第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

変形性膝関節症2

Sat. Jun 6, 2015 11:25 AM - 12:25 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0554] 変形性膝関節症患者に対する人工膝関節全置換術前後の歩行時脊柱屈曲角度の変化

桑原渉1, 出家正隆2, 藤田直人2, 島田昇3, 浅枝諒1, 河野愛史1, 寺井千晶1, 岡本卓也1, 渡邊帆貴1, 越智光夫4 (1.広島大学大学院医歯薬保健学研究科, 2.広島大学大学院医歯薬保健学研究院運動器機能医科学, 3.広島大学病院診療支援部リハビリテーション部門, 4.広島大学大学院医歯薬保健学研究院整形外科学)

Keywords:変形性膝関節症, 動作解析, 脊柱

【はじめに,目的】
変形性膝関節症(以下,膝OA)は,膝関節における関節軟骨の退行性変化により疼痛及び機能障害を呈する疾患である。膝OA患者のうち,保存療法の無効な症例または変形が進行した末期症例には,人工膝関節全置換術(以下,TKA)が広く行われている。一方,膝OA患者のうち54.6~57.4%は腰痛を有すると報告されている。膝OA患者において膝関節伸展制限と腰椎前弯角の減少との間に相関があるとされ,膝OA患者における脊柱アライメントが注目されてきている。しかし,いずれも静止立位時のみを評価した報告であり,膝OA患者における歩行時の脊柱アライメントやTKA術前後での脊柱アライメントの変化に着目した研究は,我々が渉猟した限り見当たらない。そこで本研究では,膝関節関節可動域(以下,ROM)と歩行時の脊柱アライメントの関係を調べ,TKA前後での脊柱アライメントの変化を比較することで,膝関節運動の変化が歩行時の脊柱アライメントに影響を与えるか明らかにすることを目的とする。
【方法】
対象は内側型膝OAと診断され,TKAを施行した患者10名であった。全対象に明らかな腰椎の有症状を認めなかった。1名の医師により術前・術後1年の膝関節ROMが計測された。課題動作は被験者自身の至適速度での8m歩行とし,術前・術後1年にそれぞれ歩行解析を行った。計測には三次元動作解析装置(VICON612)と床反力計(AMTI)を用いた。Plug-in-Gaitを参考に,合計39箇所に貼付した反射マーカーの座標を記録した。解析区間は術側下肢の踵接地から爪先離地までの立脚期とし,100%に正規化した。解析データは静止立位時からの相対的な脊柱角度の変化量を求めた。算出項目は①踵接地時の脊柱屈曲角度,②脊柱最大屈曲角度,③脊柱最小屈曲角度の3項目とした。統計学的解析として,術前の膝関節ROMと歩行時の脊柱屈曲角度の相関関係にはSpearmanの順位相関係数を,術前と術後1年の膝関節ROM・脊柱屈曲角度の比較にはWilcoxonの符号付き順位検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
術前・術後1年での膝関節ROMはそれぞれ屈曲120.0±15.5°,117.5±11.6°,伸展-8.5±6.3°,-1.0±2.1°であり,伸展ROMは有意に改善した(p=0.015)。術前に伸展ROMが0°の対象は3名であった。術前の膝関節ROMと歩行時の脊柱屈曲角度との間には有意な相関を認めなかった。本研究ではTKA施行による膝関節伸展ROMの改善が歩行時の脊柱アライメントに与える影響を検討したため,術前の伸展ROMが0°であった3名を除いた7名で術前・術後1年の歩行時脊柱屈曲角度の変化を比較した。術前・術後1年それぞれで,踵接地時の脊柱屈曲角度は6.1±2.1°,1.6±2.7°(p=0.028),脊柱最大屈曲角度は6.6±4.3°,2.6±2.2°(p=0.028),脊柱最小屈曲角度は4.3±4.6°,0.2±2.0°(p=0.028)で有意に伸展方向に変化した。
【考察】
本研究の結果では,術前の膝関節ROMと歩行時の脊柱屈曲角度との間に有意な相関を認めなかった。本研究の対象は腰椎の有症状を認めなかったことが影響しているかもしれない。またHip-Spine syndromeに代表されるように,脊柱の運動は他関節からの影響を大きく受けるため,膝関節のみではなく他関節の影響も受けた可能性がある。
一方,術前に膝関節伸展制限が生じていた対象は,術前と比較してTKA術後1年において,歩行時の脊柱屈曲角度が伸展方向に変化していくことが示された。TKA術前においては,膝関節屈曲拘縮により,歩行時において正常よりも重心が後方偏位するため,代償的に脊柱が屈曲することが考えられる。TKA術後においては,膝関節伸展ROMが改善されたため,歩行時の脊柱屈曲角度が減少したと考えられる。脊柱屈曲位により生じる背筋群由来の腰痛に関する報告も散見され,TKAにより脊柱屈曲角度が減少することから,TKAの施行または膝関節屈曲拘縮の改善は,膝OA患者における腰痛軽減の一つの要因となる可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,術前,膝関節屈曲拘縮が生じていた膝OA患者において,TKA術後1年において脊柱屈曲角度が減少することを示したことである。膝OA患者に多い愁訴である腰痛に対する理学療法介入において,膝関節の機能,特に膝関節伸展ROMに着目することが重要であることが示唆された。