第50回日本理学療法学術大会

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2015年6月6日(土) 11:25 〜 12:25 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0535] 明所における健常者の視覚的垂直認知について

平山量美, 西村由香, 岡安萌莉, 菅原菫, 二口央菜 (北海道文教大学人間科学部理学療法学科)

キーワード:垂直認知, 視覚指標, 明所

【はじめに,目的】
垂直認知には,自覚的視性垂直位(Subjective Visual Vertical:以下,SVV)と自覚的身体垂直認知(Subjective Postural Vertical:以下,SPV)がある。Karnathらは,脳損傷Pusher症候群の患者のSVV偏位は小さいが,SPV偏位は大きいことから,Pusher症候群に対して視覚的垂直指標を提示する治療アプローチを提案した。視覚的手がかりを提示するときの環境は明所である。従って,SVV検査は通常暗所で実施するが,明所での視覚的垂直認知についても知る必要がある。また,視覚指標の違いによって視覚的垂直認知に違いが生じる可能性がある。そこで,本研究は明所における形状と角度の異なる視覚指標の垂直認知について調べることを目的とした。
【方法】
対象は裸眼・矯正眼鏡・コンタクトを含む健常成人23名(男性5名,女性18名,平均年齢21.1歳)とした。本研究はPC,スライド,プロジェクターを使用し,明所での簡便な視覚的垂直認知の検査方法を試案した。対象者はスクリーン前方に自然立位となり,スクリーン下の視界を無くすために作製した箱型段ボールを把持した。視覚指標は対象者の目の高さにプロジェクターで投影し,対象者は提示された角度が垂直か否かを判断し,「はい」か「いいえ」で返答した。視覚指標の形状は短細(0.2×10cm),長細(0.2×100cm),短太(2×10cm),長太(2×100cm)の4つのタイプとした。傾斜角度は時計回りを(+),反時計回りを(-)とし,0°~±5°の範囲で,0°を2回,1度単位で他の角度を各1回の11種,12回を同順で1セットとした。提示角度間には,黒いスライドを2秒および10秒間提示した。また各形状の条件1セットの間には1分間の休憩をとった。検査結果から,1)垂直と判断した角度の度数,2)垂直か否かの判断の正答率,3)垂直と判断した角度の平均値,4)垂直と判断した角度の大きさを表した絶対値,5)垂直と判断した最大角度と最小角度の差を偏位幅として算出した。加えて,SVV検査装置を用いた暗所での検査を実施した。垂直と判断した角度の度数を算出し,その形状による垂直判断の違いはクラスカル・ワーリス検定を用いて調べた。視覚指標の4形状とインターバル2条件における正答率,平均値,絶対値,偏位幅を二要因の対応のある二元配置分散分析を用いて比較した。明所での垂直認知検査結果とSVV検査装置を用いた暗所でのSVVとの関係をSpearmanの順位相関係数を用いて調べた。
【結果】
対象者が垂直と判断した角度は0°~±3°で,±4°,±5°では垂直と判断しなかった。視覚指標の形状による有意差はなかった。正答率は8割を超えたものの,インターバル10秒では短太(85.7%)は,短細(90.7%),長細(92.7%),長太(93%)より不良で有意差があった(p<0.05)。インターバル2秒でも同様な結果が得られた。垂直と認知した角度の平均値は,インターバル10秒で短太(-0.06°),短細(-0.06°),長細(-0.06°),長太(-0.07°)のどの形状でも有意差はなかった。2秒でも同様の結果であった。絶対値はインターバル10秒では短太(0.53°)は短細(0.39°),長細(0.24°),長太(0.25°)と有意差があった(p<0.05)。偏位幅は短太(1.96°)が短細(1.3°),長細(0.63°),長太(0.67°)と有意差があった(p<0.05)。インターバル2秒でも同様の結果が得られた。SVV検査装置を用いたSVVは平均値-0.26°,絶対値1.09°,偏位幅1.27°であった。明所での検査とSVVとの関係では,平均値は短細(r=0.53,p<0.05)と,偏位幅は長太(r=0.47,p<0.05)と相関関係があった。
【考察】
明所にて,健常成人は0°~±3°までの垂直視標を垂直と判断する可能性があることが分かった。垂直判断の正答率,絶対値,偏位幅の結果から視覚指標の形状によって垂直認知に違いが生じたため,明所にて視覚指標を手がかりに垂直位を認知してもらうには,形状を大きめかつ長いものを使用したほうが効果的と考えられた。本研究では垂直線の形状を変えて行ったが,他の異なる形状や物体でも垂直認知に違いが生じる可能性がある。また,明所での検査とSVV検査装置との相関結果から両者の関係を明確にすることはできなかった。明所と暗所,視覚指標などの環境による視覚的垂直認知についてさらに検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
明所での視覚指標の形状による垂直認知の違いを知ることは,視覚手がかりを利用した理学療法における視覚提示物を選択する際の一助となる。