第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

ポスター

ポスター2

変形性膝関節症1

Sat. Jun 6, 2015 11:25 AM - 12:25 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0551] 内側型変形性膝関節症患者の歩行時の内側広筋における筋機能特性

―表面筋電図を用いた量的および質的視点からの解析―

深井健司1, 羽田清貴1,2, 加藤浩2, 奥村晃司1, 徳田一貫3, 杉木知武1, 川嶌眞人4 (1.川嶌整形外科病院リハビリテーション科, 2.九州看護福祉大学大学院看護福祉学研究科健康支援科学専攻, 3.広島大学大学院医歯薬保健学研究科博士課程後期, 4.川嶌整形外科病院整形外科)

Keywords:内側型変形性膝関節症, 内側広筋, EMGパワースペクトル解析

【目的】歩行時の筋機能特性として,荷重応答期では大腿四頭筋,特に内側広筋(以下,VM)の遠心性収縮により膝関節屈曲を制御し,膝関節への衝撃吸収機能を担っていることが報告されている。この時期の内側型変形性膝関節症(以下,膝OA)患者のVMに関して,量的および質的視点から重症度別に筋電図学的解析を行った報告はない。そこで本研究の目的は,重症度別の膝OA患者の歩行時のVMの筋機能特性について明らかにすることである。
【方法】対象は,当院で膝OAと診断された女性15例16膝であった。診断時に撮影されたX線画像よりK-L分類を用いて重症度を評価した。そこから,gradeI・IIの7例7膝(平均年齢62.2±7.4歳)を軽度膝OA群,gradeIII・IVの8例9膝(平均年齢70.0±7.6歳)を重度膝OA群に群分けした。比較のために,過去に膝関節痛の経験を有さない健常女性9例9膝(平均年齢56.2±5.6歳)を対照群とした。課題動作は,快適速度での10m歩行とした。足底部(踵部・母趾)にフットスイッチ圧センサーを貼付し,1歩行周期を同定した。計測は1人当り3回実施し,歩き始めから5歩目以降のデータを解析対象とした。EMGの計測は,EMGマスターKm-Mercury(メディエリアサポート企業組合社製)を用いて,サンプリング周波数1kHzとした。被検筋はVMとし,計測肢は対照群は右側,軽度及び重度膝OA群は患側とした。積分筋電図(以下,IEMG)解析は,任意に取り出した3歩行周期分のデータを1歩行周期100%に時間正規化し,60%までを立脚期とした。その後,歩行周期5%毎に加算平均し,膝関節伸展の等尺性最大随意収縮時の筋活動にて,相対化した値(以下,%IEMG)を算出した。また,EMGパワースペクトル解析には,Gabor関数を用いたwavelet周波数解析(12.5-200Hz)を行い,解析区間はIEMG解析と同区間とした。そして,周波数帯域を低周波帯(以下,LFB)20-45Hz,高周波帯(以下,HFB)81-200Hzの2つに分類し,VMのLFBとHFBのパワー密度の総和(total power)に対するHFBのパワー密度比(HFB/total power ratio)をHTRと定義し算出した。統計学的分析には,IBM SPSS Statistics22を使用し,以下の統計処理を実施した。歩行時の立脚期間の%IEMGとHTRの群内の差は多重比較法,群間の差は2標本t検定を用いて検定した。また,共変量を年齢,固定因子を群,従属変数を%IEMGとHTRとし,共分散分析を行い有意水準は5%未満とした。次に,対照群に対する筋活動の時空間的関連性を捉えるために,相互相関係数(以下,CC)を用いて各膝OA群の立脚期の%IEMGとHTRの波形の類似性について検討した。再現性,信頼性の評価としては桑原らの基準に従い,CCが0.9以上を優秀,0.8以上を良好,0.7以上を普通,0.6以上を可能,0.6未満を再考とした。
【結果】%IEMGは,3群内での比較において,それぞれ歩行周期の5%に比べて20%で有意(p<0.05)に減少した。3群間での比較において,歩行周期の全区間において対照群と軽度膝OA群の間には差は認められなかった。重度膝OA群は対照群と比較して歩行周期の15-40%で有意に高値(p<0.05)を認め,軽度膝OA群と比較して20-25,35%で有意に高値(p<0.05)を認めた。HTRは,3群内の比較において,対照群の歩行周期の0%に比べて15%で有意(p<0.05)に増加した。3群間に差は認められなかった。%IEMGのCCは軽度及び重度膝OA群でそれぞれ,0.85,0.74であり,軽度OA群が0.8以上で“良好”であった。また,HTRのCCは軽度及び重度膝OA群でそれぞれ,0.80,0.59であり,軽度OA群が0.8以上で“良好”であった。
【考察】%IEMGにおいて,対照群と軽度OA群の間に差が認められないことはLynseyらの先行研究の結果と一致した。重度膝OA群は他2群と比較し,より高い相対的筋活動量が要求されることが示された。対照群のHTRは歩行周期の0-15%で有意に増加したが,%IEMGは有意に減少した。0-15%は荷重応答期に相当するため,VMには遠心性収縮が要求され,運動単位の動員に比し発火頻度の比率が高まるため%IEMGは減少し,HTRが増加したことが考えられる。CCは膝OA群の重症度の進行に伴い時空間的関連性の逸脱を示した。以上のことから,軽度膝OA群は対照群と比較して,一見波形の類似性を示すが荷重応答期において筋の質的変化が生じ,重度膝OA群は筋の量的および質的変化が生じていることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究では,膝OA患者に対し歩行時の荷重応答期のVMの筋機能改善を目的とした理学療法を行う上で,膝OAの重症度に応じて筋機能改善を図ることが重要であることを明らかにしたことに意義がある。