第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

生体評価学2

Sat. Jun 6, 2015 11:25 AM - 12:25 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0526] 接地初期のLeg stiffnessはDrop jumpのパフォーマンスに影響する

藤野努1, 国分貴徳2, 金村尚彦2,5, 村田健児3, 丸毛達也4,5, 高柳清美2,5 (1.浦和整形外科, 2.埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科, 3.山手クリニック, 4.上尾中央総合病院リハビリテーション技術科, 5.埼玉県立大学大学院保健医療福祉学研究科)

Keywords:Drop jump, スティフネス, 三次元動作解析

【はじめに,目的】
Drop jumpは跳躍パフォーマンスの評価やトレーニングとして一般的に用いられる動作である。このような反動を利用する動作において,下肢の果たす機能的な役割の一つは,外的な運動エネルギーを弾性エネルギーとして蓄積し,再び運動エネルギーに変換するというバネのような特性を持つことである。高効率・高パフォーマンスな跳躍動作を達成するために,下肢全体がこの特性を示すことは重要である。一方で,このバネのような特性が失われると,弾性エネルギーの十分な蓄積と運動への再転換が生じない。結果として,下肢の構造体に外的な運動エネルギーが非保存力として吸収される量が増加することに繋がり,障害のリスクが高まる可能性がある。
下肢全体をバネとしてみなした場合,その特性を表す機能的指標として,身体重心の変位と外部から加えられた力の関数で表現されるLeg stiffnessがある。最大努力を要求される動作においてLeg stiffnessが低値を示すことは,動作効率やパフォーマンスの低下をもたらし,外的な運動エネルギーが下肢の構造体へ過剰に散逸する状態を示す可能性が高いが,Leg stiffnessとパフォーマンスの関係性は明らかとなっていない。
そこで,本研究では最大努力を要求したDrop jumpにおけるパフォーマンスとLeg stiffnessの関係性を明らかにすることを目的とし,同動作におけるパフォーマンスを評価する事がLeg stiffnessを簡易的に評価する事につながることを仮説とした。
【方法】
整形外科的な既往がない健常成人女性13名(年齢21.8±0.6歳,身長158.3±4.1cm,体重51.5±3.4 kg)を対象とした。課題は30cmの高さからの両脚Drop jumpを“垂直に,できる限り高く跳ぶ”こととし,3回の成功試行を解析対象とした。
データ計測には8台の赤外線カメラによる三次元動作解析装置(VICON社製,200Hz)と床反力計(KISTLER社製,1000Hz)を用いて,35個の反射マーカの三次元座標と床反力を記録した。剛体リンクモデルはPlug in gait full body modelを用い,身体重心位置の算出を行った。床反力は体重によって標準化した。
従属変数を標準化した床反力の垂直成分,独立変数を垂直方向の身体重心位置変位とした単回帰分析を実施し,その係数をLeg stiffnessとした。床反力の垂直成分が10Nを超えた時点を接地として同定し,接地から床反力の最初のピークまでの接地初期をLeg stiffnessの算出区間とした。
パフォーマンスを表す指標として,跳躍高と跳躍高を接地時間で除したDrop jump index(DJ index)を算出した。統計処理には,Pearsonの積率相関係数を用いてLeg stiffnessとパフォーマンスの相関性の解析を実施し,有意水準は5%とした。
【結果】
Leg stiffnessの算出に際してR2の平均は0.92であった。Leg stiffnessと跳躍高の関係性は有意な正の相関(r=0.587,p<0.05)を認めた。一方,DJ indexにおいては跳躍高と正の相関(r=0.493)を認めたが,有意水準は満たさなかった。

【考察】
本研究の結果,Leg stiffnessのR2の平均は0.92と高値を示し,単回帰分析によるLeg stiffnessの算出は妥当であったと判断できる。Leg stiffnessと跳躍高の関係性において,有意な正の相関を認めたことは接地初期のLeg stiffnessが跳躍高に一定の関連性を持ったことを示している。このことから,Drop jumpにおいては接地初期のLeg stiffnessが高値を示すことが高い跳躍高につながることが示唆される。DJ indexとの相関においては有意水準を満たさなかった。これは,今回の課題要求が“垂直に,できる限り高く跳ぶ”ことであったため,短い時間での力発揮の程度を表すDJ indexとLeg stiffnessとの関係性が跳躍高と比較して希薄だった可能性を示す。
一方で,最大努力を要求する動作においてLeg stiffnessが低値を示した状態は,外的な運動エネルギーを十分弾性エネルギーとして蓄積できず,非保存力として筋や腱といった下肢の構造体に吸収された状態であった可能性が高い。つまり,Drop jumpのパフォーマンスが低い場合,Leg stiffnessも低値を示すため,負荷が高い課題においてパフォーマンスが低くなるだけでなく,下肢の障害リスクが高まる可能性があるといえる。
【理学療法学研究としての意義】
Drop jumpのパフォーマンスを評価することは簡易的にLeg stiffnessを評価することにつながる。このことから,Drop jumpのパフォーマンス評価は障害予防や競技復帰に向けた下肢の機能的な評価として有用なツールであることが示唆される。