第50回日本理学療法学術大会

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ポスター2

生体評価学1

2015年6月6日(土) 11:25 〜 12:25 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0523] 振幅確率密度関数を用いた筋疲労分析に関する実験的研究

中,高出力発揮時の筋疲労検出について

古川公宣1, 下野俊哉2 (1.星城大学リハビリテーション学部, 2.日本リハビリテーション技術教育研究機構)

キーワード:表面筋電図, 振幅確率密度関数, 筋疲労

【はじめに,目的】
表面筋電図による筋疲労の評価は,最大負荷時に振幅及び周波数の低下,最大下負荷時に振幅の上昇と周波数の低下が起こる。我々は第49回大会において,振幅確率密度関数(Amplitude Probability Distribution Function:APDF)を用いた低出力(最大筋力の25%)発揮時の筋疲労の評価において,従来用いられてきた指標よりも極めて早期に波形特性の変化を抽出できることを報告した。本研究目的は,中。高出力での持続的筋収縮時の筋活動の変化を追跡し,本法の有効性を検証することである。
【方法】
健常成人19名(男性12名,女性7名,平均年齢:21.4±0.5歳)を対象とした。被験筋は利き手側の上腕二頭筋とし,最初に,肘関節屈曲90°位で壁面に固定された表面筋電計と同期したロードセルを最大努力で5秒間牽引し,その間の筋活動電位と発揮トルクから各々のピーク値を抽出した。次に同様の肢位にて,抽出されたピートルク値の50±5%(50%MVC)及び75±5%(75%MVC)で,連続して5秒以上維持できなくなるまでロードセルを牽引し続けた。2施行間には十分な休息を設け,疲労の影響を除外した。課題の持続時間を10等分し,各時点(開始時,10から90%時点及び終了時)の3秒間の波形から平均振幅及び中間周波数(高速フーリエ変換)を算出した。APDF解析は,最大努力時の筋活動電位のピーク値を100%として,各時点のデータ分布から5%毎の階級で度数分布を作成(0-100%peakを20階級に分割),各階級の全データ数に対する割合を算出し,出現確率とした。統計学的検定には一元配置分散分析を使用し,多重比較検定(Dunnett法)にて開始時に対する各時点の変化を有意水準5%未満で検討した。
【結果】
課題の平均持続時間は50%MVCで119.7±36.4秒,75%MVCは48.9±11.9秒であった。中間周波数値は50%MVCで30%時点,75%MVCは20%時点と早期に有意な低下を示したが,平均振幅値は70%と80%時点になるまで有意な増加を示さなかったため,従来の指標による疲労の確定は後者に依存することがわかった。APDF解析では,50%MVCにおいて10-15%peak階級を境に,出現頻度は低階級で減少,高階級は増加し,5-10%peak階級が最も早期の50%時点から有意に減少し始め,60%時点では15-40%peakの5階級が減少を開始した。75%MVCは10-20%peakの2階級を境に50%MVCと同様の結果を示し,50%時点で0-10%peakの2階級が有意に減少開始,20-55%peakの7階級が有意に増加を開始した。またその後は,両施行とも経時的に高階級の有意な減少が順次発生した。
【考察】
持続的筋収縮時には,筋線維の疲労により収縮張力が低下し,要求された張力維持ために動員される運動単位数が増加すること,TypeII線維の易疲労性により動員数が漸減し,発揮張力が低いTypeI線維動員数の漸増により,相対的に動員される運動単位数が増加して振幅が増大する。また,周波数も同様の理由から反応する刺激頻度特性の相違のため,周波数スペクトルが低周波帯へ移行することで低下するため,この2条件が満たされた場合に筋疲労が確認されたことになる。本研究において,持続収縮中に最も早期に変化したのは中間周波数値であった。これは中,高出力時は低出力時に比してTypeII線維の動員が多く,開始時から高周波成分の多い波形となっている事に起因する。しかし,平均振幅値は両施行とも有意な増加を示す時間帯が遅かった。これは,動員される運動単位の増加と変化頻度の低下によって相殺されたと考えられた。一方,APDF解析では持続収縮中に有意な増減を示さない階級を境に,高階級で増加,低階級で減少という有意な変化が開始から50%時点より見られた。これは波形の振幅成分変化がこの時点から発生しているものの平均振幅値では検出できないことを示しており,階級に分割して筋電図波形を観察することの意義を示すと考えられた。これらのことより,APDF解析は低出力に加え,中,高出力状態においても,従来用いられてきた指標より早期から筋電図波形の変化をとらえることが可能であった。
【理学療法学研究としての意義】
筋収縮状態の変化は,理学療法プログラムの構築及び遂行時の重要な指標である。これを経時的にとらえることは,評価及び効果判定を正確に行う事が可能となるため意義深いと考える。