第50回日本理学療法学術大会

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ポスター2

変形性膝関節症4

2015年6月6日(土) 11:25 〜 12:25 ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0572] 人工膝関節全置換術は如何にQOLに影響するのか

―術前後の身体機能・身体能力に着目した検討―

小宮山潤1, 藤本静香1, 藤本修平2, 太田隆1, 金丸晶子1 (1.東京都健康長寿医療センター, 2.京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻)

キーワード:変形性膝関節症, 退院時指導, QOL

【はじめに,目的】
変形性膝関節症(膝OA)で人工膝関節全置換術(TKA)を受けた後,生活の質(QOL)の向上を目指して理学療法を実施している。退院後QOLが術前より向上するためには,術直後の理学療法に加え,退院後も継続して身体機能および身体能力(身体機能・能力)の改善を図る必要がある。どのような身体機能・能力に着目して退院時指導を行えば良いかは,個々の療法士の判断に任せられていることが多い。入院中に介入した内容で継続指導しているのが現状である。術直後では,急性期の炎症が残存しているため,関節機能などを中心に介入しており,QOLにまで視点が広がっていない。退院後QOLの向上を目的とするならば,入院中に介入する身体機能・能力と退院後に介入するべきものの相違点・類似点を把握することは有用である。本研究の目的は,退院1ヶ月後のQOL向上に,入院中および退院後の身体機能・能力がどのように関連しているかを検討することとした。
【方法】
対象は2013年7月~2014年8月の間に,当院でTKAが施行された膝OA患者25名(男性4名,女性21名,平均年齢77.6歳)。包含基準は,術前で16m以上の連続歩行が可能,かつ,Mini Mental State Examinationが22点以上とした。除外基準は,膝関節痛以外の理由で日常生活活動が著しく阻害されている場合,転帰先が自宅以外の場合,術中・術後に重篤な合併症を呈した場合とした。評価項目は,QOL,身体機能・能力とした。QOLは,日本版膝関節症機能評価尺度(JKOM)を用い,自記式調査法にて術前および退院1ヶ月後に評価した。退院後1ヶ月から術前のJKOM総得点を除した変化量(JKOM総変化量)およびJKOMの4つの下位項目(‘膝の疼痛やこわばり’,‘日常生活の状態’,‘普段の活動’,‘健康状態’)の得点変化量を用いた。身体機能は,両側膝関節の可動域,筋力,疼痛の3項目,可動域はゴニオメーター(OG技研製)を用い5度刻みで評価,膝関節60度屈曲位における等尺性筋力を測定(ミナト医科学社製COMBIT)し,下肢筋力健患比を解析に用いた。歩行中に感じる膝関節痛の程度をVisual Analogue Scale(VAS)を用いて測定し,疼痛評価とした。身体能力は,Timed Up and Go Test(TUG),10m歩行速度の2項目とした。身体機能・能力の評価は,術前,退院時,退院1ヶ月後の3点で実施。身体機能・能力については,1)退院時から術前の値を除した入院中変化量,2)退院1ヶ月後から退院時の値を除した退院後変化量を算出した。基本情報として,性別,年齢,Body Mass Index,術後経過日数を使用した。統計解析は以下のように実施した。重回帰分析(ステップワイズ法)を用い,JKOM総変化量に影響する入院中および退院後の身体機能・能力の変化量を検討した(従属変数はJKOM総変化量,独立変数は①身体機能・能力の入院中変化量と基本情報,②同じく退院後変化量と基本情報)。JKOMの下位項目の得点変化量に影響する身体機能・能力の変化量についても,重回帰分析を用いて検討した(従属変数はJKOMの各下位項目の変化量,独立変数は①身体機能・能力の入院中変化量と基本情報,②同じく退院後変化量と基本情報)。有意水準は5%とし,解析にはRver2.8.1(CRAN)を用いた。
【結果】
JKOM総変化量に関連する身体機能・能力は,入院中では術側の疼痛変化(標準化回帰係数β=0.44)のみであり,退院後はどの評価項目も抽出されなかった。一方,JKOMの下位項目変化量の‘膝の疼痛やこわばり’を従属変数にした場合は,入院中の術側のVAS変化量(β=0.52)が抽出された。JKOMの‘日常生活の状態’が従属変数の場合は,入院中のTUG変化量(β=0.42)が抽出された。JKOMの‘健康状態’が従属変数の場合は,退院後の歩行速度変化量(β=-0.40)のみが抽出された。
【考察】
JKOM総変化量に関連する身体機能・能力に影響するものとして,入院中の術側疼痛変化が抽出されたのは,手術効果と言える。JKOMの下位項目では,入院中はTUG・退院後は歩行速度が関連していたことから,身体機能・能力の中でも特に移動能力に関連する項目が術後のQOLを押し上げると推察された。今後は,退院時指導内容に移動能力向上を実感できるプログラムを組み入れることで,退院後の自主練習の効果が促進される可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
TKA術後退院時に指導するリハビリテーションとして,入院中に主に介入する身体機能・能力と相違点がある可能性を示唆した点で意義がある。