第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

生体評価学1

Sat. Jun 6, 2015 11:25 AM - 12:25 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0520] スタティックストレッチング後の腓腹筋最大随意収縮時の筋音図変化

越智亮1,2, 中村雅俊1,3, 梅垣雄心1, 小林拓也1, 西下智1, 梅原潤1, 田中浩基1, 岡久雄4, 市橋則明1 (1.京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻, 2.星城大学リハビリテーション学部, 3.同志社大学スポーツ健康科学部, 4.岡山大学大学院保健学研究科)

Keywords:スタティックストレッチング, 筋音図, 表面筋電図

【はじめに,目的】
スタティックストレッチング(SS)は筋の柔軟性を改善させることが周知されている。また,SS直後に当該筋の最大筋力は低下するとした報告が多く散見される。そのため,SS直後に高い筋力発揮を要求されるような運動パフォーマンスが低下することも示唆されている。この現象はSS後に筋電図(EMG)振幅が減少する神経的な要素と,筋腱構成体のスティフネスが低下する構造的な要素が関与しているとされる。筋収縮時の構造的な要素をみるために,皮膚表面上で筋線維の横断方向の振動を測定できる加速度センサを用いた筋音図が有用である。しかし,加速度センサを用いた筋音図は筋収縮に伴う四肢の動きによってノイズが入り易く,定量的な評価が難しい。そこで我々は,体動に対してノイズが入りにくい変位筋音図(dMMG)を用いることを着想した。本研究の目的は,SS後のスティフネスが減少した筋の筋収縮動態の変化を,変位筋音図を用いて明らかにすることである。
【方法】
健常若年男性10名(平均年齢24.9±4.2歳,身長170.8±3.1 cm,体重62.7±6.8 kg)を対象とし,対象筋は右下肢腓腹筋内側頭とした。後述の最大筋力,受動トルク,そしてSSには,多用途筋機能評価運動装置(Biodex社製Biodex system 4.0)を用いた。被験者の肢位は多用途筋機能評価運動装置上で股関節屈曲70°,膝関節完全伸展位の長座位とした。dMMGとEMGの計測には特別制作されたハイブリッドセンサを用いた(dMMGフォトリフレクタ直径5×4 mm,皮膚面とdMMGセンサ間の初期距離8 mm,EMG電極中央間距離8 mm,センサの詳細は,岡久雄,他:フォトリフレクタを用いた変位筋音センサの開発とその応用。バイオメカニズム21:219-230,2012.を参照のこと)。同センサを筋腹中央部に十分な皮膚処理の後に貼付した。EMGアース電極は脛骨内果中央に設置した。dMMG,EMG信号をサンプリングレート1 kHzでパソコンに取り込んだ。
被験者に3秒間の最大等尺性収縮を行わせ,足関節底屈の最大筋力を各被験者の体重で正規化した値(Nm/kg)を記録した。最大筋力計測はSS前後で3回ずつ行った。
受動トルクの計測は,足関節背屈0°位から,角速度1°/秒で他動的に足関節背屈させ,足関節底屈方向に生じる受動トルクを連続的に計測した。被験者が痛みを感じることなく最大限,伸張感を感じる角度までストレッチし,その時点の受動トルク(Nm)を記録した。その後,同肢位で足関節背屈角度を保持するSSを1分×2回行った。SS後の受動トルクは,SS前と同条件における対比のため,SS前の受動トルク計測時と同じ足関節背屈角度における値を記録した。
最大筋力発揮時のdMMGデータから,dMMG振幅が最大となる点の前後0.5秒間(1秒間)をdMMG,EMG信号の解析区間とした。dMMG振幅はまず,2階微分処理により加速度MMG信号(以下,MMG)に変化させた。次に,MMG(mm/s2)とEMG(μV)を,10msRMSによる平滑化処理を行った後,それぞれの波形の1秒間の平均値を算出した。MMG,EMGのデータは各被験者の最大筋力発揮3回分の平均値を採用した。
統計処理は,全データの正規性を確認した後,対応のあるt検定もしくはWilcoxon符号順位検定を用いてSS前後の比較を行った。危険率は5%未満を有意とした。
【結果】
結果の値を全て平均±標準偏差で示す。最大筋力はSS前1.92±0.53 Nm/kg,SS後1.69±0.50 Nm/kgと,SS後に有意に減少した。受動トルクはSS前34.0±21.3 Nm,SS後30.0±13.3 Nmと,SS後に有意に低下した。EMG振幅の平均値はSS前27.0±17.1 μV,SS後21.8±14.8 μVと,SS後に有意に低下した。MMG振幅の平均値はSS前57.2±32.0 mm/s2,SS後69.8±29.9 mm/s2と,SS後に有意に増加した。
【考察】
最大筋力と受動トルクの結果から,SS後に下腿三頭筋の筋力が低下し,柔軟性が向上していることが認められた。SS後のEMG振幅の減少は,SS後の発揮筋力の減少を反映していたと考えられる。MMGは筋の横断方向に生じる圧波の変動分を捉えており,これは体表面上で発生する筋の微細振動を表している。本研究においてSS後にMMG振幅が増大したことは,SS後の筋収縮時に筋線維振動が増加したことを示唆している。末梢の運動単位のレベルにおけるSS後の筋力低下は,神経的な要因に加え,筋のメカニカルな収縮動態の変化を伴って生じるものと推察される。
【理学療法学研究としての意義】
スタティックストレッチング後の筋力低下に神経的な影響と筋の形態的な影響があることを明らかにした。理学療法で行う機会の多いストレッチングに関して,本研究結果は重要な知見となり得る。