告をもとに,超音波画像診断装置による腹壁筋測定に精通した1名が1回測定した。統計的処理は,膝立ち直立位の腹壁筋の厚さを基準とし,5度前傾,10度前傾,20度前傾,30度前傾のパーセント値を分散分析後にポストホックテストした。危険率5%とした。
【結果】基準となる臍を引きTrAを収縮させた膝立ち直立位での腹壁筋の厚さは,TrAが5.6±1.0mm,IOが11.0±2.1mm,EOが5.7±0.5mm,RAが10.4±1.4mmであった。膝立ち直立位の腹壁筋の厚さを100%とした5度前傾は,TrAが115±14%,IOが101±19%,EOが98±9%,RAが103±7%。10度前傾では,TrAが105±16%,IOが106±11%,EOが101±23%,RAが103±7%であったであった。20度前傾では,TrAが102±22%,IOが100±26%,EOが108±24%,RAが117±7%であったであった。30度前傾では,TrAが93±19%,IOが101±20%,EOが117±31%,RAが124±6%であったであった。5度前傾,および,30度前傾で角度要因に主効果があり,5度前傾でTrAが他の3筋より収縮が増加した(p<0.05)。30度前傾でTrAはEOとRAより収縮が低下し,IOはRAより収縮が低下した(p<0.05)。TrAは膝立ち直立位より5度前傾で増加し,30度前傾では5度前傾より低下した(p<0.05)。
【考察】ローカル筋としてのTrAを選択的に収縮させる方法として臍引き課題がある。臍引き課題後に体幹スタビリティを向上させるためには,ローカル筋の機能を土台としたグローバル筋の機能向上練習が提唱されている。側臥位ブリッジや四つ這い位体節挙上は腹壁筋全体が収縮しておりTrAが選択的に収縮していない。今回の膝立ち位で30度前傾させた難易度ではTrAよりEOとRAが収縮していた。運動制御には自由度があり難易度が高いと収縮が認識しやすいグローバル筋が選択されやすい。膝立ち位前傾課題で腹横筋の収縮が提供できる難易度限界は5度前傾であった。5度前傾させた膝立ち位で2重課題としての体節の運動を加える練習を行い,ローカル筋による体幹スタビリティの質を向上させた上で,難易度をアップさせていく方法が示唆される。
【理学療法学研究としての意義】体幹スタビリティトレーニングの初期にTrA収縮を選択的に増加させる基準が得られた。ローカル筋であるTrAの収縮機能を土台としたグローバル筋による体幹スタビリティトレーニングが望まれる。