第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター2

変形性膝関節症4

Sat. Jun 6, 2015 11:25 AM - 12:25 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P2-A-0578] 人工膝関節全置換術後の疼痛の回復過程と退院時健康関連QOLの関係

渡利太, 前川美幸 (独立行政法人国立病院機構福山医療センター)

Keywords:人工膝関節全置換術, 疼痛, 健康関連QOL

【はじめに,目的】人工膝関節全置換術(以下TKA)は,変形性膝関節症等の除痛目的で実施され,疼痛や膝関節機能,ADL,QOLを改善すると報告されている。ただ臨床では術後の理学療法において,術創部周囲の疼痛により関節可動域運動や歩行練習,ADL練習などが影響を受ける症例を少なからず経験する。一方,術後の疼痛とQOLの関係については明らかではない。本研究の目的は,TKA術後の疼痛の回復過程と退院時の健康関連QOLの関係を明らかにすることである。

【方法】対象は,当院において2012年8月から2013年7月までの1年間にTKAを受けた変形性膝関節症の患者50名である。年齢は76歳,男性12名,女性38名,術後入院日数は25日であった。当院ではTKA後に4週間の入院リハビリテーションプログラムを実施しており,必要に応じて外来での通院リハビリテーションを実施している。また入院中,術後2週間は土日祝日を含む毎日実施しており,それ以降もリハビリテーションの進捗具合によって休日も実施している。入院リハビリテーションプログラムは,術後2日目から理学療法,作業療法ともに介入し1日2回(午前,午後)実施している。関節可動域運動は,疼痛に応じて術後2日目から退院まで毎回実施する。歩行練習は,術後2日目から平行棒内で開始し,術後2週目(術後7日目)からは固定式歩行器を使用,術後3週目(術後14日目)からはT字杖を2本使用し,術後4週目(術後21日目)からはT字杖を1本使用して実施している。また歩行形態の変更は疼痛や歩行能力によって予定が前後することがある。退院に向けたADL練習は,術後4週目より実施している。本研究の評価項目は疼痛と健康関連QOLである。疼痛の評価は,「0:痛みなし」から「10:これ以上ない痛み」までの11段階に分け,疼痛の程度を数値で表すNRSを用いて,安静時と歩行(動作)時の術創部周囲の疼痛を測定した。健康関連QOLは,36項目の質問からなる自己報告式の健康状態調査表のSF-36を用いた。測定時期は,疼痛が術前日と術後2日目から退院までの毎日,健康関連QOLは術前日と退院時に実施した。統計的検定は,術後の疼痛の回復過程と退院時の健康関連QOLとの関係を明らかにするため,術後2日目から退院までの安静時,歩行時の疼痛と退院時のSF-36のうち,下位尺度の「身体の痛み(BP)」との関係を見るために相関分析を行った。また術前後の経過をみるため,疼痛(安静時,歩行時)と健康関連QOLの術前と退院時の値の比較を対応のあるt検定にて検討した。有意水準はp<0.05とした。

【結果】疼痛(NRS)について,術前は安静時1.24,歩行時4.58,術後最大時は術後2日目で安静時3.15,歩行時4.7,以降退院まで低下して退院時は安静時0.8,歩行時1.52であった。術前と退院時の比較では,歩行時において有意に低下がみられた(p<0.01)。健康関連QOL(SF-36)について,術前はPF:45,RP:43,BP:29,GH:51,VT:45,SF:60,RE:53,MH:56,退院時はPF:44,RP:37,BP:39,GH:54,VT:51,SF:62,RE:45,MH:59であった。術前と退院時の比較では,各下位尺度間での有意な差はみられなかった。疼痛の回復過程と退院時の健康関連QOLの関係について,安静時では術後9日目(r=-.727,p<0.05),術後15日目(r=-.766,p<0.05),術後16日目(r=-.871,p<0.05),歩行時では術後8日目(r=-.464,0.05),術後9日目(r=-.433,p<0.05)で有意な負の相関関係がみられた。また歩行時より安静時においてより高い相関関係がみられた。

【考察】本研究の結果より,退院時の健康関連QOLは術後8,9,15,16日目の疼痛と関係する可能性が示唆された。術後8,9日目は,リハビリテーションプログラムにおいて歩行形態が平行棒内から固定式歩行器使用に変更して数日後である。また術後15,16日目は,同様に固定式歩行器からT字杖を2本使用に変更して数日後である。このことから歩行形態変更に伴い歩容や歩行量が変化したことによる疼痛が退院時の健康関連QOLに影響を及ぼしている可能性が考えられる。

【理学療法学研究としての意義】TKA後の疼痛の回復過程が退院時の健康関連QOLに関係している可能性が示唆された。また歩行時より安静時の疼痛がより強く関係していることが明らかになったことは,臨床における疼痛管理の重要性か再確認できた。