第50回日本理学療法学術大会

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ポスター2

変形性膝関節症3

2015年6月6日(土) 11:25 〜 12:25 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0566] 補高による脚長差が歩行時の外部膝関節内反モーメントに与える影響

楠大吾1, 土居誠治2, 尾坂良太1, 青木健輔1, 渡部里佳2, 石田裕也1, 山下紗季1, 松下春菜2, 白石恵資1, 長野友美1 (1.愛媛十全医療学院附属病院, 2.愛媛十全医療学院)

キーワード:脚長差, 床反力, 外部膝関節内反モーメント

【はじめに,目的】
臨床上脚長差を有し,同時に内側型変形性膝関節症(以下,膝OA)の既往がある症例を担当する機会は多い。一般的に脚長差3cmまでは外観上の異常は認められないとされるが,代償による跛行は見られる。そのような症例に対して補高を行うことがあるが,現状はアライメントや疼痛,歩容,患者の主観的な評価により最終的な補高の実施,高さの調節を決定している。脚長差に関する先行研究では表面筋電図による筋活動や,股関節モーメントなどの観点からの報告は多いが,変形性膝関節症の発症と進行に関与する外部膝関節内反モーメント(以下,KAM)の観点での報告は少ない。よって脚長差が及ぼすKAMへの影響を内部股関節外転モーメント,床反力成分などの運動力学的な分析により明らかにすることが本研究の目的である。
【方法】
対象は整形外科的疾患,脚長差のない健常男性14名(平均年齢20.1±1.7歳,平均体重61.4±5.8kg,平均身長167.4±3.8cm)とした。計測は靴底に補高材(EVA素材)を貼付し,脚長差無し,1cm,2cm,3cmの4パターンで,7mの自由歩行を各5回実施した。また赤外線カメラ6台を用いた三次元動作解析装置VICON MX(Vicon Motion Systems社,Oxford,英国)と床反力計2枚(AMTI社製)を使用した。床反力計を自由歩行の中で自然に踏めるように練習して実施した。解析は歩行解析ソフトPolygonを使用して,両側立脚初期のKAM最大値及び同時期の内部股関節外転モーメント,床反力鉛直成分(以下,Fz1),床反力内向き成分(以下,Fx1)と,立脚中期のKAM最低値及び同時期の床反力鉛直成分(以下,Fz2)と,立脚後期のKAM最大値及び同時期の床反力鉛直成分(以下,Fz3)を算出した。また任意に5歩行周期を抽出し,5回の平均値を採用した。統計学的解析として補高側,非補高側の比較はMann-whitneyU検定,脚長差による同側の4群間の比較にはFriedman検定後,多重比較検定にSteel-Dwass法を用いた。いずれも有意水準は5%未満とした。
【結果】
左右の比較では立脚初期のKAMはわずかに非補高側で増加傾向,補高側で減少傾向は見られたがいずれも有意差は認められなかった。またKAMの立脚中期の最低値,立脚後期の最高値でも有意差は認められなかった。内部股関節外転モーメントは0cm,1cmで有意差は認められず,2cm補高側:0.75±0.22 Nm/kg,非補高側:0.90±0.14 Nm/kgで有意に非補高側が高く(p<0.05),3cm補高側:0.74±0.20 Nm/kg,非補高側0.95±0.15 Nm/kgで有意に非補高側が高かった(p<0.01)。Fx1では0cmで有意差は認められず,1cm補高側:0.040±0.013N/BW,非補高側:0.060±0.015N/BW,2cm補高側:0.040±0.014N/BW,非補高側:0.063±0.015N/BW,3cm補高側:0.038±0.013N/BW,非補高側:0.071±0.018N/BWでいずれも有意差が認められた(p<0.01)。Fz1,Fz2,Fz3では有意差は認められなかった。同側の脚長差による4群間の比較では補高側では有意差は認められず,非補高側Fx1の0cm,3cm間でのみ有意差が認められた(p<0.05)。
【考察】
KAMは床反力ベクトルの大きさとレバーアームの長さにより決定される。菅原らは床反力鉛直成分の第1ピーク値は正常歩行と比較し脚長差2cm,3cmで非補高側が有意に高いとしており,KAMのピーク値が増加するのではと予測したが,立脚初期,立脚中期,立脚後期ともKAMに有意差は認められなかった。またKAMピーク時のFz1では有意差はなかった。これはKAMピーク時期と床反力鉛直成分のピーク時期が同時期ではないということである。また内部股関節外転モーメントとFx1に有意差が認められた。これは重心が補高側の立脚期に高くなり,非補高側への移行時に下降し加速度が増すため外部股関節内転モーメントに対応し内部股関節外転モーメントは増加,また補高側から非補高側への重心動揺をFx1の増加により制御していると考える。本研究の限界として健常人での補高による脚長差であることや筋力低下,FTAの増加,膝関節の動揺性はなかったことが挙げられる。そのためKAMは増加しなかったと考えるが,山田らは膝OA患者では立脚期の外側から内側への床反力の移動幅の大きさがKAMと有意な相関関係を示したとしている。脚長差により非補高側のFx1が増加したことは脚長差を有する膝OA患者での短脚側のKAMを増加させる要因となると考える。
【理学療法学研究としての意義】
脚長差によるKAMピーク時の床反力成分Fx1の増加を提示したことで,短脚側膝関節内側コンパートメントへの運動力学的な負担を考え,補高の介入,予測を行う一助となる意義のある研究である。