第50回日本理学療法学術大会

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生体評価学1

2015年6月6日(土) 11:25 〜 12:25 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0517] 腹囲周径を用いた腹横筋の選択的収縮のフィードバック法の検討

杉本穂高1,2, 百瀬公人3 (1.国立病院機構まつもと医療センター中信松本病院, 2.信州大学大学院医学系研究科, 3.信州大学医学部保健学科)

キーワード:腹横筋, 腹囲周径, 腹部引き込み運動

【はじめに,目的】
腰痛患者はグローバル筋群が過剰に活動しているという報告や腰痛患者はローカル筋である腹横筋の活動の低下,遅延がみられるという報告がある。そこで外腹斜筋や内腹斜筋などの腹筋群から独立した腹横筋の収縮を再学習することが重要であるとされている。腹横筋は胸腰筋膜に付着し,コルセットのように腹部を覆い,正中部で交差し合流していて,収縮すると腹壁を背側へ引き込み腹囲を短縮する作用がある。外腹斜筋,内腹斜筋などが収縮すると骨盤から胸郭へと垂直,斜方に走行するので腹部を平坦にする作用がある。その腹横筋の選択的収縮を再学習する上で,超音波診断装置や圧バイオフィードバック装置(PBU)を使用したフィードバックをすることを勧めている。
超音波診断装置は実際に筋厚を画像化してみることができ,妥当性が高いが,超音波診断装置は高価で臨床への導入が難しい。またPBUは超音波診断装置に比べ安価であるが,腹臥位でしか利用できず実用的ではない。
そこで超音波診断装置やPBUの代わりになる腹横筋の選択的収縮の評価方法として背臥位や坐位,立位でも使用できる腹囲周径の検討を考えた。腹囲周径において安静時から引き込み運動時の変化量を求めれば,腹横筋の作用と外腹斜筋や内腹斜筋の作用の違いから選択的収縮の有無を弁別できると思われる。選択的収縮が失敗すると作用の違う外腹斜筋や内腹斜筋,腹横筋が収縮するので腹囲の変化量は小さく,選択的収縮が成功すると腹横筋のみ収縮するので腹囲の減少がみられると考えられる。しかし先行研究では腹囲周径を腹横筋の選択的収縮の評価法として検討しているものは見当たらない。そこで本研究の目的は腹臥位での腹横筋選択的収縮時の筋厚と腹囲変化と筋厚の関係を明らかにする。
【方法】
対象者は腹部引き込み運動の訓練を行っていない若年男性健常者で,除外基準は腰部に整形外科的,神経学的疾患のあるもの,またその既往のあるもの,超音波画像にて筋の境界が不明瞭なもの,ボディマス指数30以上のものとした。超音波診断装置プローブ位置は中腋窩線上の肋骨下縁と腸骨稜の中線と前腋窩線との交点とした。腹位周径計測のメジャー位置はメジャーの端を腹部中央に固定し,高さは中腋窩線上の肋骨下縁と腸骨稜の中線を通るようにし半周を計測した。腹部引き込み運動は腹臥位になり最大努力で行った。測定は安静時,腹部引き込み運動時の外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋の各筋厚,腹囲周径を3回計測し,各測定項目を「腹部引き込み運動時-安静時」で変化量を算出した。腹横筋の選択的収縮の基準は超音波診断装置を用いて筋厚を測定し外腹斜筋の筋厚が増加せず,腹横筋の筋厚が増加したものとし,超音波診断装置で腹横筋の選択的収縮の陽性,陰性ごとに群分けし,腹囲周径と筋厚の関係をみるためにPearsonの相関係数を調べた。有意水準5%未満とした。
【結果】
陽性群(n=25)の変化量は腹囲周径-2.21±0.68,外腹斜筋-0.69±0.50mm,内腹斜筋4.89±1.75mm,腹横筋2.64±1.08mm,陰性群(n=29)の変化量は腹囲周径-2.24±0.65,外腹斜筋1.03±0.68mm,内腹斜筋4.13±1.38mm,腹横筋1.99±0.92mmであった。陽性群は腹囲周径変化量と筋厚変化量との間に相関がなかった(r=-0.18,p=0.34)。また陰性群は腹囲周径変化量と筋厚変化量との間にも相関がなかった(r=-0.25,p=0.24)。
【考察】
今回の研究では超音波診断装置での腹横筋選択的収縮の基準に樋口らの研究で使用された外腹斜筋の収縮が伴わないで腹横筋の収縮が得られたものを陽性とする基準を採用した。樋口らの研究では,陽性群と陰性群のPBUの圧変化がそれぞれ-4.2±2.0mmHg,0.1±3.2mmHgで群間に有意差を認めたと報告しており,腹部圧の違いは腹囲周径にも影響を及ぼすと考えられた。しかし本研究の結果から両群ともに腹囲周径と筋厚との間に相関がなかった。その理由として,陽性群も陰性群も内腹斜筋が収縮しており,腹囲周径の変化に影響した可能性がある。Richardsonらは,腹横筋の選択的収縮基準として外腹斜筋および内腹斜筋の筋収縮がないことを提唱している。今後はRichardsonらの基準で外腹斜筋,内腹斜筋の筋厚増加を伴わないものを陽性とする陽性群と陰性群における腹囲周径と筋厚の関係をみていく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
腹部引き込み運動のフィードバック法で超音波診断装置やPBUに代わる,より簡便な腹囲周径を使用したフィードバック法の作成の一助となる。